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グリフィンクエスト~2人は勇者~  作者: 大石次郎


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メリアサ神殿攻略戦 後編

ほぼショートカットせずにひたすら神殿攻略回です!

結界破壊用魔力増幅陣の中心の所定位置に莉子とカニーラ3号に乗った歩夢とリピンがついた。2人の周囲には11個の魔法石が浮き上がっていた。

3人の目の前の中空には陣の手前の左右に置かれた水晶玉の様な物で、負の結界で覆われたメリアサ神殿が映されている。

リピンは2人に中間位置に浮き上がって伸ばした蔓で2人を囲み、護る様な構えを見せた。

チカゲ、ニョル、マリガン、ラポは陣から離れて見守っていた。


「小さいの、気張るのだぞっ?」


「リピーっ!」


「お二人も頑張って下さいっ」


「やってみる~」


「任せろっ」


「ラポ、陣はこれで問題ないんだよね? リピンを足したけど?」


「あ、じゃあ、もっ回見て見ますね」


ラポは持っていた有線端末のカメラで陣を撮って確認した。ピロンっ、と端末が音を出した。


「照合できました。OKッス」


「ならいいんだけど・・2人共、いいみたいだからやっちゃってっ!」


「はーいっ!」


声を揃える莉子と歩夢は頷き合って手を繋いだ。3人が光る熱っせられた砂の旋風に覆われ始める。


「・・アクティブマジックっっ」


「リピーっ!!」


砂の旋風は陣の中で輝く嵐に変わり、魔法石が次々と砕け散り始める。


「グリフィンディスペルっ!!!」


神殿を覆う負の結界が巨大な光の爪で引き裂かれた。その反動は陣を襲ったが、リピンの張った魔力障壁が莉子と歩夢をどうにか守り切った。

しかし千切れ飛ぶリピンの蔓。リピン自体も陣の上にダウンしてしまった。

これと同時にケンタウルス族の後ろに付いて、支援していた砂海教団の者達が所持していた魔法石の大半を使って神殿を覆う光の結界を張り直した。

残存の大型魔工機兵達が中に入り込むと収拾が着かなくなる為だった。


「リピンちゃんっ!」


「チビっ!」


2人は慌ててリピンを慎重に拾い上げた。


「スペルマジック・プラスヒールライトっ!」


莉子の治癒魔法の光で、リピンの千切れた蔓は治り安らかな表情にはなったが、そのまま眠ってしまった。


「眠った、よな?」


「うん、だと思う」


「2人共っ! 時間無いからっ。張り直したこっち側の結界、持続は80分程度ねっ」


チカゲ達は莉子と歩夢に駆け寄り、チカゲは眠るリピンを2人から受け取り、そっとラポに渡した。


「ラポ、外の連中の注意は張り直した結界の破壊に向くだろうけど、マリガンの呼び出したモンスターは直に全滅する。無理そうならこの子と、できれば蛍火号も一緒にテレポートで離脱して」


「了解です、YOっ!」


ラッパーっぽいポーズを取るラポ。一瞬、ラポを引っ叩きたくなったチカゲだが、すぐ切り替えた。


「ニョルっ」


「御意っ! アクティブマジック・スプライトポーターっ!!」


ニョルは翼を拡げ、魔法石2つを対価にラポとリピン以外の全員を光の粒子に変えて結界の中のメリアサ神殿の入り口までテレポートさせた。

入り口の扉は結界までは張られていなかったが固く閉ざされており、その前に設置されていた砂と礫にまみれた磁器でできた傀儡巨人、ポーセリンゴーレムが4体がすぐに動き出した。


「押し通るよっ?! アクティブマジック・コールラピススネークっ! コール甲殻ランサウルスっ!!」


チカゲは魔法石8個を対価に瑠璃の様な大蛇をスコーピオンマンの巣窟に放った5倍以上の大群で放ち、続けて甲殻種の陸上騎乗用下位竜を4体召喚した。

大蛇の津波はポーセリンゴーレムを飲み込み砕き、閉ざされた扉も突き破って神殿内に雪崩れ込んでいった。


「歩夢はアームを温存して影補強で車輪走行っ!」


「お、おおっ? やってみるっ!」


「我輩、光属性のテレポートは身体に合わぬだが・・」


何やら身体から煙を上げて弱っているマリガン。知らん顔でランサウルスに乗るニョル。

チカゲもランサウルスに乗りながらウワバミの腕輪から闇属性の結晶ブラックジェムをマリガンに投げ付けた。


「速くっ」


「準備がいいな・・」


ブラックジェムで力を回復させ、ランサウルスに乗るマリガン。莉子も既に乗っていた。


「先行させた蛇の探知からすると中は事前の観測通りっ! 状況が変わる前にカチ込むっ!!」


「うんっ!」


「わかったっ」


「御意っ!」


「ふむ」


チカゲを先頭に、一同は4体の甲殻種のランサウルスと液体の様にして影で補強した車輪走行のカニーラ3号に乗って神殿内に高速で突入していった。



蓮の花の装飾が目立つ神殿の灯り台には何も灯っていなかった為、直ぐに莉子が光球を5つ造り出した。


「スペルマジック・ブライトボールっ!」


光球は莉子達に随伴した。

突入した最初の広大なフロアの魔物の大半は先行させたラピススネークの大群によって駆逐されていたが多少は取り零しがあった。

体長3メートル程度の、象の様な皮膚を持ち首の短い火属性の亜人種、ヒートトロールが炎の吐息を吐きながら10数体現れた。手に鈍器を持っている。投擲の構えを見せる者もいた。


