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悪魔の蛮餐  作者: 龍崎 明
中編 命の秘宝
40/42

40.帝国の杖

 ローゼンクロイツァー帝国、ダンスカー辺境伯領、領都コノート。


 秘奥騎士と彼らに保護されることとなった姉弟は、女魔道士の幻獣と魔女が貸し出した魔獣の背に乗って、姉弟の住む小村を抱える領地の中枢に飛んだ。


 飛行という移動手段は、多くの障害を排して最短で目的地に辿り着くことを可能とするが、地を這う人の身で大空を自在に舞うことは困難だ。琥珀の秘宝が膨大な魔力を漏出し、その存在を明らかにしてしまう状況で長々と空を飛び、接敵することは避けるべきことであった。


 そのために女魔道士が定めた進路。それが領都コノートである。


 領都には当然、領主とその一族であるダンスカー家が住み、女魔道士は『帝国の杖』と名高きこの一族を帝国臣民として信用して頼ることとしたのである。

 それは姉弟の安全確保のためであり、さらなる速やかな移動のための準備のためである。


 オケアノス外海に接するダンスカー辺境伯領であるが、領都コノートは内地、それもやや帝国中央に寄った位置に存在する。港湾都市の発展は、危険性の高い外海ではそこそこに止まり、あるいは、防諜の観点から意図的に抑えられ、輸送の中継点となる内地の都市コノートが領都に定められている。無論、他領、他国の諜報を警戒して帝国中央寄りのコノートで目を光らせているとの噂もあるが、ダンスカー家の者が嘯くことには帝都の魔法省に少しでも近くなるように利便性を追求した結果に過ぎないともされる。


 そのコノートは、五芒星型の城壁で囲われ、整然と造られた計画都市の様相を晒している。都市それ自体を魔法陣に見立てたともされる画一的な家屋の群れは実用一辺倒の無骨な重苦しさを感じさせる。実際のところ、魔法陣として発揮されるかはダンスカー家の秘事であるが、ただ実用性を追求した結果だと言われても納得の雰囲気をしている。


 ダンスカーの屋敷は、コノートの中央に位置する。


 その内に招かれた一行は、応接室に通された。大家名門に相応しい使用人たちによって速やかに給される茶菓子と茶に手をつける間もなく、屋敷の主人が対応に現れる。


「ようこそ、帝国臣民として貴方たちを歓迎するわ。私は、ダンスカー家現当主メイヴ・フォン・ダンスカーよ」


 入室し、優しげな様子で挨拶を述べるのは、蠱惑的な美貌に微笑を湛える女。


「まずは座りましょうか」


 軽やかに、屋敷の主人らしく堂々と客人に着席を勧めながら、自らも対面のソファに腰掛ける。たったそれだけの動作に滲む気品と色香。清楚と淫蕩が同居した独特のオーラを女辺境伯は纏っていた。


「さて、急な来訪だけれど、皇帝直下の騎士様はどのような御用を我が家にお持ちになったのかしら?」


 女辺境伯の流し目とともに、魅惑的な口から問いが投げかけられる。


「ダンスカー家の皇帝陛下への忠心は明らかなれば、任務の遂行への御助力をお願いします」


「そう、勿論、我らが帝国のため、尊崇する陛下のためならば、喜んで助力するわ。それで具体的には何をお望みなのかしら?」


 ディアブロが我関せずと茶菓子を頬張り、姉弟が恐縮に固まる姿を傍らに、表情の変わらぬスターが平坦に応答する。


「特級秘宝(アーティファクト)黄泉の琥珀(ドラウプニル)』の魔力隠蔽を可能とする手段の提供をお願いします。帝国法に基づき、これを『ファヴニールの穴蔵』に移送せねばなりません」


「……そう、そうなのね。ではこの魔力は、かの秘宝が発しているものなのね。魔道士としては少しばかり拝借したいところだけど、その影響を考えれば私情を挟むことはできないわね。残念だわ。……本当に残念だわ」


 スターの言葉に明かされた秘宝の存在に、女辺境伯の表情は一変して、ギラついた瞳が正確にアイフェの胸元に注がれる。衣服の下に隠された垂涎の研究対象に、熱い吐息を漏らし、妙な色気が増す。


「速やかな御助力を」


「わかっているわ、わかっているわよ。でも、悔しいわ。後継が育つのはまだ先なのよ。嗚呼、女辺境伯の位を放り出してでも、研究、したいわ」


「御冗談はほどほどに。為すべきを為してから御存分になさいますようお願いします」


 魔道士として、未練がましく、俗世の地位を捨ててでも得たいと心を曝け出す女辺境伯に、スターは淡々と嗜める。


 『帝国の杖』との称賛は、伊達ではない。魔道士としての力量も、帝国貴族としての力量も、等しく高い。ただ、当人は魔道士としての在り方こそ本懐としている。されど、貴族の責務を放棄するほどの奔放さは堅く自戒して女辺境伯は、秘宝に向けていた視線をスターの方へと向ける。


「そうね。『ファヴニールの穴蔵』に無事に納められれば、秘宝は逃げないものね。大丈夫、大丈夫よ。魔力隠蔽の箱は用意するわ。ただ、それほどの魔力を隠蔽するとなると、特注になるわ」


「承知しております」


「三日で仕上げるわ。それまでは存分に我が屋敷で寛ぐといいわ。最高の歓待を約束するわよ?」


「御配慮痛み入ります、メイヴ卿」


 女辺境伯の了承と歓待の言葉に、スターは卒なく頭を下げた。

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