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グリフィンクエスト~2人は勇者~  作者: 大石次郎


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夜間飛行~蠍の祠~温泉島

タイトル通りの内容ですっ!

帆は無く光る虫の羽根を持つ小型船、蛍火号は安定飛行状態を維持し、アマラシアの夜空を飛翔していた。

程度の低い魔物には認識され難い特性も持っている。

数倍速い速度で飛行できたが、ネブラ大陸中部の最初の目的地まで一晩掛けてゆっくり飛行し、子供達を休ませ、気持ちの整理をさせるとチカゲが判断した。

小ぢんまりとした船内では、莉子は手鏡を手にカーペットの上に座って帽子に空けられた穴から飛び出た自分の兎の耳や尻尾、肉球、兎人間になった顔をしげしげと眺めつつ、耳当てをチカゲに即席で作ってもらった人参の形をした有線小型音楽プレーヤーで音楽を聴いていた。

楽曲は文明に影響があるとして持ち出し禁止になった莉子のスマートフォンからコピーした天宮内でも口ずさんでいたお気に入りの楽曲達だった。兎の耳は敏感で、好きな曲が益々好きになっていた。

そして、落ち着いてみると獣人になった自分の姿が改めて物珍しいらしい莉子だった。

歩夢はというと、チカゲが暇の時にやっておけとうるさかったこともあり、蟹車椅子に座って肘で身体を固定させ、腿上げリハビリをしていた。

加えてネブラ大陸中部の資料を熱心に読み込んでもいた。特にグラングリフィンの項目に注目している。

神や未明騎士団は結果的にフォローできる案件と、さほど重視していない気配だったが、霊体の状態で直接邂逅した歩夢にはやはりインパクトがあった。

グラングリフィンはネブラ大陸中部の砂漠地帯の守護する聖獣で、砂漠の大地の力が健全に高まれば力を強め、逆に衰えれば力を失う。

これまでの魔軍との戦いと、オアシスの精霊達の封印で現在は滅びた状態であった。


「う~んっ」


一旦、資料を閉じ、ウワバミの腕輪の中にしまう歩夢。目の前の敵を倒すだけならシンプルな、或いはゲーム的な気がしたが、異世界で自分が冒険の旅をする、というのは現実感がいまいちわかなかった。

しかし、このミッションに成功すると願いが叶うという。これまで起こった出来事からすると実現可能なんだろう。


「願いか・・」


元の世界では考えても仕方無いことは思考から切り離して過ごす様な所があった。しかし仕方が無いことが仕方無くなくなったら?

脚のことではなかった。やや意固地な所がある歩夢は、何ならこの足でも健常者より成功するつもりでさえいた。学校の成績はトップクラスだ。脚は問題ではない。

脚と言えば・・既に左右合わせて1万回以上腿上げ運動をしていた。ストーンマンの身体は頑強で、まだまだいくらでもできそうだったが、歩夢は一先ず切り上げることにした。

ウワバミの腕輪から冷たいハーブ水の入った瓶を取り出し、蓋を開けて1口飲んだ。

船内を見回すと、莉子は音楽を聴きながら鏡で獣人の自分を見ることに夢中だった。気に入っているようだ。

チカゲは船の操縦をオートモードにして、運転席の背凭れを倒し、未明騎士団のロゴ入りのブルゾンを被って仮眠を取っていた。

ニョルは備え付けの小型キッチンでやや遅い、全員分の夕食を作っていた。エプロンまでは付けていないが、鎧と拳銃はウワバミの腕輪にしまい、髪を纏め、自在に消せるらしい頭上の光の輪と翼も消していた。