「歩夢っ、武器をっ!」


「おしっ、スペルマジック・スパークウェブっ!」


歩夢はサンダーロッド電撃の網を細長く伸ばして放ち、ヒートトロール達の鈍器を持つ手に絡めて感電させ、得物を取り落とさせた。


「スペルマジック・ブロウカッターっ!」


チカゲは手裏剣4枚に真空の旋風を纏わせて放ち、丸腰のヒートトロール達は庇おうとした腕ごと一瞬で首を切断され、切り口から炎を上げながら絶命した。


「さすがですっ、チカゲ様っ!」


「歩夢も天才児だぞっ」


「その天才児、ってやめてくれってっ」


と言いつつ満更でもない様子の歩夢。一方、莉子は歩夢の足場を気にした。


「歩夢、足元危ないよっ」


「おうっ? おっ」


倒れゆくトロール達と取り落とした大型鈍器を避けながら一行は駆け抜けた。


「この先の突き当たりの右側の階段で1度2階に上がる。スロープもあるはずだけど臨機応変でっ!」


「了解っ」


突き当たりまでくると、砂の特性を持つ幅が2メートル程度ある芥子色のジェル状モンスター、ラージマスタードスライムの一群が階段とスロープに纏わり付く様にしていた。

こちらに反応して、砂煙を徐々に起こし始めている。


「鈍いし、強い遠距離攻撃も無いけど再生するっ。足止めするからっ! 莉子っ」


「はーいっ。アクティブマジック・ブリザードエッジっ!」


莉子は騎乗でアイスジャベリンを振るい、吹雪を伴った冷気の刃をスライム群に放ち、纏めて氷漬けにした。砂煙も収まり、凍ったフロアと階段とスロープにに砂を撒き散らした。


「莉子様っ、ナイスアイシ~ングっ!」


「冬の流星の如しっ」


微妙な顔をする莉子。


「・・歩夢、凍って超滑ると思うから」


「そっちの竜も滑るだろ? 影でスパイク作れっから」


歩夢は特技を発動させるまでもなく、影使いの力でカニーラ3号の車輪に影のトゲを纏わせて氷を噛ませて問題なく、氷漬けのスロープを走行した。


「すご~っ」


「だろ? 俺、考えてサブクラ取ったしっ」


一行は凍ったスライム達をやり過ごし、2階へと駆け上がった。



2階まで来ると、完全に砕けた瑠璃の石の状態になって活動を停止させているラピススネークが目立つ様になってきた。


「裏手の出入口から出て、道なりっ」


破壊された階段の後ろ側にあった扉を抜け、通路に入ると天井から小悪魔のインプの群体が舞い降りてきた。


「こっちの詳細を魔軍本隊に知らされたくないっ。直に遭った魔族は皆始末するっ!!」


「えーっ?」


「怖っ」


「わたくしの好きな作戦っ!」


「作戦と言う程でもないが、集めるか。スペルマジック・ヘビィキューブっ!」


マリガンは前方の中空に重力球を発生させ、インプ達を1ヵ所に集め、中心まで吸われた者は押し潰して消滅させた。


「アクティブマジック・ホーリースパンキングっ! うふふふっ」


集められても死なずにいたインプ達を、ニョルはウワバミの腕輪から取り出した鞭に神聖力を上乗せして高速で滅多打ちにして全滅させた。


「正義ですっ!!!」


「グロぉ・・」


「お肉が降ってくる・・」


「スルーしな」


一行はインプ達をミンチにして先を急いだ。


「突き当たりを左に抜けて折り返す、この辺りはクルーシファ・・針が来るよっ!」


チカゲの話の途中で、突き当たりの左側の通路から魔道に堕ちたサボテン人間、クルーシファイマンが3体、ククリ刀片手に身軽に跳び出してきて、即座に膨らませた全身から針を放ってきた。

即応したニョルが拡げた翼から衝撃波を放って針の散弾を弾いた。


「1体にするっ!」


手裏剣を数枚投げながらの短い指示に、歩夢は先頭の1体の片足をマグネットロッドの念力で捉え、莉子はその1体の胸にアイスジャベリンを剛力で投げ付けて貫き凍り付けにして砕いた。

マリガンも同時に動いており、チカゲが手裏剣を投げて牽制した1体に鎖鎌を放って首を狩って仕止めた。

迫る残り1体は、身体を膨らませて至近距離から針の散弾を放とうとしたが、いち速くニョルに膨らんだ腹に拳銃で弾丸を撃ち込まれ即死の職能の効果で塵となり、さらに膨らんだ反動で破裂して滅びた。

アイスジャベリンをロッドの念力で拾い、速度を合わせて莉子に渡す歩夢。


「ありがと」


「ん」


「ああいう速くて精度のある相手は特技や魔法を使う隙が無いから気を付けるんだよ?」


「うんっ」


「ヤッバいな・・」


一行はクルーシファイマンを退け、左側の通路に走り込み、そのまま折り返す形で前進した。


「先のフロアはガーゴイルが多数設置されてるけどフロアから出られない設定みたいだから、あまり相手せずに階段直行ね」


「了解ですっ」


「わかったー」


「また階段かぁ」


「ふむ」


死んだ魔物と停止したラピススネークの残骸を越えて通路を抜けてフロアに入ると、半数以上は破壊されていたがそれでも火属性の動く悪魔像パイロガーゴイルが多数設置されていた。

端に下りの階段とスロープも見えた。

一行のフロア侵入に反応してパイロガーゴイル達は石化状態から覚醒して動き出そうとし始めた。


「爆弾使ってみるっ!」


歩夢は行きの船内で作っていた自作爆弾を動き始めたガーゴイル達にマグネットロッドを使って6個投げ付けた。閃光と共に炸裂する爆弾。4割程度のパイロガーゴイル達を炎を上げて粉砕され、残りの個体群も階段の側から吹っ飛ばした。

