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悪魔の蛮餐  作者: 龍崎 明
序編 魔の遊戯
22/42

22.三人寄らば派閥ができる

『14.遊び』を修正。【化石呪】のルビを、「サーペトル」から「メテュス」へ変更。流れ、内容には変化ありません。ただのこだわりです。

 ローゼンクロイツァー帝国、帝都ターリア、帝城宮殿、魔法省魔術管理局禁術指定執行部、司令室。


 部屋の主たる麗しき女魔術師が、眉間に皺を寄せて書類の文字列を睨んでいる。


「現行のどの魔術言語プログラミングカースとも異なる呪文スペルで構成された魔道具マジックアイテム、ね。中身のない報告だわ。わからないのならば素直にそう認めれば良いのに」


 悪態を吐くメイガスは書類を執務机に放り投げ、眉間を揉みほぐす。


 それは、魔術開発局に依頼した『狂宴会ヴァルプルギス』の魔道具、赤雷鞭フールフールの解析に関する経過報告書であった。


 魔術開発局は、魔術管理局に同じく魔法省に所属する機関組織であるが、その性質上、配属される魔道士メイジの多くがヘルメス教の錬金術師アルケミストだ。ソロモン教の召喚術師コンジャラーが多く配属される魔術管理局とは敵対とはいかないまでもライバル視し合う関係にある。


 そのため、組織間の連携は事務的で回りくどい。まだわからない程度の内容の報告書が、専門用語で妙に冗長に飾り立てられて送られてくる程度には。


「まぁ、それでも神聖文ヒエログリフに最も近似しているということがわかるだけでも、優秀ということよね。そうでなければ、我らが帝国の名折れだわ。……しかし、神聖文ヒエログリフか。セレマ神王国の方で開発された魔術言語プログラミングカースとなれば、当然、彼の国で発生した魔術思想が関わっている可能性が高い。とはいえ、それだけではなんとも言えないわ。外務省もこの程度では動かないでしょう」


 それでも判明した情報を独り言ちてメイガスは溜息をこぼした。


 セレマ神王国。ローゼンクロイツァー帝国の南方、アトランタ内海を挟んだ向こう側に位置する大国である。国土の多くが砂漠や荒野であり、食糧生産に不向きな土地柄であるため、ヘルメス教発祥の地として技術大国としての発展を遂げ、各国との交易で国体を維持している。そのため、ローゼンクロイツァー帝国とも表向きには友好的な関係にあるが、目下、互いに最大の仮想敵国と睨んでいることは公然の機密である。


 下手に出れば弱みとなり、高圧的にいけば戦争の引鉄である。どちらにせよ、根拠の弱い事柄ではまともな外交は望めない。上手くやったとしても無関係という毒にも薬にもならない回答が得られるだけである。


「これ以上考えても仕方ないわ。次よ、次」


 メイガスは意識を切り替える。無造作に投げ出した経過報告書は保管書類に分類し、次なる書類を手に取った。


「ちっ、弱い犬ほどよく吠える。とはいえ、無視はできない」


 文面を理解した瞬間、メイガスは盛大に舌打ちにした。


 それは、軍務からの共闘願い。『秘奥騎士アルカナイト』を謎多き穀潰しと言って憚らず、人員不足に陥れた組織機関からのそれは、多分に嫌がらせの意味合いを含ませた代物だ。


 普段は手柄を求めて速やかな治安維持などを名目に、禁術師ソーサラーに手を出し悪戯に人的資源を浪費するほどに『秘奥騎士アルカナイト』を敵視する軍務であるが、当然、同じ国の組織であり国体を揺るがすほどの狭量ではない。現場からの要請によっては、しっかりとした危機管理でもって共闘願いを提出する。ただし、それを逆手に取った嫌がらせを含めてだ。具体的にはギリギリの状態まで事態を静観して、派遣される『秘奥騎士アルカナイト』を現場に長期に拘束し人員不足による業務不良を誘発しようとする。


 その最たるものが、定期的にあるフィンブルヴェト大魔境の掃討作戦。


 フィンブルヴェト大魔境は、帝国の北東に接するその名の通りに広大な魔境である。複数の霊穴がかなりの密度で存在するらしく、正確には複数の魔境の集合地帯だ。当然、棲息する魔獣種モンスターは多種多様にして雲霞の如く膨大な数なのである。さらには、濃密な魔力により環境そのものが変異して猛威を振るう。人類種ヒューマンにとって前人未踏の危険地帯だ。


 縄張り争いに敗れた魔獣種が境界線から攻め寄せることも頻繁にあり、事前策として掃討作戦という名の間引きが定期的に実施されているのだ。


 勿論、現場の兵士たちからすれば武闘派魔道士ウォーメイジの参戦は心強いことだろう。損害を軽減する上でも確かな効果がある。しかし、軍務上層部の思惑を考えれば素直に受け止めることのできない案件なのも確かなのである。


「『太陽ソール』の後任が見つからないのが痛いわね。今動かせるのは、結局のところ前任とその監視対象だけ。セットで運用しなければならない以上、総合戦力はともかく組織としての柔軟性は落ちるか」


 武闘派魔道士そのものが少数であり、さらに『秘奥騎士』の各々に当てられる秘匿名コードネームは、ただの記号ではなく役割に応じた称号だ。そのため、ただ優秀なだけの魔道士ではなく、その能力の方向性もまた選考基準となり、人材確保を一層に困難としている。


 それは軍務の横槍による人員制限であると同時に、魔術戦闘が相性差に左右されやすいというどうしようもない事由もあった。能力も幅広く人材を確保しなければ対応しきれないのだ。


「しばらくの露払いは『死神モース』に押し付けるしかないわね。ちょうど貸しをつくったところだもの。『聖夜会シルバーダスク』には優先順位というものを覚えてもらおうじゃない」


 獲物を見つけると、即座に飛び出すがために陽動に惑わされ肝心なところで間に合わないこともあるのが『聖夜会シルバーダスク』の難点であった。それで救われるのは局所的な人命であり、国家としてはより効率的に多くの人命の救助を優先してもらいたいのが当然のところ。

 今までは復讐鬼と化しており、邪魔立てすれば殺しも辞さないようなところを考慮して、放置で安定していたが、聖夜会最高位称号『聖伐執行人ヴァンパイアハンター』であるデスを間に挟めば問題はない。どこまで制御できるかは不明だが。


「休憩とするか」


 メイガスは席を立ち、コーヒーを淹れるのだった。

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