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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ファンタジー 短編

【短編】俺は女神さまの観察対象

目を開けると白かった。


 ああ、助かったのかと思った。


 イマイチ覚えてはいないが、たしか、車を運転していて事故に遭ったような気がする。どのようなと言われるとはっきり分からないのだが。


 しかし、辺りを見回すと全てが白色で窓やドアや壁といったものが見当たらなかった。


 ふいに人の気配がしたのでそちらへ向くと、今まで居なかったはずなのに、そこに人が立っていた。


「目覚めましたか」


 その人はそう言った。これといった特徴を見ることは出来ないが、それが女性であるらしいということは分かった。


「ここは?」


 ある意味お決まりの質問をしてみた。


「ここは貴方の様に人生を途中で終えてしまった人が送られてくる場所です」


 そう彼女が言った。さらに、


「あなたには残りの人生を私が用意した世界で過ごしていただきます」


 というのだ。


 小躍りしたよ。だってそうだろう?


「ありがとうございます!」


 俺は女神さまにそうお礼を言って拝んだ。


「あちらで生活するにあたって、これをお渡していたします」


 そう言ってスマホっぽいものを渡された。


「あちらで生活するための知識や道具をそのタブレットによって召喚することが出来ます。では、転送します。あちらに到着し次第、タブレットを起動させ、詳しい説明をお読みください」


 有無を言わさずそれだけ言って、声が聞こえなくなった。





 まるでエレベーターに乗せられたかのような浮遊感の後、いきなり視界が開け、白一色から草原風景へと一変した。


 言われたようにタブレットを起動させ、説明とやらを読もうと思ったのだが、画面タッチでは動かなかった。


 機器の側面にボタン状のモノを探してそれを長押ししてみた。


 そうすると、やはりスマホの様に起動した。


「おお!」


 うれしくなって声に出てしまった。


 起動して説明を読めと言っていたが、説明らしきものは出て来ない。


 よく分からないまま画面を突いてみる。


 すると、アプリのアイコンらしいものが画面に現れたのでそれをタッチしてみる。


「おお、開いた開いた」


 説明とはどんなものかと読んでみてびっくりした。






   人間界における転生小説に関する考察




 人間界において、昨今時間遡行や転生、転移を題材にした物語が見られる。そして、その中には異世界と呼ばれる人間の想像した現実とは似て非なる世界へと入り込み、そこで主人公やその仲間達が活躍する筋書きによって展開される物語が存在している。


 私はその内容に興味を持った。


 それらにはいくつかの定型があり、まず、主人公が事故や病気で死亡し、神や女神と邂逅することによって、希望する世界、或いは希望する能力を与えられるというモノが最も多い。


 それ以外には、他の世界からの干渉によって転移させられるもの、神や女神との邂逅なく別の世界へと記憶を持ったまま生まれ変わるというモノなどが存在している。


 それらについて、実現可能ないくつかの状況を作り出し、複数の被験者を使い、果たして人間界の物語の様な展開に至るものかを検証してみたいと思う。



 まず、ひとりの死者を抽出し、その者を私の作り上げた世界へと出現させ、どのような事態が起きるかを観察することとした。


 そして、抽出した者に対し、物語にある様に神や女神の言葉を語りかけ、行きたい世界、必要なものを聞き、その条件に沿った世界を構築し、そこへと送り込み、どのような展開になるかを観察した。


 以後、百程度の被験者を用意し、個別に世界へ送り込み、どの様な差異が出るか、比較観察も行い、その結果をまとめるものとする。




「何じゃこりゃぁ!」


 俺はあまりの内容に驚いた。


 ここは先ほどの女神さまが作り出した、云わば箱庭という事になるらしい。


 さらにその先を読み進めると、すでに数十人がここに送られているらしい。


 一人目の被験者は異世界での軍隊召喚モノを選んだ様で、この草原で千人規模の兵力を召喚し、陣を敷き、次第に周囲へと勢力を伸張していったようだ。

 当初は比較的順調だったようだが、街を複数手中にした段階で街間の争いが起こり内部崩壊し、内乱の最中に戦死したらしい。


「おいおい、チートを渡しておいてこれかよ」


 そう独り言を言いたくなる様な結末だった。


 そのあと幾つかの事例を流し読みして見たが、この場を動かず殺された者、軍隊召喚のやりすぎで統制が効かずに自己崩壊した者。力を持ったことで勘違いした者等々、様々な事例が記載されていた。


「中間報告として、最初のひと月で半数が死亡し、1年生存したものは全体の3割、3年を超えるものは1割を切り、10年以上生存し『天寿』を迎えた者は僅か5人しかいないとは・・・」



