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悪魔の蛮餐  作者: 龍崎 明
序編 魔の遊戯
5/42

5.妙に詩的な盗賊っているよな

 ローゼンクロイツァー帝国、某所、街道近辺の森。


「此処ですか。根城は……」


「まず降りろよ!目立ってしょうがねぇわ!」


「あなたが降りたいだけでしょう。心配しなくとも、隠蔽魔術は既に発動させています。そんなことよりも根城の発見に協力してください」


「だから降ろせつったんだよ!俺の霊感は嗅覚に重なってんだ!」


「そうでしたね。降下しなさい」


 火喰鳥イグニッション・ラプチャーの高速飛行により半日も掛からずに現場上空に到着したスターとディアブロは、そんな会話の後に下降していく。


 霊感とは、魔力感知である。人類種であれば、五感と同じく普遍的に有している感覚だが、一般には共感と言った方がわかりやすいだろう。多くの場合、共感は不確かな感覚だが、魔術師はこれを訓練によって他の五感に擬似的に落とし込み明確化させる。極めれば読心が可能ともされているが、あくまで理論上の域を出ない話だ。

 肝心の感知している魔力は、これを受けて精神エネルギー、感情や欲望などと形而上のエネルギーのように説明されるが、未だ完全な解明には至っていない。


限定解除ヨシ。しかし、嗅覚とは完全に犬ですね」


「ぐっ、テメェ……!言ってくれるじゃねぇか!そもそもそのキーワードは何だよ!?澄ました顔で変態趣味なんじゃねぇの?」


 地上に降りてディアブロを簀巻きから解放すると、スターが徐ろに口を開いた。ディアブロは馬鹿にされたと感じたか、『貪食の縛鎖(グレイプニル)』操作時のキーワードに言及して反撃した。


 しかし、スターはディアブロの言う澄まし顔で口を開く。


「違います。元よりそのような仕様なのです。神代にてその縛鎖が封じていたのは、神喰らいの悪魔。その悪魔は巨狼であったそうですから、仕方のないことでしょう」


「あっ、そ……」


 ディアブロはがっくりとと項垂れた。狼は犬じゃねぇよ、と口の中で呟くもそれがスターの耳に届くことはなかった。


「そんなことよりも仕事をしてください。隠蔽魔術も万能ではありませんから降下しましたが、私の霊感は視覚ですので森では見通しが悪いんです」


「はいはい、わかりました」


 スターの催促にディアブロは投げやりに返答しながらも、すんすんと鼻を鳴らした。


「こっちだ。甘ったるい臭いがプンプンしやがる」


 ディアブロはそう言いながら無造作に歩き出した。スターもそれに黙って続いて行く。


 やがて辿り着いたのは岩壁。一見してなんのことはない自然風景だった。


「拙い幻術ですね」


「そうかね。で、殺していいのか?」


「運ぶのも手間ですから構いません。しかし、人質がいた場合は保護しなければなりません」


「乗り込むか?」


「いいえ、待ちましょう。心配しなくともすぐに出てきますよ。私たちは良い餌に見えていることでしょうから」


 スターの言葉に、ディアブロは鼻を鳴らして了承とした。


 やがて岩壁の一部が揺らぎ、複数の人影が現れる。


 誰も彼も下卑た笑みに染まった盗賊だ。


「きひひひ、おんやぁ、道にでも迷ちまったかい?運の悪いこったなぁ。どれ俺たちが道案内をしてやろう。地獄までの道案内をなぁ!」


 盗賊の一人が馬鹿にした様子で、スターとディアブロに声を掛けた。

 最後の一言に合わせて、他の面々が下品に大笑した。


「死ね!」


「 」


 声を掛けた盗賊の眼前にて拳を振りかぶるディアブロ。盗賊は何が起こっているのかを理解する間もなく、殴殺された。


 打っ飛ばされた盗賊が岩壁にその身を叩きつけられる。ずるずると地面に横たわる。

 殴打されたのは顔面のようで、面頬の皮が剥け骨が砕けている。無惨な死体だった。


「あぁ、加減しすぎたか?カタチが残ってるわ」


「テメェ!?」「なにしやがる!?」「ふざけんじゃねぇぞ!?」


 いきなりのことに動きの止まっていた他の盗賊たちが、ディアブロの呟きを切っ掛けに動き出した。


 盗賊たちに連携なんて高尚なものはないが、ばらばらに死角を突くようにディアブロに襲い掛かる。


「遅い」


 ほとんど時間差のない連打が肉を叩く音。


 距離の遠かった盗賊たちはその音だけを認識できた。


 ディアブロに襲い掛かった盗賊たちが、顔貌を凹ませて斃れ伏していた。


「あれ?やっぱカタチ残ってんじゃん。俺って弱ってる?」


「何のための縛鎖だと思っていたのですか?ただの拘束具ではないんです」


 自身の起こした結果に首を傾げるディアブロに、スターがその答えを示した。


 その声に、盗賊たちはようやくもう一人の存在を思い出す。


「へへ!」


 下卑た笑声とともに駆ける盗賊。狙いは、スターだ。


「まだ活路があると思えるとは、盗賊というのはどうしてこう愚かなのでしょう?」


 疑問とともにスターは指を弾いた。乾いた音とともに、彼女のそばの宙空に瞬時に展開される魔法陣。赤く輝く円陣より出ずるは、火炎弾。


「魔術師!?」


 今更に驚愕する盗賊を、赤い魔弾は容赦なく穿ち爆ぜた。


「盗賊に通じるとは思えませんが、速やかな投降をおすすめします。せめて、楽に死にたいでしょう?」


 淡々と至極どうでもよいことのように、可憐なる女魔道士が実質的な死刑を宣告した。

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