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悪魔の蛮餐  作者: 龍崎 明
序編 魔の遊戯
18/42

18.聖霊王『純潔』

「アハハ!どうしたの?どうしたの?ほらほら、捕まえちゃうよ?アハハ!」


 嘲笑とともに白い大蠍となったアスモデウスが鋏を振るう。


 その対象となっているスターは、回避するしかない。


 自身の魔術では、囚われているモースを巻き込んでしまう。これがまだ、モースに意識のある状態であれば良かった。捕縛が緩んだところで防御の魔術を間に合わせることができるだろうという信頼がある。


 しかし、モースの意識はない。目覚める様子もなく、かと言って見切りをつけるわけにもいかない。帝国は戦力の低下を忌避する情勢にある。


 スターにとっては、幸いにもアスモデウスが人質を有効活用する様子はなく、ただ痛ぶることを愉しんでいた。


 時折、遠くに聞こえる轟音が、ディアブロが遊んでいることを知らせてくる。苛立ち僅かに眉間に皺を寄せながらも、きれる手札を制限されては助力を請うのも難しい。


 意識が散逸すれば、その隙を確実に点かれるだろう。


 アスモデウスの攻撃手段は鋏だけではない。解けた毛糸が縦横無尽に襲いくる。さらに、それに紛れるように赤雷鞭フールフールが閃くのだ。


「アハハ!……?」


 スターが打開策を練る前に、嘲笑を高らかに響かせていたアスモデウスが止まる。


「え?いや、待って!ダメダメダメダメ!?そんな!?なんで?!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!まだ足りない!まだ足りない!足りないんだヨォ?!」


 アスモデウスは狂乱に頭を抱えた。


 しかし、事態は彼の思惑を外れて突き進む。


 モースの身体が蒼く輝く。


 輝きは焔となって、アスモデウスの毛糸のカラダに燃え広がった。


「そんな……そ、んな……何で……?僕は、遊んでいただけなのに……」


 蒼炎は呆気なく魅王を焼滅させた。


「……」


 不要となった蒼炎が掻き消える。


 佇む男には表情がなかった。


「……モース卿?」


 様子の異なることに、スターは慎重に問い掛けた。


 しかし、返答はなく、ただ()()()()双眸が向けられた。


聖霊グレースが、受肉している?」


 その様相にスターは、そのように判断した。


 轟音が遠くに響く。ディアブロは未だに遊んでいた。


 そちらに、モースの意識が向く。


「!待ちなさい!」


 スターの制止は届かない。


 モースは、蒼く輝く菱型の六枚の光翼を展開して飛翔した。目指す先は、『悪魔ディアブロ』である。


「ん?よし、もういいわ」


 満身創痍の怪物の傍らにいた無傷の美丈夫は、その気配に漸く玩具を手放した。


 蛇天獅怪ゴルゴーンの頭蓋を陥没させてトドメとする。


「なんだよ。そっちだって禁忌を犯してんじゃねぇか」


 凶暴に口角を上げながら、ディアブロは待ち構えた。


 モースに先行して放たれる二枚の光翼。


 真っ直ぐに飛来するそれを、ディアブロは両手でそれぞれ弾き飛ばした。


「……少し削られたか?」


 傷は一見してない。なれど、受けた当人は自身の魔力が減ったように感じた。


「まぁ、いい。殴り合いってのはそうでなくちゃなぁ!」


 ディアブロは踏み込んだ。


 彼我の距離は瞬く間に埋まり、ディアブロが拳を振るう。


 それを光翼の一枚が防いだ。


「はっ、かてぇじゃねぇか。だが、いつまで保つんだ?」


 止まることなくディアブロは乱打を放つ。常人には目で追えず、武人であっても人外の膂力に押し切られるそれを、モースは六枚の光翼で見事に防ぐ。


「殺してはいけませんよ!」


聖霊グレースであっても受肉は禁忌じゃねぇのかよ?」


 追いついたスターの言葉に、最もな疑問をぶつけながらもディアブロは乱打を続ける。


「禁忌です。禁忌ですが、今、帝国の戦力を削ぐことはなるべくなら避けねばならない事態です。何の為にあなたに赦免を与えたと思っているのですか?」


「けっ、それで?生捕りは至難だぞ。俺の魔力が削がれたからなぁ」


「それは、やはり聖霊王グレース・ルーラーですか。厄介ですね。聖霊グレースは善性として秩序システムに徹するモノ。自我がないため、情報を引き出せない」


 『狂宴会ヴァルプルギス』は悪魔デヴィルを三階級に分類するが、そもそも悪魔は精霊種エレメンタルの一種である。当然、精霊種全体にも三階級は定義されている。それが上から、王位ルーラー高位ハイ低位ロウである。


 聖霊王グレース・ルーラーとはすなわち、王位の聖霊、善性精霊種である。魔王階級グレーター・デヴィルに相当する王位は当然に権能を有する。


 権能は魔術に勝る優位事象だが、権能同士であればそれはただの魔術勝負と変わらなくなる。


 今回、モースに受肉している聖霊王を仮に『純潔』と定義したとして、その権能は〈二元論セパレート〉と呼ぶべきモノ。


「なんでもいいから、早くしてくれ。喰えないモノを相手にするのもそろそろ飽きそうだ」


「……喰えないのですか?それほど相性が悪いと?」


 〈二元論セパレート〉は、まだ六枚の光翼としてしか展開されていない。受肉に未だ馴染んでいないためか、世界の歪曲を最小限に留めようという善性ゆえか。


 それでも圧倒的だ。


 【金剛力フィジカル・ゴールド】の天稟が齎らす巨人種タイタンを超える怪力を防ぎ、〈魔狼万餐オールドレイン〉の権能による魔力分解を微塵も受けつけていない。


「あぁ、喰えない。拒絶されちまってる」


「なるほど、『拒絶』ですか。仮説属性は『純潔』で良さそうですね」


「どうするんだ?」


「それより危ないですよ」


「ちっ!」


 無作為ではあるものの、無意識の癖がパターン化するのが人間だ。


 僅かな隙に、光翼が攻撃的に飛来する。

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