一行は残りのガーゴイル達を避け、素早く下りの階段とスロープに駆け込んだ。背後から火球をいくらか投げ付けられたりもしたが、精度は低く問題ではなかった。

ガーゴイル達はやはり追ってはこれない様子であった。


「余った鱗光石を使ったのですねっ、素晴らしいです!」


「いや、もうガラスの器は潰しちゃってたし、勿体なかったし」


「我輩の先祖の道楽も少しは役に立ったな」


「花火にしても綺麗だろねっ」


「花火なー」


一瞬、和んだ顔をする歩夢。足を悪くする前は花火大会の会場に自分の家族と莉子の家族とで毎年通っていた。



「・・降りた所から左手の扉ね。ここはダイアーハイエナが放たれてた。数と突進力、有るよ?」


「毒を使おう。ランサウルスは甲殻種なら耐えられるだろう」


マリガンがボソリと言うと、他の一同はやや困惑した顔をした。

降りてくると、扉が多くコの字を逆にした様な形のフロアには仲間の死骸を喰らう獅子の様なサイズの身体にいくつも突起のあるハイエナ、ダイアーハイエナが多数生き残っていた。

一行を見付けて殺到し始める。


「スペルマジック・ポイズンクラウドっ!」


マリガンはダイアーハイエナの一群に毒の雲を放ち、動きを封じ、次々と昏倒させた。

チカゲはガスマスクを被り、莉子と歩夢は口元をハンカチやバンダナで覆った。マリガン本人は耐性があり、ニョルや甲殻種のランサウルス達もある程度は毒に耐性があった。


「出るよっ」


マスク越しにチカゲは言い、一行は階段左手の破壊された扉から隣のフロアに逃れた。


「全員止まって、ニョルっ! 扉を塞いでっ」


「御意っ」


一行は一旦、進行を止め、ニョルは入ってきた壊れた大きな扉の前に出た。


「アクティブマジック・ストラクチャリストアっ!」


ニョルは破られた扉を錬成し直して完全に壁として閉ざした。

莉子と歩夢はハンカチとバンダナを口元から離し、チカゲもガスマスクを顎の下に下ろした。


「ふうっ・・ちょっとだけ休憩しよ。この先左に行った所に蛇達が仕止め損なった竜が2体残ってる」


「え? 強い?」


「とうとうドラゴン来たかぁ」


「皆さん魔法石の残数どうなってます?」


「ランサウルス達にも水を与えた方が良いのではないか?」


歩夢以外はランサウルスから降り、歩夢もシートベルトを外してマグネットロッドで自分を浮かせて浮いたまま軽くストレッチをしたりした。

マリガン以外はビスケットやハーブ水や温泉島で買った干し梅や干しナツメで軽く食事を取り、マリガンも付き合い程度にハーブ水を飲み、ランサウルス達にもウワバミの腕輪から取り出した水を飲ませ、全体で3つ、魔法石を使って全員の魔力を回復させた。

カニーラ3号を歩夢とチカゲの2人掛かりで手早く整備し終えると、休憩は終わった。


「アクティブマジック・コールエアピクシー」


チカゲは風の属性の小妖精を2体召喚した。


「待ち構えてるのは荒野種のレッサードラゴン。移動速度は正面以外は遅いけど、降りなきゃいけない同じフロアの階段にブレスを撃たれるから倒すしかない」


「闇や重力に加えて、荒野種なら雷もあまり通らないな」


「莉子様主体でいきますか?」


「わたし?」


「2班に分かれよう。相性のいい莉子に歩夢がサポートに付く、後の3人は物理ゴリ押しでもう1体を押し切る。とにかく接近後は死角から味方にブレスを撃たれない様に阻止してこう」


