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魔力の変化

誤字報告をありがとうございます、修正しております。

 マティアスの言葉に、セレスティーヌは少し首を傾げた。


「はい、何でしょうか?」

「君が遭った事故にも関係することだから、まだ療養中の君に聞くべきではないのかもしれないが。……もしも僕の言葉で気分が悪くなるようなことがあれば、すぐに言って欲しい」


 気遣わしげにセレスティーヌを見つめたマティアスに、彼女は微笑んだ。


「わかりました。けれど、マティアス様のご判断は信頼しておりますし、大丈夫だと思います」


 いつも思慮深い上官であるマティアスのことを、セレスティーヌは尊敬していた。そんな彼が尋ねる必要のあることなら、事故に関することでも何ら問題ないだろうとセレスティーヌには思えた。

 少しだけ思案気に口を噤んでから、マティアスはセレスティーヌを見つめた。


「君を乗せた馬車の事故があった時、僕はちょうど魔物討伐の隊に同行した帰りだったんだ。事故の知らせを受けてあの場に着いた時には、入れ違いで、君はもう馬車から助け出されてご実家に運ばれた後だったが……事故の跡を見て血の気が引いたよ。馬車は横転して激しく損傷していて、君の命があったことが不思議なくらいだった」


 セレスティーヌも、突然馬車が激しく揺れ、強い衝撃を全身に感じて、咄嗟に防御魔法を唱えたところまでは記憶に残っていた。けれど、その直後に意識を手放したようで、その後の状況はわからなかった。


「それほど酷い状況だったとは、知りませんでした」


 少し眉を下げたセレスティーヌに、マティアスは続けた。


「君の状況が心配で、あの日も君の後を追うようにしてこの家に来たのだが。あの事故の状況に鑑みれば、君は驚くほどの軽傷だった。もちろん君に回復魔法はかけたが、想像よりも君の状況が悪くなかったことに、胸を撫で下ろしていたんだ」

「マティアス様が私を回復してくださったお蔭で、身体には深い傷を負っていなかったのだと思っておりました」


 驚いた様子のセレスティーヌに、マティアスは首を横に振った。


「いや、そういう訳ではないんだよ。……事故に遭う前も、君の回復魔法や防御魔法はかなりのものではあったが、あの事故から身を守れるほどとなると、さらに上のレベルの魔法が使えると考えないと辻褄が合わないんだ」

「と、仰いますと……?」

「君の魔力に、変化が生じているのではないかと思う。今の君が自覚しているかはわからないが」

「私の魔力に、ですか?」


 不思議そうに瞳を瞬いたセレスティーヌに、マティアスは頷いた。


「ああ。君は、『覚醒』という言葉を聞いたことはあるかい?」

「ええ、言葉としては耳にしています。極限まで追い詰められた状況に陥った魔術師が、時として潜在能力を開花させて、より強い魔力を使えるようになる場合があるとか。それを覚醒と呼ぶのですよね?」

「その通りだよ。僕は、君があの事故の時に覚醒したのではないかと思っている」

「私が……?」


 想像もしていなかったマティアスの言葉に、セレスティーヌは目を瞠っていた。


「君はここ最近、相当量の回復魔法の鍛錬を積んでいた。さらに回復魔法の技術を磨きたいという、強い思いを持っていたようだったね。そのようなところに、命を脅かすような事故に遭ったことも相まって、君本来の力が目覚めたのではないかと思っているんだ。身体に魔力が満ちているような感覚はないかい?」


 セレスティーヌは、その瞳を好奇心に輝かせてマティアスを見上げた。


「感覚としては、よくわからないのですが。でも、もう身体のどこにも違和感はありませんし、少しここで魔法を試してみても?」

「ああ。ただ、無理のないようにね」


 早速セレスティーヌが小声で防御魔法を唱えると、たちまち強い光を帯びた膜が彼女を覆った。


「これは……」


 驚くほど易々と強力な防御魔法を発動できたことに、セレスティーヌは自分でも信じられないような思いでいた。その様子に、マティアスも瞳を細めた。


「やはりそうだったか。素晴らしい力だね。……今はまだ無理は禁物だが、君が前から希望していたように、今後は魔物との戦闘の前線に参加することも、遠からず可能になると思うよ」

「……私、前衛部隊での仕事を希望していたのですか?」


 セレスティーヌは、きょとんとしてマティアスの顔を見つめた。


「ああ。魔物との戦いで傷付いて戻って来た魔術師たちを癒すのも、もちろん非常に大切な仕事なのだが、より戦闘部隊を近くで支えたいと、君はそう言って……」


 困惑気味に眉を寄せたセレスティーヌを見て、マティアスははっとしたように言葉を切った。


「すまない。君はまだ一部の記憶が戻っていないと、ビクトル先生から聞いていたのに。君はレナート様のことも、恐らくその周辺の記憶も、本当に思い出せてはいないのだね」

「あの、それはどういう意味でしょうか?」

「君は、レナート様が戦う最前線の隊を直接支えられるようになりたいと言って、必死に回復魔法の練習を積んでいたんだよ。……皮肉なものだね。それが叶えられるだけの魔力を得た今、レナート様のことが思い出せないなんて」

後程もう一話更新予定です。

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