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悪魔の蛮餐  作者: 龍崎 明
序編 魔の遊戯
21/42

21.『狂宴会』

 某所、禁術指定魔術結社ソロモン教魔王派、通称『狂宴会ヴァルプルギス』本拠地、万魔殿パンデモニウム


 どことも知れぬ領域にて、ひっそりと佇む禁忌の神殿。冒涜の感性でもって、踠き苦しむ生命の彫刻や絵画でもって飾り立てられ、通路は捻れ、流れを澱ませている。


 正気を失くすための配置。東方の言葉を借りるのであれば、風水による凶相である。


 それは、誰もが想い描く禁術師の根城であろう。


 そのような場にあるモノが真っ当であるはずもないが、現世に現れる以上はそれなりに整えられた外見だけは有している。


 万魔殿の一室。その部屋の主は、女であった。


 背は高く、豊かな胸に括れた腰つき、脚はすらりと長い抜群のプロポーション。相貌は正に美貌なれど、緑の瞳はギラギラと欲望に燃えて吊り上がり、うねる長髪は荒波の如く溟い紫紺に染まっている。


 その身に纏うのは、パンツスタイルのスーツとなれば、女の印象は気の強いことが第一となろう。そして、偏見の目は次いでこんな妄想に囚われる。女嫌いの男嫌い、高望みの行き遅れ。


「あら残念、魅王のマセガキが死んでしまったわ」


 台詞に反して、女は嗤う。悦ばしげに、歯を剥き嗤う。


 女の名は、蝕王レヴィアタン。


 『競争』の悪性である。


「偉大なる御方にご報告しなければならないわ」


 レヴィアタンは足取り軽やかに、部屋を出る。


 そして、廊下にて不意の遭遇をしてしまった。


「何故いるのかしら?」


「悲しいナァ、俺が何をしていようと俺の勝手だ、レヴィ」


「名を略すことを許した覚えはないわよ、クソ野郎」


 邪険にするレヴィアタンの態度に、その男はカラカラと笑って流してしまう。


 男もまた、背が高く、体格に恵まれている。ボサつく赤髪は無造作で目元までも覆い隠す。ニヤつく口元だけが窺い知れる表情だ。そして、目に痛いほどの極彩色の衣装とくれば第一の印象は、道化師か道楽者か。


「誰が死んだ?」


「マセガキが死んだわ」


「悲しいナァ、悲しいナァ!」


 男が声を張り上げる。苛立たしげに、芝居掛かった悲嘆の声だ。


 男の名は、禍王サタン。


 『自由』の悪性である。


「嗚呼、俺は自由が欲しいだけなのに!俺は、仲間とともに好き勝手に面白おかしく暮らしたいだけなのに!なんでアスモデウスは、死んでしまった!そんなことなら、俺が殺しておけばよかった!俺の選択肢がまた一つ勝手に減った!悲しいナァ!」


「アンタの独白に付き合う気はないわ。アタシはもう行くわよ」


 サタンの妙な台詞はいつも通りのこと。レヴィアタンはすっぱりと別れを告げる。


 しかし、サタンはそれを遮った。


「まぁ、待て、レヴィ。我が同胞よ!共に友の死を悼んでからでも、偉大なる御方への報告は遅くはあるまい!」


「嫌よ。何故アタシが、マセガキの死を嘆くわけがないでしょう?」


「おぉ、悲しいナァ!俺たちは、血を分けた同胞きょうだいではないか!俺はお前と嘆くと決めたのだ!さぁ、輪になって踊ろう!踊ろう!」


「ちょ、やめなさい、やめろ!このクソ野郎!なんて馬鹿力!巫山戯ている暇は、アタシにはないのよ!」


「あははは!悲しいナァ!悲しいナァ!アスモデウスが死んで悲しいナァ!レヴィに拒まれて悲しいナァ!」


 手を掴まれて、レヴィアタンは強引に回される。


 抵抗しようと無意味であった。既にその足は地より離れて遠心力で宙にある。もはや、サタンが飽きるか、私闘に意識を切り換えぬ限りこの回転は止まらないだろう。


「さっさと降ろせ!このアホ!」


「悲しいナァ!悲しいナァ!なれど仕方ない!それならこのまま、投げてやろう!偉大なる御方の元に投げてやろう!」


「はぁ!?アンタはバカァァ……!」


「おう、凄まじい絶叫であるな!」


 レヴィアタンの罵声の中途にあって、サタンはあっさり手を離す。慣性に従ってレヴィアタンは暗がりの廊下の先へと飛んでいく。


「あははは!いやしかし、悲しいナァ!ホントにホントに悲しいナァ!俺たちの計画を邪魔するか!偉大なる御方の偉業を邪魔するか!悲しいナァ!」


 レヴィアタンが飛んでいく方に背を向けて、サタンは歩く。ビリビリと空気が縮み上がる。男の怒気は絶頂だ。


「帝国め!帝国め!」


 巫山戯た様子でニヤつく口元。しかし、言葉に憎悪が宿る。ドロドロとした黒い石油に激情の業火が燃える。


「復讐だ!報復だ!お前たちにできて俺にできぬことなど一つもない!殺そう!潰そう!壊そう!あははは!悲しいナァ!悲しいナァ!どうするか、どうしようか?死にたくはないからなぁ!選択肢は狭まるばかり!悲しいナァ!」


 軽快な足取りでサタンは廊下を駆けていく。考えをまとめながら駆けていく。


 『自由』の悪性。自身の属性にどこまでもどこまでも縛られた憐れな悪魔が、独りで駆けていく。


「悲しいナァ!悲しいナァ!早く自由になりたいなぁ!」


 万魔殿を飛び出して、禍王サタンが駆けていく。


 『自由』の悪性を制御できるモノなどいないのだ。


 衝動のままに駆けていく。果たして、サタンは何処へ行くのか?それは誰にも分からない。帝国が何処かなど彼は知らないのだから。


「悲しいナァ!悲しいナァ!」

連投はこれにて終了。以後の投稿は、事前の通りに不定期となります。

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