「このチビ達は?」


ピクシーの1体にウィンクされて戸惑う歩夢。


「1班に1体付いてもらってブレス対策してもらう。炎だけじゃなくて室内だから酸欠やガスのリスクもあるから」


「そんな感じなんだ・・」


「戦車と喧嘩できる火炎放射器みたいなもんよ」


「意味わかんない生き物だっ」


「ランサウルス達はどうしましょう?」


水を飲んですっかり元気になった様子のランサウルス達。


「まだ乗りたいけど、もう少し先で一旦置くしかない。小型種だから、ガチのドラゴンと対峙したらパニクるでしょうしね」


一行はL字型を逆にした形のフロアを進み、焦げたり、溶けてガラス質になった瓦礫の多い所まで来ると、ランサウルス達を繋いで別れ、物陰に隠れながらフロア進んだ。


「千里眼で見えます。これ以上進むとこちらの匂いを悟られるかもしれません」


「ピクシー、緩く向かい風を」


チカゲはピクシー達に軽く向かい風を吹かせた。風上から硫黄と血と肉の臭いが漂ってくる。


「クッサ~っ」


「こんな臭いなら向こうも気付かないんじゃないかぁ??」


「大したことないよ」


と言いつつ、自分だけガスマスクを付けるチカゲ。


「チカゲちゃんズルいっ」


「ズリぃぞチカゲっ」


「備えあれば憂い無し。さっさと進むよっ」


一行は不快な向かい風の中、物陰を進んでいゆくと、遠目にドラゴンが二体見えた。大型バスくらいの大きさの胴体を持つ黄土色の4足歩行する角を持つ爬虫類だった。

周囲に焼け焦げた瑠璃の残骸が多数ある他、同じ竜の死骸も2体見えた。

フロアの端に、焼け焦げた地下への階段とスロープも見えた。


「2体倒してくれただけでも上等っ! ここから別れて近付こう。あたしらは右ね」


「お、おう」


「じゃーねー」


「御二人とも御無事でっ」


「気を付けてな」


二手に別れた一行は各々気を付けて竜に接近した。2体の竜は互いに絶妙に距離を置いて寝そべり。寝入っていた。


「こっそり近付けるの、この辺までだと思う」


兎の耳や鼻をヒクつかせる莉子。


「よし、じゃあ連絡取るな」


歩夢は通信石でチカゲに繋いだ。


「こっちはスタンバった。そっちは?」


「いいよ。こっちから先行するから虚を突きな」


「わかったっ、合わせる」


歩夢は通信を切り、莉子を見た。


「向こうから行くって」


「わたし、加速するからね」


「動きは俺が抑えるから。利くかなぁ?」


「今、抑えるって言ったじゃんっ」


と、ここで遠目には礫にしか見えない手裏剣がフロアの反対側の物陰から近い方のドラゴンと片目に数発投げ付けられ、その目玉を1つ潰した。


「ガァアアアァァーーーッ?!!!」


絶叫する荒野種のレッサードラゴン。もう1体も何事かと起き出した。物陰から飛び出してくるチカゲ達。


「アクティブマジック・クィックムーヴっ!」


加速した莉子が物陰から飛び出した。歩夢と付いてるピクシーも続く。

無傷な方のレッサードラゴンは莉子に気が付き、口に炎を蓄えたが、即座に2連装拳銃で閃光弾を撃たれ、一瞬怯んだ。


その隙に莉子が額に向けてドッズジャベリンを投げ付けた。硬い鱗と表皮に阻まれ刺さりはしなかったが、額の鱗を傷付け青い血を出血させた。鱗の破片も飛び散る。

怒りのめで反撃の構えを見せたが既に高速の莉子を見失っていた。


「アクティブマジック・シェードスワンプっ!」


レッサードラゴンはその巨体を支える前足2本を、歩夢が伸ばした影の沼で沈められ、体勢を崩した。

死角に入った莉子はアイスジャベリンを構えたが、レッサードラゴンは崩された姿勢のまま、自分の足元に向かって炎のブレスを吐いた。

燃え盛る火炎が周囲の床を焼き払い、莉子は飛び退き、歩夢はピクシーに風の障壁を張ってもらって事なきを得た。

影を炎で打ち消して前足を地表に出したレッサードラゴンは目標を歩夢に変え、猛然と突進し始めた。


「 スペルマジック・ミスティックハンドっ! おりゃっ」


歩夢はマグネットロッドを構え、念力の拳を造り出して瓦礫の塊を掴んでレッサードラゴンの左頬を殴り付けた。

これで突進を止められたが、ダウンまでは奪えなかった。歩夢は念力を解除し、素手でピクシーを掴まえてから全速でバッグして距離を取った。

怒れるレッサードラゴンは大口を開けて、距離を取った歩夢に対して大火球を放つ構えを取った。


「アクティブマジックっ!」


レッサードラゴンの右側に着地して莉子がアイスジャベリンを構えた。レッサードラゴンは額を傷付けた相手にすぐに反応した。


「ドラゴンハンティングっ!!」


自分に向かって放たれた大火球をジャンプ時のテレポートで回避し、レッサードラゴンの真上の中空に出現する莉子。外れた大火球は壁に命中して爆炎を上げていた。

レッサードラゴンは莉子を察知してトゲ塗れの尾で迎撃の構えを見せたが、歩夢に顔に向かってサンダーロッドで軽い電撃を撃たれ、一瞬動きを止められた。

莉子は空中を蹴ってアイスジャベリンを構えて急降下した。狙いは額の傷。

穂先に氷の魔力を集め、一気に竜の額を打ち抜いた。

1拍置いて、レッサードラゴンの頭部から霜柱が炸裂し、莉子は槍を残して飛び退いた。


「うっひゃっ、冷やっこいっ!」


空中で震え上がる莉子。


「よっしゃーっ!」


ガッツポーズを取る歩夢。ピクシーも腰に手を当てて頷いていた。

荒野種のレッサードラゴンはフロアを揺らして倒れ、凍った頭部はその衝撃で砕け散り、アイスジャベリンをフロアに転がした。

ほぼ同時に薙刀を持ったチカゲと大鎌を持ったニョルと大剣を持ったマリガンが三位一体の攻撃で片目になったレッサードラゴンも首を切断されて仕止められた。


「ふぅ~っ、何とかなったね」


「即死がさっぱり利かなくて困りました」


「屋内だと竜のブレスは始末に負えんもんだな」


「お~いっ」


「チカゲっ! ニョルっ、オッサンっ」


2班は無事合流し、ピクシーの召喚を解除し、ランサウルスを回収した一行は地下へと降りていった。



途中、ラピススネーク達の塊が階段とスロープを塞ぐ様にして焼かれて焦げて溶けた形になっており、歩夢が持っていた残りの鱗光石の爆弾を全て使って爆破して穴を空けなけてはならなかったりもした。

地下は灯り台に陰火が多少は灯り、地上フロアよりむしろ明るかった。


「地下寒いね」


「何か、仏壇みたいな臭いするな・・」


「やめてよー」


「オッサンの幽霊がいるぞ?」


「我輩が何か?」


チカゲは魔法石を1つ使って魔力を回復させると、また召喚の構えを取った。


「アクティブマジック・コールブラウニー」


土の小精霊を喚び出した。


「ブラウニー、暫くあたし達を刃物からのみ、守って」


ブラウニーは頷いて土の塊に変化すると分裂し、一行全員の傍らに淡く光る小石の形を取って静止した。


「真っ直ぐ隣の部屋に入ると、リビングソードが設置されてる。ここまで残った蛇達が7割くらい数を減らしてくれてるけど、追い討ちがキツいから面倒だけど倒し切ってから進む方が安全だろうね」