光の輪は天宮から離れた状態で出したままでいると疲れるらしい。翼は作業に邪魔だから消したようだった。

ミリタリー風のウェアの背中は翼を出す為のハの字を逆にした様な縁を補強した切れ込みがザックリと入っていた。

ニョルは芸能人の誰かに似ている気がしたが、誰なのかは思い出せなかった。

歩夢は少し考えてから、ニョルと話してみることにした。定期的にカウンセリングを受けていたから誰でもない他人に相談することには慣れていた。


「ニュルさぁ」


「ニョルですっ! 次言ったら怒りますよ? 1度警告してますからねっ」


「いやっ、今のは普通に間違えただけだよ・・」


「何ですか?」


「あ~、元いた世界の話なんだけど」


「チキュウという世界ですね」


「まぁそう、地球の話だよ。そこの・・知り合いの話なんだ」


「はぁ・・」


取り留めもない話かと、ニョルは少し気の抜けた返事をした。


「仮にB君、とするけど」


「B君ですね」


Bはどういう言葉に変換されているんだろう? と思いつつ続ける。


「B君は父親の連れ子なんだよ」


「わかります」


「うん。で、義理の弟も産まれたんだ」


「良かったですね、B君」


「まぁ、一応・・だけど、義理の弟は身体が悪かったんだ。それも結構悪い。大人になれるかどうかもわからないくらいだ」


「可哀想ですね」


平坦な物言いだった。天使は地上の普通の範囲の出来事に基本的には干渉しない。歩夢は少なからず鼻白んだが、別に親しいワケでもなかった。気を取り直して続ける。


「で、B君もちょっと身体が悪くなっちゃったんだよ、まぁ弟と比べたらマシで、普通の生活は送れてる」


「良かったですね」


「・・・」


コイツ、凄いな、と思ったがここまで話したら最後まで続ける。


「だけど義理の母親がストレスでヒステリーになっちゃってさ。ヒステリーって翻訳できてる?」


「できてます。わかります」


「それで・・まぁ父親が家に寄り付かなくなったんだよ。浮気もしてるみたいなんだ。金は振り込まれてるし、別に義理の母親から虐待とかもないけど、やっぱ連れ子だし、義理の母親の親戚とかは結構キツいこと言ってくるし、居心地悪いんだよな」


ニョルは調理しながら少し考えていたが、やがて話しだした。


「生活には困っていないようですし、それはそれで仕方無いので、たくさん勉強して自立されたら良いのではないでしょうか?」


「ま、そうなるよね」


元の世界に居た時の自分と同じ結論だった。改めて他人に言われると、より強固に実感できた。


「因みにニョルの家族ってどんな感じ?」


「未明騎士団は全員家族です」


「いや、両親とか」


「両親ですかー。・・まず、神様の力が高まると、天宮のパワースポットに卵がポコポコ生えてきます」


「うん?」


「その卵が成熟すると、そこから天使が産まれてきます。なので、人間とは少し増え方が違いますね。うふふふ」


「えー・・」


歩夢は茸みたいな増え方だな、と思ったが口に出すのは自重した。


「エイダス何かも?」


「いえ、未明騎士団は寄せ集め集団です。天宮の卵から産まれるのは鳥の翼と光の輪を持つ者達だけです」


「そっか。まぁ・・産まれて良かったなっ! ニョルっ」


「何ですかぁ?」


テキトーな纏め方をされてやや呆れるニョル。


「俺は読書に戻るわっ」


色々、ボロが出そうなので歩夢は会話を切り上げ、ウワバミの腕輪からチカゲにもらった魔工学のテキストを読みだした。

ニョルもすぐに調理に戻った。

莉子はさっきと変わらず音楽を聴いていたが、鏡は飽きて、音楽プレーヤーを片手で持ち、立ち上がって軽く踊り始めていた。曲に合わせ、少しダウナーなステップ。


「・・・・」


実は、チカゲは寝たフリをしていただけで一通り歩夢の話を聞いていたのだった。



翌朝、最初の目的地、ネブラ大陸中部南西の端にある朱洸の祠近くの高台のやや奥に蛍火号を着陸させた。

船はすぐにステルスモードにして結界も張り、岩陰に隠された。


「砂漠地帯って言ってたけど、岩ばっかりだね、ここ。寒いし」


ドッズジャベリンを肩に担いで辺りを見回す莉子。


「精霊が封印されてから砂の砂漠は何倍にも拡大しましたが、砂漠全体としては岩場や荒野のエリアの方が圧倒的に広いのですよ? それから砂漠は昼夜の寒暖差が物凄いのです。莉子様」


