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「なっ、今の爆発音は何事だ!?」
「魔族です! 上級魔族、数名による襲撃です!」
魔族? 流石ファンタジー世界。魔族がいるなら、エルフやらドワーフとかも居るのかな…じゃなくて。ユーナリーカ国とやらの襲撃じゃないのか?(あ、相手が魔族だから“万全の守り”とやらが突破されたのか?) てか、おたくら、どんだけ敵が居るんだよ。しかも。よく知らないけど魔族って強そうなイメージがあるんだよな。
狙われているのか、喧嘩を売ったのか。後者ならバカなんだろうけど、やっぱり隠している事あったな。まだまだ、あるんだろうなぁ…俺には関係ないけど。
「何ぃ!? まさか、もう召喚魔法陣を発動させた事に気づかれたと言うのか!? と、とにかく!! お前達! まずは国王陛下、王妃殿下方と私、勇者殿達を連れて速やかに安全な場所へ誘導しろ!!」
部屋に居た兵士と報告に来た兵士、合計四人が王と王妃、王子と王女。『何、なに!? 何が起きてんの!? は? ちょっ、腕! 腕をひっぱらないで!?』戸惑いの声をあげる五味クン達を誘導して、囲むような形で部屋から移動しようとしている。
ふと、こちらを見た王子と目が合った。一瞬だけフッと微笑んだ王子は、口パクで『トーゴ、また会おう』と言い、何かに向けてチョイチョイと小さく指差しをしたかと思えば、そのまま部屋を出て行った。
え? 何か、俺が取る行動…いや、考え? 先読みされてる感があるんだけど? 読まれていない…よな?
そして宰相が、ちゃっかり自分も避難しようとしている件について。でもって俺達は放置の方向かな、これ。大いに歓迎ですけどね。だが一応ね――…
「あっ、あの! 俺達はどうしたら!?」
鬱陶しいと言わんばかりの顔で振り向いた宰相は『どうせ使い物にもならんお前達まで連れて逃げても仕方あるまい。捨てる手間も省けるし、勝手にどこへなりとも出て行けばいい!』と、先程までの態度と一変して本性と本音を全面的に押し出して来たよね。これ一国の宰相として大丈夫? とか思っちゃうよね。
よっしゃ! 何が起きて居るのかは知らないし、関係ないから知る気もないけど! きっと今、この時がチャンスだと言う事はわかる。
「わ、分かりました! しかし、逃げる途中で焦るあまり、万が一に何か物を壊してしまったり、失くしてしまったらどうしましょう!?」
「フン! 緊急事態だ、それ位の事ならば我が王も見逃してくれるであろう! ではな!」
普通さ、物は壊してしまったとしても失くしはしないよな? と。冷静な状態だったなら思い当たるだろうにねー。
宰相は置いていかれまいと、慌てて、歩き出している国王達を追いかけ、部屋から出て行った。執事やら使用人さん達も、宰相に続く形でそれぞれ部屋から出て行った。皆、冷静さを欠いてくれていて助かったな。
「さて、と」
遠くではまだ、ボォオオン!! やら ドカーン!! やら派手な音が聞こえて来ているけれど。多分この部屋は大丈夫。そんな気がしている。だからこそ、落ち着いていられる訳なんだけど。(【直感】スキルが仕事してくれているのかね?)
「前嶋さん、藤堂くん。俺はこの期に乗じて、この国から出て別の国へ向かおうと思うんだ」
だから、二人も元気でね。これは余計なお世話かもだけど…俺的には二人もこの国に留まるのは止めた方が良いと思うよ。
そんな言葉が続く筈だったのだけど――…
「あの、高宮くん。よかったら私もご一緒させてくれませんか?」
私も、ここに残る気はありません。あんな風に言われて残りたいと思えませんし。けれど一人で旅をするにはリスクが高すぎるので…と言うのは前嶋さん。
…――そして。
「俺も。何も解らない世界を一人で歩くより、信頼出来そうな同郷の人と一緒に居る方が心強いよ。俺、もう高宮君と前嶋さんの事、勝手に仲間だと思っちゃってるからさ…と言う訳で。高宮君、前嶋さん、一緒にこの国から逃げようよ」
藤堂も笑顔(眼鏡で解りづらいけど)で、一緒にここから逃げようと言ってくれたので。
「二人とも、ありがとう。俺もさっき、二人と一緒に居る前提の想像をしちゃってたから…その、ありがたいよ。じゃあ、改めて。一緒にこの国を出て、どこか安心して暮らせる場所を探しに行こう」
三人で頷きあって、部屋の中にあった両手のひらに乗る位の金で出来た、趣味の悪い謎の置き物を(実はコレ。王子が退出間際にチョンチョンと。他の奴らには見えないように指差ししてたやつなんだよ)無理やりポケットに入れようとしたら【アイテムボックス】へ繋がったので、有難く頂いておいた。(売り捌いて当面の移動、皆の生活資金に充てさせていただきます、ありがとう、王子! …って、これ路銀にしてくれとか、そういう意味で良いんだよね? 大切に持って居てくれ、とかじゃないよね?)部屋から出ようと扉に向かおうとしたら、向こうから扉が開いた。バァン!! て。勢いよく蹴破られたね。
「な、何だ!?」
「ひゃっ!?」
「なっ!?」
え? 何、さっきの変な置き物はパクっちゃまずかったの? 王子が持ってけって合図送ってくれたよ?(憶測だけど)それに宰相閣下も『物は壊しても失くしても良いぜー!』って言ってたよ?
「チィッ、一足遅かったか!! あのクソ狸共め!! んあ? お前達が今回奴らに召喚された奴らか? 俺らが感じ取った魔力量の割には人数が少ないな? それに、お前達は何故ここに居るんだ? 逃げなかったのか?」
いえ、正に今逃げようとしていたところです。この国から。
「はい、俺達は六人召喚された内の三人です。他に三人居ましたが、その人達は宰相達と先程この部屋から出ました。俺達は“ハズレ”なんだそうで、好きにしろと言われた為、この国から出ようと話していたところです。それで…ええと? 貴方は?」
艷やかな背中辺りまである長い黒髪に翡翠色の瞳から発せられてる眼力が、めちゃめちゃ強いッスね! と言いたくなるような、黒くツヤのある鎧を身に着け、白銀色の刀身が綺麗な片手剣(って、やつかな?)を手にしている、これまた顔立ちの良い細マッチョ体型っぽい青年が現れた。ん? 若い人には美形が多いのかな、この世界。やだなー平凡な俺、浮いちゃうじゃん。
いつもお読み下さりありがとうございます…!!