「武器のモンスターだろ? 電撃効きそうだな」


「我輩と合わせ技を試してみるか? 歩夢よ」


「よっし、やってみっか」


「ならニョルは一応2人のカバーに入って」


「御意」


「わたしはー?」


「あ~、自由」


「おお~」


一行は即、囲まれるの避ける為に破壊された扉を抜けて隣の部屋に入ると、突進はせずに様子を見る構えを取った。

壊れた剣と刻まれた瑠璃の石が散乱するフロアに残って床に突き立てられていた独りでに浮遊しだす長剣、リビングソードの群体が現れた。

チカゲはミスリル鋼クナイを正確に投げ付けて、貫通してゆく形でリビングソードを次々と砕き、莉子はドッズジャベリンを力任せに投げ付けて旋回させ、次々と砕いた。

ニョルは集中する歩夢とマリガンの前に立ち、即死特性の銃撃を撃って殺到しだすリビングソードの数を地道に減らした。

歩夢とマリガンは声を揃えた。


「スペルマジック・ハイネガライトニングっ!!!」


猛烈な黒い稲妻を歩夢とマリガンはフロア内に放った。稲妻は残存のリビングソードの8割近くを一気に打ち砕いた。


「すご~っ」


「派手ですね。何か邪悪ですけど・・」


「へっへっへっ」


「クックックッ・・」


「まだ残ってるよっ! 集まると収拾つかなくなるから後は散開っ!!」


一行は散らばって各個撃破に乗り出した。形を変えて鉱石の様な盾の形状を取って守ってくれるブラウニーの力は主にランサウルスやカニーラ3号を守護するのに役立った。

数分でどうにか掃討できた。


「俺、やっぱ接近戦苦手・・」


「天宮の訓練っぽかったですね」


「お腹空いてきたぁ」


「さっき食べたばかりだぞ?」


チカゲはブラウニーの召喚を解除した。


「左、左、って感じだね。・・ここ左に曲がったらマミー系のモンスターがワラワラいるっ。残りの蛇達で9割以上倒したんだけど、蘇生特性持ちで、もう殆んど復活してるはず」


「わたくしが滅しましょうか?」


「ド・スちゃんは?」


「数多過ぎ。ド・スに食べさせるのも、アイツはあんまり強いアンデッドを一度に食べさせ過ぎると気が荒くなってくるから・・」


「え~?」


「ただ連中もフロアから出られない制約がある。動き遅いし、追撃も当たらなきゃ何てことない。ここはスルーできるっ」


「スルーと言っても、我輩だけなら透明化してやり過ごせそうだが・・」


「歩夢のシェードスワンプと、あたしの使役モンスターにちょうどいい子がいる。アクティブマジック・コールシープリンスっ」


チカゲはややデフォルメされた小さな王冠を被ったタツノオトシゴの様なモンスターを召喚した。


「可愛い~っ」


「言うと思った。この子は戦闘力はないけど、そこそこ頑丈は空気の玉を作れるから、その中に入って影の中に潜れば呼吸できるでしょ?」


「我輩、呼吸は特に・・まぁ、取り込んだ時の異物感は減退するかもしれない、か?」


歩夢はシープリンスを観察し、ニッと笑った。


「面白そうじゃん?」


一行はシープリンスがラッパの様な口から発生させた空気の玉の中にランサウルスやカニーラ3号ごと取り込まれ、フワフワ浮き上がりだした。


「うおっ? いいなコレっ!」


「わたし健康ランドでこういうの入ったことあるっ」


「卵だった頃を思い出します・・」


「何しに来たか忘れそうになるな」


「莉子、灯りを消して。シープリンス、歩夢の影の沼へ!」


莉子は魔法で作っていた灯りを消し、一行を包む空気の泡は、既に作ってある歩夢の影の沼へと一行は入っていった。


「ニョルの千里眼で指示して」


「本体が地中で視界は中空となると奇妙な感じもしますが・・最適解でやってみましょう!」


千里眼を俯瞰視点に飛ばし、陰火のみの明かりとなった薄暗いフロアにある半径1メートルにも及ばない水溜まりの様な歩夢の影の沼を確認するニョル。


「ありましたっ。あそこに我々がいるようです!」


「・・?? あそこって言われても、どっちに行きゃいいんだよ?」


「まず斜め右に行って、そこから真っ直ぐゆくとマミーどものフロアです、歩夢様っ」


「よーし」


「歩夢頑張って~」


「シープリンス、沼の中で歩夢の泡の向きはしっかり固定してね」


「ランサウルス達が少々怯えておるな・・」


歩夢は指示通りに影沼を操ってマミー達のフロアに侵入した。

呪いが染みた包帯で覆われた干からびた屍鬼、ヘイトマミー達が様々な高さの四角い小さな床板が敷き詰められたフロアに犇めき合っていた。


「登り難そうな段差や、床、マミーどもの近くは避けなくてはなりませんね」


「今、影を踏まれたら中に落としちゃうよ?」


「ではまず右・・正面です・・登りです・・蛇行しつつ下りです」


「蛇行しつつ?」


歩夢はニョルのナビに従って必死で影沼を操り、マミーフロアを複雑に縫う様にして隣のフロアへと続く破壊された扉へと進めていった。

だが、ある1点に来た所で詰んでしまった。マミー達が気紛れにフロアを動き回っている為だった。


「どうします? 待ちます?」


「うーん、ランサウルス達のストレスもあるからね。・・陽動してみるか。ニョル、ここまで着たルートで一番近い高所って今大丈夫?」


「はい、何とか」


「歩夢、場所、感覚でわかる? そこに影だけ少し伸ばして」


「やってみる・・」


歩夢は影沼の端をヌーっと手近なフロアの高所に伸ばした。


「シープリンス、影を通して大きくなる泡をたくさん出して」


チカゲと共にいるシープリンスは泡の中から小さな泡を大量に出した。泡は細く伸ばした影を通ってフロアの高所の位置まで来ると、一気に影の先から中空に噴出し、膨らんで巨大化していった。驚くヘイトマミー達。