ニョルは光の輪は消していたが翼は出している姿を取っていた。


「へぇ~」


「・・アーム歩行モードにしてみるか」


歩夢は岩場を車輪でゆくのを諦め、蟹車椅子のモードを変え、車輪ではなく蟹の様なアームでワシャワシャ歩く形状に変えた。


「うわっ? 酔いそうっ」


「はーいっ! 皆、集まってっ。注目っ!」


船の結界の調整を終えたチカゲが全員を集めた。


「確認するよっ。あたし達は精霊の3姉妹の長女、メリアサを最初に復活させるっ! 1番広範囲の水脈を司っているからねっ」


「でも、資料にはメリアサの封印が1番強い、みたい書かれてだぜ? そういうのって最後にやるもんじゃないのか?」


歩夢がゲーム等のイメージで言った。イベント難度は段階的に上がるというのが一般的ではあった。


「ミッションは時間との勝負っ! 後になればなる程、魔軍残党に気付かれて邪魔され易いんだ。エルアルケーの幸運の網の効果だけじゃバレずに動けるのはせいぜい1ヶ月っ! だから最初に1番効果的で、1番難しいとこを攻略するんだよっ」


「おおー・・ガチだとそうなるかぁ」


「メリアサの封印解除に必要なアイテムは砂海王の聖杯・朱。これを錬成するのに必要な素材はスカーレットジェム、甘露杯、明星の砂の最上級品を樽3つ分っ!」


「甘露杯は既に天宮にあった素材で錬成しておきました。わたくしがっ、最適解でっ!」


ニョルは自慢気にウワバミの腕輪から煌めく水を滴らせる杯を取り出してみせた。

ニョルのサブクラスの1つは器物と器物を融合させ、別の器物を発生させる錬成師だった。


「明星の砂はこの後行く予定の街でちょっと高いけど素材を買い、天宮から持ってきた素材と合わせて必要量創るっ! これから店で買える物どんどん買ってくからねっ? ショートカットするよっ!」


「チカゲちゃん、もう1個を取りにくんだよね?」


ここに何しに来たのかちょっとわからなくなってきた莉子。


「そうだよ莉子っ! 兎ちゃんっ。スカーレットジェムっ! 今から取りにゆくよっ」


「う、うん・・」


チカゲのテンションにやや戸惑う莉子。


「取り敢えずそんなとこ、ニヒヒっ。後は祠の入り口が見えるとこまで行ってから話そうっ」


一同は祠の見える高台の端の辺りまで移動した。

祠の入り口の前には土を焼き固めた様な素材でできた小規模な砦の様な門が建っており、完全塞がれていた。

砦は武装した蠍と人間の中間の様な奇怪な姿をした者達によって警備されていた。


「何だアイツら? グロぉっ」


「ずっと見てたらゾワゾワしちゃうね」


「歩夢様、莉子様、アレはスコーピオンマンです。魔軍ではありませんが、砂漠の拡大で力を増してこの祠を乗っ取り、根城として周囲の村や町を次々と襲って滅ぼしています」


「極悪じゃん?」


「酷いっ」


「一応意志疎通可能で、たまにまともなヤツはいるけど、天罰受けるまでこの粗暴なコミュニティーに属して好き勝手を繰り返したきたヤツらだ。スカーレットジェムはあそこの地下4階にある。容赦しないよ? できる?」