 それを見てあ然とした。


 5人の内訳だが、3人は軍隊を使いうまく領地経営も行ったそうだ。軍隊を用いた者たちのうち、領地経営まで出来たのはこの3人だけで、それ以外の者たちは領地経営に失敗したり、戦争のみに傾倒しすぎたために身を滅ぼしている。いくら軍隊や武器弾薬を召喚できても、召喚者たち以外の統制には、まともな制度を整えた領地経営が必須となる。それを放置すれば領民が蜂起したり恭順させたこの世界の兵力が反旗を翻すことになる。


 権力を振りかざして横暴を振りまいた者たちは1人として3年を超えて生存できていないようだった。


 さて、残る2人のうち1人は開拓によっていわゆる「農家ライフ」を行ったようだ。


 最小限の工兵や技官を召喚し、村を作り上げ、そこで悠々自適の農家ライフを楽しんでいたとある。


 このような開拓行動に出た者は他にも居たようだが、安易に作物を召喚して疫病をはやらせたり、気候に合わない作物を主栽培品目として飢餓に陥ったりしてしまった事で死亡している。


 残る1人だが、なんと冒険者風なことをやっていたようだ。


 正確にはこの世界に冒険者は居ない。冒険者ギルトもない。そもそも、その様には作られていないという事だろう。


 しかし、その人は自らこの世界にモンスター狩猟を生業とした事業を立ち上げ、それを成功させてしまっていた。

 この道を選んだ他の者は組織の立ち上げが出来ず、傭兵や猟師として生計を立てようとしたようだが、その武器の性能に着目したこの世界の権力者や仲間を装って近づいてきた者たちによって殺害されてしまっている。



 あれだけチートに描かれていた武器召喚や軍隊召喚だが、現実はこの様に厳しいという状況らしい。


 どうしたものやら・・・・・・



 とんでもないものを読んでしまった。


 楽しい異世界冒険の始まりだったはずが、自分は女神さまに観察されている実験動物に過ぎないとは・・・


 かといって、今更どうすることも出来ない。


 それに、せっかく来たのだからやれるだけのことをやってみようとも思った。


 ちなみにだが、1人目はずいぶん若かったらしいな。アラフォーのはずが、随分若々しくなった自分に改めてびっくりしている。


 さて、これはどうしたものか・・


 そう思って弄っていると、新しいアプリが起動したのか、派手な音楽と共に、動画が流れた。


 ようこそ異世界へって、アレを見た後だと何だか白々しい。箱庭の間違いだろと言いたくなる。



 まあ、それは良い。これから何日なのか何年なのか分からないが、ここで生きていくわけだから説明をよく読んで、必要なものを考える事にしよう。


 まず、ここに居れば夜には夜行性のモンスターだか動物だかが出てきて襲われることになるのは、女神さまのレポートで読んだ。


 ついでに、事細かにサイコパスや変質者、猟奇犯罪者共の行状まで読んでしまったので色々頭が混乱してもいるわけだが・・・


 まあ、とりあえず、アラフォーらしからぬ元気さを示す下半身が見えているという事は、俺が全裸であるという現実を物語っている訳だ。

 何の躊躇も修正もなく書かれた変質者のノクターン!な行状を読んでしまった結果だが。



 さて、タブレットの説明によると、兵員を召喚すれば彼らの指揮官に当たる服装が手に入るらしい。


 それ以外では、服飾欄から選ぶことになるんだが、今選べるものの数は非常に限られているらしく、表示されているものは非常に少ない。

 普通にこの世界に合わせた鎧であったり服飾であったりはないのかと思ったが、それらを選ぶと武器欄にある武器のうち、剣や盾しか選べないほどのポイントを消費してしまう。なんとも不条理な仕組みをしている。


「無理やりにでも軍隊召喚させないといけない縛りプレイか?」


 そう言いたくなるほど兵員召喚ポイントが低い。その代わり、個人用品は高い。


 まず、ここでベターなのは軍隊召喚だとレポートを読んだ感想として導き出せるのだが、その軍隊というのが明治の日本陸軍なんだが、何じゃこりゃ。

 装備はスナイドル銃に四斤砲って、正気か?まあ、モンスター相手には役立つらしいが。


 その装備ならば千人召喚できるらしい。


 それより進んだ装備ならば人数が減る。三八式辺りの装備だと三十人程度しか召喚はかなわないらしい。


 個人装備だとそれ以上に壊滅的だ。服装で半分は持って行かれ、装備できるのは村田単発銃がせいぜいだ。


 個人装備を選んだ者の多くがこの非力な選択でわずか数日で命を落としているというのだから。


 かといって、兵員を召喚してもうまく立ち回らなければ結果は大同小異みたいだがな。


 なんせ、千人も指揮するのは大変だ。かといって、三八式を持った三十人で十全という訳でもない。


 そんなことを考えながら画面をスクロールする。ポイントが低い被服をまずは探してみた。


 どうやら下へ行くほどポイントは使わないが、上の方の服飾は上下の服と下着靴までのフルセットなのに対し、下の方へ行くと上下別、下着別、靴下や靴は左右バラバラといったとんでもない状況になっていた。