「影戻してっ、ニョル泡の方向指示っ!」


慌てて影を高所から引っ込める歩夢。


「右回りぐるっと離して行って下さい。そこで散らばしてっ!」


離れた位置でバラバラに散って浮く大きな泡にマミー達は群がり出した。強く触れればそれは弾ける。中には包帯を使って千切った自分の拳を投げ付けて泡に攻撃しだす者もいた。


「ルートが通りましたっ! 歩夢様っ、そこから上上下下右左ですっ」


「いやそれ元の場所に戻ってない?!」


「坂になってますから道なりで行けますっ!」


「マジで?」


「歩夢、頑張ってっ!」


「地表の接地感で大体わかるだろう?」


「接地感??」


歩夢は半信半疑のまま影沼を進め、マミー達が泡に惑って大混乱のフロアを何とか脱出できた。



フロアを抜けた先は天井が損傷しており、そこから砂や礫が落ちて床や立ち並ぶ精霊像等に降り積もっていた。

一行は影沼からでて泡も解除し、チカゲはシープリンスの召喚も解いた。ランサウルスも一安心した様子だった。


「上へも抜けられそうだが?」


「いや、この上のフロアからじゃ攻略ルートに戻れない。莉子、明かりをもう灯して大丈夫だから」


「うん、スペルマジックブライトボールっ!」


再び光の球を5つ作って一行を照らす莉子。


「この先、恩寵の泉の間を塞いでる悪魔とのまでに戦闘は階段前のフロアの1度きり。小型魔工機兵の群体だけ。ただそこまでたどり着けた蛇達が少なくてあまり削れてない」


「どんなヤツらだった?」


「うーん・・小型といっても身体が大きいし動きは単純だね。ただ電撃を使うヤツが多かったから、たぶんこっちの電撃もあまり利かないと思う」


「マジかぁ」


「飛行型、射撃型、近接型の3種で射撃型以外は電撃使用。連携はあまり取れてなかった」


「火力は? ランサウルスや歩夢の車椅子が狙われるのでは?」


「遠距離は榴弾以外の火力は大したことないからランサウルス達に乗って戦っても問題無いでしょ? カニーラ3号はオートガードで大体いけると思う」


「車輪使ってるからいけるかな・・」


「ヤツらの行動範囲設定は? やり過ごせますか?」


「少なくとも1階への階段まで抜けた蛇は追ってこられて撃破された。スルーは難しいと思う。壁を作るモンスターを召喚するから、それで遠距離を防いでチマチマ減らしてくしかないと思う」


「役割分担しようぜ?」


「わたしは?」


一行は打ち合わせを済ませ、1階への階段があるフロアの蛇達によって壊された最後の扉の手前まできた。

階段のフロアには小型魔工機兵達が溢れていた。

一行は視線を合わせ、頷きあった。


「アクティブマジック・コールスカルウォール」


チカゲは物陰は1枚の壁に髑髏の顔が付いたモンスターを召喚した。


「スカルウォール、隣のガラクタだらけのフロアに、あたし達にだけ透けて見える壁をありったけ作って。あと、あんたはややこしいから、壁作ったらその辺に隠れてな」


スカルウォールはチカゲの命に瞳を光らせ、階段フロアに多数の壁をランダムに出現させた。その壁は一行にだけは透けて見透すことができた。


「・・・」


フロアで魔工機兵達が一斉に起動しだす中、無言で物陰の奥へ移動して最初からこの神殿の装飾の一部であるかの様に潜みだすスカルウォール。

歩夢は一言ツッコミたくなったが、他の一同がフロアに突入したので何も言えなかった。

一行は飛行型を集中的に墜とす歩夢、マリガン班。突進してくる近接型を牽制するチカゲ、ニョル班。加速して単騎で射撃型を狩って回る莉子の3班制で掃討に乗り出した。


「アクティブマジック・シェードランスっ!」


「アクティブマジック・ヘビィバレットっ!」


スカルウォールの壁に隠れて回りつつ、歩夢は伸ばした影から多数の影の槍を打ち出し、マリガンは小さな重力球を連射して飛行型魔工機兵を撃墜し始めた。

飛行型の遠距離攻撃は機銃と榴弾。帯電した鎖分銅の様な武器も持っていたが、これは接近しない限り届かないようだった。


「あー、コア部位に撃ち込まないとわたくしの即死、全然効きませんね」


「武器変えな」


ニョルの固有の特性が無効なら、ただの回転式拳銃に過ぎなかった為、重装甲の近接型には効果が乏しかった。

チカゲの方はミスリル鋼クナイで手堅く装甲を抜いて撃破していた。

ニョルは回転式拳銃からウワバミの腕輪から取り出したライフルに武器を変えた。この弾丸は近接型の装甲を抜き、即死特性を与えて塵と変えて撃破が可能となった。


「いい感じですっ」


「・・ああ」


「チカゲ様っ、わたくしに興味無さ過ぎですよね?!」


半泣きになるニョル。


「いいから数減らしなっ」


近接型はアームによる攻撃が可能で撃たれ強くもあったが、他の武装パターンは飛行型と変わらず、ただし火力が高くスカルウォールの壁を直ぐ壊される為、チカゲとニョルは短いスパンで壁から壁へと移動しながら戦う必要があった。