「やってみる、けど・・」


「微妙に人型なんだよなぁ・・」


「神罰に躊躇等あってはなりませんからっ」


目が据わってるニョル。


「まずは突入できる状況を作るっ! アクティブマジックっ! コールラピススネークっ!!」


チカゲは全身が瑠璃でできた様な大蛇の大群を召喚した。チカゲのメインクラスは魔物や器物等を自在に呼び出す召喚師だった。

瑠璃の大蛇の大群は濁流の様にして高台からスコーピオンマンの砦に雪崩れ込み、これを粉砕した。驚愕し、悲鳴を上げるスコーピオンマン達。


「凄っ」


「攻撃方法がエグいな、チカゲ」


「ニヒヒっ。蛇だけで攻略できるのは地下3階くらいまで、4階は普通に攻略するからね」


言いながら、魔法石を使って魔力をさせるチカゲ。


「もう1回、蛇達を召喚して頂ければ4階もほぼ制圧できるのでは?」


身も蓋も無いことを言うニョル。


「それじゃ莉子と歩夢のトレーニングにならないでしょ?」


「トレーニングなんだ・・」


「またスポ根かぁ」


2人がボヤきつつ、一同は完全に壊滅させられた砦の瓦礫を越え、朱洸の祠へと突入した。



3階までは討ち漏らしを片付けるだけだったが、4階まではやはり蛇達はあまりたどり着けなかったらしく、状況の混乱にスコーピオンマン達の対応が後手になる以上の効果はなかった。

4人は最短ルートをゴリ押しで、最深部へ向かっていた。


「莉子っ! 竜狩りの技はパワーがあっても大味だっ? 踊り子の技をもっと使いなっ」


「やってみるっ」


スコーピオンマン達に囲まれた莉子はチカゲの指示の応え、双手にドッズジャベリンとアイスジャベリンを構えた。


「アクティブマジック・ソリッドダンスっ!」


莉子はサブクラスで踊り子の職能を取っていた。高速で、踊る様な足捌きをして、2本の槍で次々とスコーピオン達を撃破していった。


「ニョルっ、そのまま歩夢をフォローっ!」


「了解でーす。ラララ~っ」


錬成師に加え吟遊詩人のサブクラスも持つニョルは拳銃片手に、歩夢の近くで魔法と同じ力持つ呪歌を歌っていた。


双子の星 空に揺られ 微睡む 今宵は黄金一夜 忘れなきや


母は此処に 帳の内に 古き言葉 去りし者達 聞かせ御仔らに 温き掌


双子の星 空に揺られ・・・


スコーピオンマン達は眠りの呪歌に成す術無く眠ってゆき、眠ったスコーピオンマン達をニョルは躊躇無く拳銃で撃っていった。撃たれたスコーピオン達はいずれも一撃で塵となって滅びた。

ニョルのメインクラスは処刑人。攻撃された者は死の呪いを受ける・・。


「歩夢、影を使って纏めて仕止めなっ!」


「難しいんだよっ、コレっ!」


歩夢は蟹車椅子の周囲の影を揺らめかせた。歩夢のサブクラスの1つは影を支配する影使いだった。


「アクティブマジック・シェードスワンプっ!」


歩夢は影を拡大させ、周囲のスコーピオンマン達を影の中に半ば引き込んだ。


「スペルマジック・スタンハンマーっ!」


サンダーロッドを振るう歩夢。雷の大鎚が影の沼に撃ち込まれる。中に居たスコーピオンマン達は電撃に吹き飛んでいった。


「・・よーし、残りはあたしかなぁ。ニヒヒっ」


チカゲはそれまで召喚していた巨大ロブスター型の魔物の上に乗っていて、時折、手裏剣を投げる等して牽制してスコーピオンマン達の注意が莉子と歩夢にばかりゆかない様に立ち回っていた。