 暇つぶしに見ているだけでも楽しいのでついついスクロールが止められない。


 そうやって女性物やピンク系、コスプレ系、そして、禁断世界系と唖然とするようなら羅列に絶句しつつ、スクロースしていく。

 すまないがこんな状況下で他人の使用済み下着を選択するアホが居るとは思えん。状況的にそんなことをやっている場合ではないと思うが、それは俺が今後の状況を知ってしまったからだろうか?



 そして、下の端へと到達したところに懐かしい柄の迷彩服セットがあった。しかも非常にポイントが低いではないか。


「陸自の迷彩1型か。米軍のUCPと張りで実用性に疑問がある迷彩だな。が、いま選べる被服としては俄然有望だな」


 靴はセットになかったが、上下下着の親切セットだったのでこれにした。


 ポチると中空に現れてヒラリと地面に落ちた。


 いそいそと着込んでいく。


 そして、靴を求めて再度スクロールを行うと、なぜか下の端にあったはずの迷彩1型は消えていた。一度入手すると、再度の入手は出来ない仕様なんだろうか?

 そして気が付いたが、下の方には何やらサバゲセットっぽい感じのグッズが集められており、しかもかなりお買い得だったのでその中にあった靴下やトレッキングシューズを選んだ。


 これで一応服はそろった。


 さて、武器の類だが、やはり非常に高価だ。


 だがまあ、何かを選ばなければいけない。


 武器はいくつかのカテゴリーがあって、銃器、砲、車両、航空機、艦船、刀剣・盾とある。


 砲は未だロックされている。航空機は選べるが、オートジャイロの操縦なんか出来やしない。車両のうち、バイクは乗れないし、くろがね四起がこんな馬車道かも怪しい所を走れるとも思えん。自転車もあるが、何故こちらが高いんだ?


 順当に銃器を選んでスクロールを開始する。先ほどみたいな掘り出し物があるかも知れず、一気に下の端までスクロールした。


 ん?


 いやに近未来的なサブマシンガンがある。試製二型機関短銃?


 これは良いかもしれない。


 さらに、試製自動小銃乙型?


 そして、試製66ミリてき弾銃?


 何か格安品が目白押しだな、おい。


 レポートを読んだ感触から行くと、サブマシンガンはゴブリンやオークにはあまり効果がなさそうなので、小銃を選択するのがベターだろう。しかも、自動小銃が今あるポイントで召喚可能ならこれしかない。


 そして、オーガとかいう巨人退治にはさらなる威力を求める必要がある訳だが、66ミリもあれば良いんじゃない?しかも、小銃召喚したうえでも召喚可能なポイントだし。


 という事で、ポチポチと試製自動小銃乙型と試製66ミリてき弾銃なるモノを召喚してみた。


 どちらも陸軍のモノだろうと思ったら、なんと、てき弾銃は戦後のモノらしい事が、手にした時に取説の一部として理解できた。


 そう言えば、武器をオリジナルカスタムできる小説があったのを思い出してこのタブレットにはないのかと弄ってみたら、あった。


 自動小銃を漠然と高精度化、材質強化というカスタムを入力して見たが、モノが変わった様子はない。まあ、外見弄ってないからな。


 てき弾銃の方はよく分からないが、反動抑制と軽量化と入力してみた。


 すると、いきなり光り出したかと思うと、少しサイズが大きくなり、外筒部分やグリップ類が樹脂らしき風合いとなり、駐退器の材質も変わったようだ。


 持ってみると重量は半分くらいになったかもしれない。かなり軽くなった気がする。


 頭に浮かんだ取説をもとに、てき弾銃に弾薬を装填し、構えてみた。


 適当に森へと向けて引き金を引く。


 ドンという音と共に反動が来て銃が跳ね上がった。


 一瞬のちに森へと着弾し爆発している。


 うん、変わったかどうかはよく分からないが、狙った辺りには着弾しているし軽いから良いんではないかと思う。


 銃の方も撃ってみたが、良いのではなかろうか?


 使い方?分かってしまうのだから仕方がない。

とくにこの後については考えていない。単なる思い付き。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 何というか、過去に召喚された連中の悲惨な最期が現実っぽくて、良い感じです。 人間を思うように操るのは並大抵の事じゃない!。 特に、ニートコミュ障の人間には・・・(笑)。 [気になる点] 千…
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