「よっ、ほっ、よいしょっ!」


アイスジャベリンとドッズジャベリンを双手に持ち、加速状態でスカルウォールの壁から壁へと跳び回る様に移動しながら、莉子は射撃型魔工機兵への強襲を繰り返した。

射撃型はライフルによる狙撃や大型榴弾の砲撃が強力だったが、近接型程装甲が厚くは無く、電撃分銅や格闘アームも持っていない為、近付いてしまえば撃破することは比較的容易であった。

それから飛行型を駆逐し尽くして、最初にフリーになったのは歩夢とマリガンだった。見れば莉子は快調に遠距離型を倒し続けているが、時折壁裏に隠れた時の顔は加速状態が長く続いて疲労している様に見えた。

チカゲとニョルは特には疲労していない様子だったが、持ち場のスカルウォールの壁が殆んど壊され、接近に成功して近接型がそろそろ格闘戦にもちこみそうな気配があった。


「オッサン、二手に分かれていいか?」


「今、そう言おうとしていたところだ」


「よしっ!」


歩夢は莉子のカバーに入る為に、マリガンはチカゲ達のカバーに入る為に分かれて移動を始めた。


「莉子っ! 援護するっ」


「遠距離ヤバいよっ?!」


「え? どぉおお~~っ?!!」


接近戦で莉子にいいようにやられていた射撃型達だったが、遠距離攻撃は正確な高火力で、あっという間にスカルウォールの壁を破壊して歩夢を慌てさせた。


「近付いた方が安全だよっ!」


「ううっ。じゃ、取り敢えず・・援護して!」


「・・・わかった」


若干グダグダになる歩夢だった。

チカゲとニョルはマリガンが援護に入ったことで一気に撃破ペースを上げ、接近を許さなくなり、相手は感情の無い機械である為、指揮者がいない限りは同じ行動パターンを取り続けることもあって一方的な攻勢となっていった。


「チカゲ様っ! こちらは良好ですが歩夢様がヘッポコなことになっているようですっ」


「はぁ・・スペルマジック・チャフミスト」


チカゲはセンサー系も防ぐ濃い霧を射撃型達と近付こうとしてウロウロしていた歩夢の間に張った。

正確な砲撃が止み、歩夢は大急ぎで回り込んで接近し、多数から纏めて射線を通されない位置の壁の裏まで来た。両手でチカゲに円を作って見せる歩夢。

チカゲはチャフミストを解除して、再び自分の攻撃に専念し始めた。

歩夢の莉子への援護が機能したこともあり、数分で3種の小型魔工機兵の群体の殲滅に成功した。

チカゲは隠れていたスカルウォールと煤まみれになった甲殻種のランサウルスを集めた。


「ランサウルス達はよく頑張ったね。スカルウォールもまぁ助かったわ」


それぞれ召喚を解いた。


「あ~、疲れたぁ」


全員それなりに消耗していたが、1人で加速した近接戦を繰り返した莉子さすがにヘタリ込んで体力回復効果の有るポーションを飲んでいた。


「残っている魔法石の振り分けをした方がいいな。まぁエーテル液等もあるだろうが」


魔法石同様に魔力を回復させる効果のあるエーテル液は戦闘中であっても飲み干さねばならず、魔法の対価として使用する場合も少々効率が悪かった。

一行は魔法石を、莉子に3個。歩夢に4個。チカゲに5個。ニョルに6個。マリガンに4個。振り分け直した。


「ニョルは最悪テレポートで纏めて脱出できる様に魔法石3個は残しといて」


「御意」


「莉子にも一応、遠距離武器を渡しておいた方がいいだろう」


「わたし?」


「そうね・・あたしの忍具でもいいけど、誰かもうちょっと使い易いの持ってない?」


「俺、無いや」


「我輩も癖が強い物が多い」


全員の視線がニョルに集まった。


「ああ・・ありますね。ちょっと旧式で重いですけど、莉子様の腕力なら。どこしまったかな・・えーと」


ニョルはウワバミの腕輪の中を探り、機械化されたボウガンの様な武器を取り出した。持ち手の底を引っ張ると丸い穴の有る板の様な物が出てきた。


「退魔型マシンボウガンで、ここの弾倉に魔法石を入れて使います。連射はまぁまぁですが精度はもう一つなので注意して下さい、莉子様」


弾倉を空のまま戻し、ニョルはマシンボウガンを莉子に渡した。


「おお~、カッコいい」


気に入った様子の莉子。


「じゃ、後は出たとこ勝負になるけど、下手にいきなり手を出すとヤバい場合もあるから、まず相手の手の内を見る。一瞬待ってね」


「御意です」


「ボス戦はアーム歩行でいくっ!」


「砂海教の結界は後40分弱。厳しいかもしれんな」


「何か食べていい?」


一行は莉子に蓬パンと人参を食べさせ、神殿1階の恩寵の泉の間の手前にある、大祭事の間へと上がった。



階段を昇り切って、大祭事の間を見渡せる様になると、大きな精霊メリアサ像が破壊され、奥の恩寵の泉の間へと続く向かって左右に1つずつある扉は無数の人や亜人の骨を錬成した物で閉ざされているのが見えた。

そして、中央の奥に有る祭事用の石舞台の上で、扉と同じ様に骨を錬成した蓮の花が開き、悪魔が姿を現した。

昇ってきた階段は骨の錬成物で一瞬で閉ざされた。背後の本来の入り口も骨の錬成物で閉ざされていた。

悪魔は今にも風化しそうなボロ布を纏った腰の曲がった途方も無く歳を取った、銀髪の、性別のわからない閉じられた4つの目と穴だらけの蝙蝠の翼を持つ姿をしていた。

悪魔は全ての瞳を開いた。


ドクンっ!


