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一緒の帰り道

 エマの言葉に、セレスティーヌは少し俯いた。


「そう……」

「余計なお世話かもしれないけれど、いくらレナート様が命の恩人だとはいっても、セレスなら、他にいくらでも大切にしてくれそうな人を選べるのにとは思ったわね。私なら、あれほどの美形の天才でなくてもいいから、優しくて大事にしてくれる人の方がいいかな。……もし気を悪くしたらごめんね」

「ううん、そんなことないわ。正直な意見をありがとう」


 レナートと自分との関係はそんな風に見えていたのかと、セレスティーヌは微かに苦笑した。レナートの謝罪の言葉が、セレスティーヌの頭に蘇る。

 エマはじっとセレスティーヌを見つめた。


「もしもレナート様が思い出せないままなら、フラットな気持ちで周りを見回してもいいんじゃないかなって思うわ。あなたは人気があるんだから、別に彼にこだわる必要はないんじゃない? ……例えば、マティアス様なんて誠実だし優しいし、もし付き合ったら絶対に大切にしてくれると思うけど」


 エマに向かって、セレスティーヌは首を横に振った。


「マティアス様はエマの言う通り素敵な方だし、私も尊敬しているけれど、部下である私に対して面倒見が良いだけよ。それに私、しばらくはレナート様との婚約を続けることにしたの。実は、エマが来る前にレナート様が訪ねてきてくださったのだけれど……私、彼を思い出せなくても、もっと彼のことを知りたいと思って。それに、さっきは彼と手を繋いで庭を歩いたの」


 セレスティーヌがほんのりと頬を染めると、エマはきらりとその琥珀色の瞳を輝かせた。


「本当に!? それは信じられないくらいの進歩ね。……あなたが彼の記憶を失くしたことも、案外悪くはなかったんじゃないかしら。セレスが今でもレナート様がいいなら、もちろん応援するわ」

「私自身も、まだレナート様とこのまま結婚するのかまではわからないけれど、彼を思い出すのかどうかも含めて、しばらく様子を見てみるわ」


 セレスティーヌは、意外にも細やかに彼女の好きなものを覚えていてくれていたレナートのことを思い出し、心が温まるのを感じていた。ふわりと柔らかな表情になったセレスティーヌを、エマはにっこりとして見つめた。


「レナート様についての記憶が、無事に戻るといいわね」

「……それとね、まだ私自身でもよくわかっていないのだけれど、どうやら、あの事故から身を守ろうとした時に、能力が伸びた部分があるみたいで」

「それって『覚醒』したってことかしら? 凄いじゃない」


 エマは興奮気味にセレスティーヌの肩を叩いた。


「覚醒したようだとは言っても、別人のように能力が伸びる訳ではないと思うけれど。でも、以前に目指していたレベルには届いているみたい。今までよりももっと、魔術師団のお役に立てたら嬉しいわ」

「それは間違いないわよ、頼りにしてるわ!」


 それから、エマは最近の仕事のことや、他愛のない噂話などをセレスティーヌとしばらく楽しんだ。

 窓から橙色の夕陽が差し始めた時、エマは慌てて席を立った。


「長居してしまって、ごめんね! また明日、魔術師団で会えるのを楽しみにしているわ」

「こちらこそ、忙しい中ありがとう、エマ。また明日ね」


 大きく手を振って去っていくエマを笑顔で見送りながら、セレスティーヌは、優しい友人の気遣いに心が温まるのと共に、翌日からの久し振りの魔術師団での復帰に向けて、気持ちが引き締まるのを感じていた。


***


 魔術師団に復帰した初日、セレスティーヌを待っていたのは、無理のない範囲での怪我人の治療だった。この日はマティアスもセレスティーヌの側でその様子を見ていた。セレスティーヌは、回復魔法を使いながら、確かに自らの魔力が高まったことを感じていたけれど、魔力を使い切る少し手前でマティアスがセレスティーヌを止めた。彼は、満足気にセレスティーヌに向かって微笑んだ。


「君の魔力量は格段に増えているし、回復魔法自体の力も相当に向上しているようだね。ただ、初日から無理をすると身体に負担がかかる可能性がある。まだ事故の後、それほど時間も経っていないし、今日はこれくらいにしておいた方がいい」

「わかりました、マティアス様」


 セレスティーヌはその後、最近の魔物の出没状況や怪我人の状況などの情報共有を受けてから、エマにも手を振って、すっかり陽が落ちた魔術師団の拠点の外に出た。出入口を潜った時、側の柱に背を凭せ掛けて立っている紺色のローブの青年に気付いて、セレスティーヌは目を瞠った。


「……あら、どうしてこんな所に?」


 帰路に就こうとしている魔術師の女性たちが、うっとりとその美しい青年を振り返っていた。セレスティーヌの姿を認めて歩いて来た青年が恭しく彼女の手を取ったのを見て、周囲がにわかにざわついた。


「君を待っていたんだ。家まで送るよ」


 セレスティーヌに近付きその手を取ったのは、前日に彼女が会ったばかりのレナートだった。

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