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悪魔の蛮餐  作者: 龍崎 明
序編 魔の遊戯
16/42

16.魅王

「死ね!」


 迫るモースに対するシンプルな罵倒とともに、アスモデウスは赤雷鞭フールフールを振るった。


 しかし、モースの行使した【聖水鏡ミラーグレス】に防がれる。


「ちっ!ウザいんだよ!」


 アスモデウスの顔貌が歪む。出鱈目に振り続けられる赤雷鞭フールフールが、悉く蒼い円盤に防がれる。


「現世から去れ!悪魔め!」


 間合いに捉えたモースの剣閃が蒼く迸る。


「この子を殺すのか?」


 アスモデウスの口から出るのは、先ほどまでとは違う重い声だった。


「……!?」


「ふふ、鈍ったねぇ?」


 モースの剣閃に迷いが生じ、アスモデウスは避けてしまった。


「お前、根拠がないだろう?ワタシたちを憎悪する根拠が」


「黙れ。ただ去れ」


「そう、それだ。復讐鬼どもは、去れなんて言わない。ワタシたちが死ぬことのない精霊種エレメンタルだとわかっていても、死ねと言うものだ」


「だからどうした。容赦はしない」


 モースの十字剣の輝きが高まる。魔力を追加した。


「僕は、まだ負けちゃいないぞ!……ふふふ、おっとごめんごめん、わかったよ。頑張りなさい」


 表情が幼げに戻り、またすぐに大人げに、そして、子どもっぽくなった。


「オジサンはしつこいみたいだから、僕の本気を魅せてあげるよ!」


「……」


 ディアブロから聴取された情報によれば、『狂宴会ヴァルプルギス』は適性のある者を攫って無理矢理に悪魔を憑依させてもいるようだった。


 子どもの容姿。それがモースの脳裏に無駄な思念を生じさせる。


「いくよ!」


 そう言って赤雷鞭フールフールを頭上で回転させ始めるアスモデウス。


 雷電が迸り、魔法陣が形成される。


「【赤雷開門オープンゲート・フールフール】“電喰鳥サンダー・ペリュトン”」


 バリバリと空気を破る音が響き渡る。魔法陣から現れたのは、雷電に象られた翼のある鹿のような幻獣だった。


 それが無数の群れとなって現れた。


 それを見る前から、モースは小瓶を取り出して【聖水鏡ミラーグレス】を追加していた。退魔術エクソシズムは悪意や害意に滅法強く多少の相性差は覆えす。尤も、今回は絶縁性のある純水と雷電だ。そもそも相性ではモースに傾く。


「殺しちゃえ!」


 それでも満面の笑みで自信満々にアスモデウスは、電喰鳥サンダー・ペリュトンの群れを嗾ける。


聖霊グレースよ、地上の穢れを流しされ【聖水濤ホーリーストリーム】」


 モースは受身ではなく、迎撃を選択した。【聖水鏡ミラーグレス】として待機させた聖水を纏め、呼び水として大量の水気を召喚する。


 モースの意思に従って自在に唸り流れる大洪水が、電喰鳥サンダー・ペリュトンを悉く呑み込み消滅させていく。


「そんな!そんなバカな!?僕は傑作だぞ!偉大なる御方の傑作なんだぞ!何で何で何で何で……」


「当たり前でしょう。彼は帝国の誇る『秘奥騎士アルカナイト』が一人、『死神モース』。そして、『聖夜会シルバーダスク』の最高位称号『聖伐執行人ヴァンパイアハンター』に歴代最年少で認められた傑物です。悪魔であるあなたが勝てる道理などありません」


「終わったのか、スター卿」


「えぇ、私の相手は雑魚でしたので」


 錯乱するアスモデウスに答えるように語るのはいつの間にか近づいてきていたスターだった。


「あの男は?」


「まだ遊んでいます。香の影響はまだ抜けないのでしょうか?」


「個体差があるのでなんとも言えんが、既に抜けていてもおかしくはない。監視役だろう?向こうを優先するべきではないか」


「こちらの方が厄介でしょう」


「もう終わる。【聖氷縛ホーリーロック】」


 スターと会話しながらも、モースはアスモデウスから目を離したわけではない。


 【聖水濤ホーリーストリーム】で電喰鳥サンダー・ペリュトンを一掃すると、そのまま聖なる波濤をアスモデウスに向けた。


 アスモデウスは逃げようと必死に藻搔いたが、波濤に呑まれた。そして、今、氷漬けにされて捕縛されてしまった。


「生憎だが、私は容赦しない。私は貴様たちにとっての死神だ」


「そうなのか?残念だ。ワタシとしてはこの子が憐れでならないのだがね?」


「……安らかに眠るがいいさ」


 モースの十字剣が振るわれる。あっさりとアスモデウスの首が斬り飛ばされた。


「……?」


 モースは剣閃を通じて伝わる感触に違和感を覚えた。


 しかし、それがしっかりと危機意識となる前に、アスモデウスの断面から無数の毛糸が襲いくる。


「モース卿!」


 毛糸は、モースの首と手首と足首にそれぞれ巻きついて動きを封じた。


「アハハ!油断が過ぎるよ。『秘奥騎士アルカナイト』が聞いて呆れるね?とっくの昔にその子の魂なんか呑み込んでるに決まってんじゃ〜ん!僕は、ベルゼブブと違ってそのあたり特にこだわりもないからさぁ。やっぱり楽しみはさっさとヤってしまうに限るよねぇ?調理だなんだと面倒なこだわりなんていらないよねぇ?質なんて数打ちゃ当たるくらいの感覚で求めればいいんだよ!天然物の方が好みだもん!」


 飛ばされた首が高らかに嗤う。


 悪魔に蝕まれ変質した少年の骸が、毛糸に解けて氷の拘束を抜け出していく。


 モースを巻き込むのを躊躇い、スターが咄嗟の攻撃ができないでいる状況で、悠々と悪魔の異形を象っていく。


 大まかなカタチは、蠍だろうか。有毒の奇妙な虫の姿はしかし、羊毛か綿毛のような柔かなモノで構成されている。


 モースはまるでベッドに寝かされるように広い胴部の背に縛り付けられていた。


 そして、斬り飛ばされた頭部は、蠍であれば毒針を有する尾先に回収される。何故なら、その尾先にこそ人型の上半身が象られていたからだ。それは男にも女にも見える子どものモノだった。


「さぁ、第二ラウンドといこうじゃないか?」


 一見して柔かそうな鋏であっさり氷を割って赤雷鞭を回収し、魅王アスモデウスは微笑みながら宣言した。

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