奇妙な衝撃が走り、マリガンとニョルは違和感を、莉子、歩夢、チカゲは目眩を覚えた。と、


「っ?!」


チカゲの手が嗄れ始めた。


「シルバーパピーだっ! ニョルっ、若返りの歌をっ!!」


「御意っ!!」


ニョルは回転式拳銃で悪魔、シルバーパピーを銃撃しながら歌い始めた。合わせてマリガンは牙の生えた砲筒を取り出し、抱えて悪魔を砲撃し始めた。


振り子を逆打ち 絹衣を手解き 定められた道を辿れ 天は遠い 汝の受難は明日の物・・・


チカゲの手の嗄れが戻り、莉子と歩夢の目眩も治った。

シルバーパピーはニョルとマリガンの攻撃に一切怯まず、ゆっくりと浮き上がり、ボロ布の衣服から多数の嗄れた老人の腕を蛇の様に、やはりゆっくりと伸ばし始めていた。


「何だコレ?! アイツ、凄い遅いけど??」


「何かフニャ~ってなったよ?!」


「アレは悪魔シルバーパピー! 老化の職能を持っている。アイツの支配域でどんな者も老いて朽ち果ててしまう。触られるとより強力に呪われるよっ」


「えーっ?!」


「武器、変えるんだねっ」


莉子はマシンボウガンに持ち替え、弾倉に魔法石を込めた。


「闇属性以外は何でも効くけど異様に打たれ強い。身体の破片に当たっても老化するから気を付けなっ。アクティブマジック・コールド・スっ!」


莉子が切り替えて不慣れなマシンボウガンで光属性の矢を撃ち出し、歩夢が攻撃法に困惑する中、チカゲは魔法石1つを対価に冥府の魔獣ケルベロスのド・スを召喚した。


「ド・スっ! シルバーパピーを倒すっ。武器変化しろっ、雷属性でいくっ!」


「何だぁっ?! あんなヤツと戦いたくねーよっ!」


「早くっ、お爺さんになりたいの?!」


「最悪だっ!!! アクティブマジック・ウェポンフォームっ!」


ド・スはサブマシンガン程度のサイズの三口タイプの手持ちガトリング砲に変化した。チカゲはド・ス砲を構え、電撃の弾丸をシルバーパピーに連射し始めた。


「スペルマジック・スタンハンマーっ!」


戸惑いつつ、電撃の鎚を緩慢な動きのシルバーパピーに撃ち込む歩夢。攻撃は問題無く命中したが、シルバーパピーの姿は今にも枯れそうな老人から初老程度に若返り、衣服も翼も少し修復され、移動速度も蛇の様な腕の速度もやや上がった。


「何か若くなって速くなったぞ?!」


「コイツは衰えると若返り、若返ると速くなるんだよっ!」


「何それっ?!」


「鳥女の魔力が持たんっ。とにかく速く倒すのだ歩夢っ!」


「お、おうっ」


一行はシルバーパピーの緩慢な攻撃と宙に浮き続ける破片を避けつつ、猛烈な集中攻撃を繰り返し、シルバーパピーを30代程度まで若返らせた。翼も僧服の様な衣服も完全に再生した。

この年齢まで若返るとシルバーパピーの攻撃や移動はむしろ速くなり、何より散らばった悪魔の破片が邪魔で立ち回りが難しくなってきた。


「マリガンっ! 吸ってっ」


「承知っ。スペルマジック・ヘビィキューブっ!」


マリガンはチカゲに応え、魔法石1つを対価に5つの重力球を作り出し、シルバーパピーの破片と今出している多数の腕を全て集め、消滅させた。


「一気に畳むよっ?! ド・スっ、火力3倍っ!」


チカゲは魔法石1つを対価にド・ス砲の火力を上げ、他の一同も最大限攻勢を掛けた。

シルバーパピーの姿は一気に煌びやかな僧服を着た幼児の姿になった。ニッと嗤うシルバーパピー。


「来るよっ?!」


シルバーパピーは高速で飛行しながら、全身から多数の腕を伸ばし、放ってきた。一行は一旦攻撃を止め、回避に専念しなくてはならなくなった。


「ぐぅっ・・我輩は魔法石を使い切るぞ?! スペルマジック・タイムスロウっ!」


マリガンは残る魔法石2個を使ってシルバーパピーの時間を減速させた。それでも30代の姿と同じ程度の速度だった。


「向こうも時の属性っ! すぐ破られるぞっ?!」


「押し切るよっ! ド・スっ!!」


「ド・ス様は口がヒリヒリしてきたぞっ?!」


「後で軟膏塗ってやるよっ」


「いらーんっ!!!」


一同は最後の猛攻撃を掛け、遂にシルバーパピーを受精卵、の状態まで追い込んだ。ここまで詰めるともはや悪魔は動かなくなり、周囲に散っていた破片も崩壊し、消滅した。

マリガンは砲筒を杖代わりにヘタリ込んで姿が揺らぎ、チカゲは悪魔の様子を伺いながらオーバーヒートしたド・ス砲にポーションを何本も掛けて冷やしてやっていた。

歩夢はうっかりカニーラ3号に悪魔の破片を当ててしまい壊してしまった為、マグネットロッドで自分を浮かせてサンダーロッドを構え、荒い息で悪魔を警戒していた。

ニョルは撃ち過ぎて回転式拳銃の銃身が壊れてしまった為、悪魔を睨みながら若返りの歌のみ歌っていた。


揺り篭の中 汝は知る 泡沫の夢であったと・・・


莉子はもう使い慣れたマシンボウガンをシルバーパピーの受精卵に狙いを定めていた。残弾は1発。

シルバーパピーは拳程の大きさも有る受精卵の身体から目を1つ出して莉子の方を見た。マシンボウガンが徐々に朽ち始める。


「・・君、ごめんね」


莉子はシルバーパピーを撃ち抜き、滅ぼした。

完全決着です。か~ら~の~っ、的なことはないですっ!

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