チカゲのサブクラスはこの世界の工学に精通した魔工師と所謂、忍者。


「アクティブマジック・水妖三日月っ!」


チカゲはロブスター型の魔物に魔力を与え、ロブスター型の魔物は渦潮を纏いそこから三日月状の水の刃をその場で生き残っていた全てスコーピオンマンに放った。

真っ二つにされて絶命してゆくスコーピオンマン達。

チカゲ達の完勝であった。


「よしよしっ、まぁこんなもんだね」


チカゲはロブスター型モンスターの召喚を解いて帰還させた。

一同はそこからはもう殆んど戦力の残っていないスコーピオンマン達を軽く撃退する程度で、大した交戦も無く、最深部の扉の前まで来た。

しかし、扉には奇怪な紋様を浮かび上がらせる負の力の結界が張られていて手が付けられなかった。結界は扉だけでなく、扉のある部屋の壁や床、天井にまで効果を及ぼしているようだった。


「籠城ってヤツ?」


「ドラゴンハンティングでも壊せないかな?」


結界の様子を見ていたチカゲとニョルが顔を上げた。


「魔軍の結界ですね・・」


「生け贄を提供する契約でもして獲得シタンだろね。胸クソ悪いっ。莉子っ! 歩夢っ!」


チカゲは2人の方を振り向いた。


「何?」


「何だよ? 俺らに怒るなよ?」


「違うっ。2人は戦闘型の勇者じゃないけど、闇の者の結界や呪いを解く力は強い! この結界を解いてみなっ。集中すればやり方もわかるはずだよ?! 増援が来る前に開けないとヤバいよっ?」


「やり方って??」


「ムチャ振りだ・・」


2人は取り敢えず扉の目の前に行ってみた。近付くと不快な闇の障壁が2人の接近に反応してバチバチと反発しだした。

2人は言われた通り、目を閉じて集中してみた。無意識に手を繋ぎ、心の内に意識を落とす。

・・・光を感じた。その奥に、見知った光の子供の姿も見た。


「頑張ッテ、僕モ力ヲ貸スヨ?」


砂漠の大地と大空の力が2人に流れ込んできた。焼け付く様な砂の旋風が2人を覆う。チカゲとニョルは驚いたが、チカゲはニッと笑みを浮かべた。

莉子と歩夢は繋いでいない方の手で負の結界に触れた。2人は声を揃えた。


「アクティブマジック・グリフィンディスペルっ!!!」


光の鉤爪が負の結界を引き裂き、閃光がほとばしり、闇の力が搔き消された。


「やったねっ、歩夢!」


「よし莉子っ。俺達完璧っ!」


「・・思ったより強くグラングリフィンと繋がってるみたいだね、この子達」


「グラングリフィンの復活はそこまで優先していませんでしたが、別動でフォローできないか後で調整してみます」


「お願い」


チカゲとニョルはこっそり話をつけていた。


「よしっ! じゃあ、ボスキャラ倒しにゆくけど、ちょっと確認するよ?」


一同は改めて集まった。


「速攻倒しにいくのが1番手っ取り早いけど、相手の性質やこのエリアで20年近く支配的に活動していたこと、対価を支払って魔軍と契約してたことからすると、ちょっと最初に煽って反応を見てみるわ」


