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悪魔の蛮餐  作者: 龍崎 明
中編 命の秘宝
36/42

36.黄泉の琥珀

 『黄泉の琥珀(ドラウプニル)』。


 現代の魔術では再現不能の魔道具、秘宝アーティファクト。その中でも奇跡としか称賛し得ないチカラを備えた秘宝の一つ。


 生命を司る他二つの秘宝と合わせて、命の秘宝エターナル・アーティファクトとも総称される御伽の石。万病を癒し、長寿を齎らす樹界ユグドラシル()琥珀アンバー


 各地の伝承を紐解けば、神々の食物(アムブロシア)月光を溶かした神酒(ソーマ)万能の秘薬(エリクシール)と様々な名を持つとされる。


 最も特徴的とされるのは、死者蘇生のチカラであろう。


 満月の晩に死者の遺体とともに燃やすことで、次の満月まで死者は確かに蘇る。そのようなひと月の奇跡であれば、どんなによかっただろうか。


 黄泉の琥珀は、九つの晩を月光に浴することで八つの分身を生み出す。


 その分身を蘇った死者に持たせることで、蘇生の期限は延長される。延長するほどに必要な個数は増えていく。死者との別れを惜しむほどに、琥珀に取り憑かれる。


 分け与えることなどできなくなる。いつか釣り合いが傾き、否応なき別れが訪れるその日まで救いを求める有象無象に怯える日々を過ごす悲劇的な品なのだ。


 かつて世界に散らばり、人々の争いの種となった琥珀の全てがそのような経緯で喪われた。誰も手出しできぬ魔女の手に納まったモノを除いては。




 ローゼンクロイツァー帝国、ダンスカー辺境伯領、小村。


「カァー」


黒竜鳥クエレブレ、何故こんなところに?」


「ジェット、あのババアの使い魔だよ」


 魔女の庭を後にしたディアブロとスターは、目当ての小村の上空でカラスに似た亜竜デミドラゴンに邂逅していた。


『聞こえてるよ、馬鹿犬?……あぁ、そうだ。この子をしばらく預けてやろう。いつまでもそんな恰好じゃ憐れでならないよ』


「ちっ、どうせ暇潰しの目にでもするんだろ?」


『わかってるじゃないか。長く翼として使いたいのなら、せいぜい私を退屈させるんじゃないよ』


 魔女は使い魔を通した【念話テレパス】でそう言うと気配を絶った。


「テメェも大変だな」


「カァー」


 ディアブロの言葉にジェットは一鳴きして応える。


「一先ず降りますよ。ジェット様は今しばらく待機をお願いします」


「カァー」


 スターの言葉にやはりジェットは一鳴き。


 理解したことを疑わず、スターは火喰鳥を下降させる。


 ジェットはそれを眺め、しばらくの自由を謳歌するように空の散歩に羽ばたいた。




 地上。小村に入った二人は濃密な魔力を頼りに目的の場所に足を向ける。


 街のそれと比して小さな家屋の一つ。小村としては何の変哲もない一軒に、反応があった。


「誰かいらっしゃいますか?」


 スターはその一軒の玄関扉にノックして呼び掛ける。すると程なくして遠慮気味に開く玄関扉。隙間より覗くのは不安げな少年のまだ幼い顔立ち。


「だ、誰ですか?」


「ローゼンクロイツァー帝国騎士が一人、スターです。誰か大人の方はいらっしゃいますか?」


 スターの無表情は子ども相手にも変わりはなかった。可憐な容姿にありながら、気迫が強く圧があり、少年は萎縮した様子であった。


「き、騎士様ですか。あの、その、えっと……」


「坊主、とりあえず中入れろ。大丈夫だ、とって食いやしない。俺たちはお前らを守るために来たんだ」


 しどろもどろになる少年の前にしゃがんで、ディアブロが諭す。少年は、「うん、わかった……」と言って玄関扉を大きく開き招いてみせる。


「邪魔するぜ」「お邪魔します」


 小村の家屋に部屋と呼べるような区切りはない。入ってすぐが土間、中央の方にテーブルと椅子があるだけの居間、奥には目隠しの衝立があって寝台がある。だいたいのところはそんなものだ。


「お客様ですか?」


 衝立の裏から姿を見せるのは、病的にほっそりとした若い女性だった。少年の母というにはまだあどけなさの残る年頃に見える。


「お姉ちゃん、騎士様だよ」


「騎士、様?……嗚呼、どうかコンラにはなんの咎もなきようにお願い申し上げます。どうか全ての罪は不甲斐ない私の責です。どうかどうか……」


「お姉ちゃん!お姉ちゃん、落ち着いて!騎士様は僕らを守ってくれるって!そう言ったんだ!」


 少年、コンラの言葉に、女は激的な反応を示した。崩れるように膝をつき、祈るように手を合わせる。宥めるコンラの言葉に静かに耳を傾け、しかし顔を上げることはない。


「改めまして、ローゼンクロイツァー帝国騎士が一人、スターです。お顔を上げてください。あなたにも弟さんにも罪があって訪ねたわけではありません」


「しかし……」


「しかしじゃねぇよ。生き長らえることの何が悪だと言う?生き物であることの自覚が足りねぇなら、さっさと自害しろ。そうでないのなら、幸運を喜び生き足掻け」


 スターの言葉になおも態度を改めぬ女に、ディアブロが強く言葉を突きつけた。


「……そう、ですね。失礼しました。沙汰も聞かずに取り乱してしまい」


 一拍、女が顔を上げた。


「まずは名乗らせてください。私はアイフェ、この子は弟のコンラです。騎士様がたのご用件は、こちらに関わることで間違いございませんでしょうか?」


 女、アイフェは立ち上がって名乗り、衣服の下から簡素な紐に吊るした装飾品を取り出して見せる。


 それは簡素な紐に吊るされるのには不釣合いな見事な黄金の琥珀。溢れる魔力は濃密に魔術師たちの霊感を刺激する。


 間違えようもなく、それこそは『黄泉の琥珀(ドラウプニル)』。神秘宿る至宝の一つだ。

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