「どういうこと??」


「スカーレットなんちゃらとは別に、何かお宝持ってる、みたいな?」


「そんないいもんじゃないだろうけどね・・」


チカゲは複雑な顔をして、ニョルは冷々とする様な顔をした。


「アクティブマジック・コールファイアイーター」


炎を纏った怪鳥を召喚するチカゲ。


「歩夢、カニーラ3号をアーム歩行モードにしてるから、オートガードよりオート回避にしときな。しっかり身体は固定してね」


「わかった」


「莉子は状況変わるかもしれないからそのつもりでいて」


「そのつもり??」


「ニョルは・・探索する場合、3階までは蛇達で見てもわからなかったから、4階を優先して」


「畏まりました。まず、本気だしときますねっ」


ニョルは頭上に光の輪を発生させた。天使としての力が高まった。


「じゃ、行こう。・・ファイアイーター、扉ブッ飛ばして!」


「クェエエーーッ!!!」


炎の怪鳥は火球を吐き出し、扉を融解させて吹き飛ばした。一同は室内に駆け込んだ。


「神の下僕どもめっ!!!」


中に入ると即座に巨人の様な女のスコーピオンマンが丸太の様な鞭を打ち付けてきた。

石のフロアを易々とカチ割る攻撃に、莉子と歩夢は慌てて飛び退き、チカゲと怪鳥とニョルは落ち着いて回避した。

広大な室内には大型の蠍その物の怪物も多数いた。

部屋の奥の岩が露出した所には、朱く輝く鉱石の原石が多数岩肌から発生しており、満開の朱い花に見えなくもなかった。


「スコーピオンマンクィーンっ!! 少し話をしようかっ?!」


「マンでもクィーンなんだっ」


一応ツッコむ歩夢。


「ああっ?! 下僕がっ! 我に何を話すっ!」


攻撃しながらも話しはするスコーピオンマンクィーン。莉子達は一旦、攻撃を控えた。


「随分派手にここいらで喰い散らかしているが、しまいに喰う物が無くなるんじゃないかっ?! 最後は共喰いでもする気か?! 魔軍とも取り引きしてるんだろう?!」


「馬鹿めっ!! 我らをそこらの低級な魔物達と一緒にするなっ! 落ち目の魔軍どもとの取り引き等、むしろお情けで獲物を施してやってるだけだっ! 我らの完全な養殖技術を持ってすれ・・だぁぅううッ?!!」


チカゲは極太のミスリル鋼クナイをスコーピオンマンクィーンの眉間に撃ち込んだ。


「ア痛ァアアアアーーーッ?!!! 会話の返しおかしいだろぉううぅーーッ?!!」


仰け反って苦しみ、鞭をめちゃくちゃに振り回して、味方の大蠍まで潰しだすスコーピオンマンクィーン。


「ニョルっ! やはり農園、があるっ!! 見付けて処理しろっ!」


「御意っ。・・アクティブマジック・スプライトポーターっ!」


ニョルは光の粒子になってテレポートしていった。


「おのれぇええっ!!! アクティブマジック・アッシドコメットっ!!」


スコーピオンマンクィーンは鞭は当たらないと見て、これを捨て、両手で投げ付ける様にして大きな酸の塊を放ってきた。

命中しなくても床に酸が溜まり、酸性のガスも発生させた。味方の大蠍に被害が及んでも全く構わなかった。


「歩夢っ、攻撃しなくていいっ! 影を使って酸とガスの処理をしなっ。莉子はクィーンを攻撃っ! あたしは雑魚を片付けるっ」


チカゲがガスマスクをしながら叫んだ。


「簡単に言うよアイツっ!」


「わたし1人でボスかぁっ」


「・・アクティブマジック・シェードゲートっ!」


歩夢は拡げた影で大穴を空け、撒き散らされた酸とガスを吸い込み始めた。無限に吸えるワケでもない為、歩夢は冷や汗をかいていた。


「アクティブマジック・クィックムーヴっ!」


莉子は元々速い移動速度をさらに加速させた。が、早過ぎてコントロールが難しく、放置されたスコーピオンマンクィーンの鞭に槍の先を引っ掻けてすっ転び、床で回転して壁に激突した。


「痛ぁっ?! もぅ~っ!!」


莉子は隙と見て撃ってきた酸の塊を高速回避し、壁に張り付いて一旦止まり、2連装の特殊弾用拳銃で閃光弾をスコーピオンマンクィーンの顔面に撃った。


「くっ?!」


莉子は怯むスコーピオンマンクィーンの右腕に飛び付き、2本の槍を打ち込んで肘を吹っ飛ばし、凍り付かせて切断した。


「ギャアアァーーーッ!!!!」


絶叫するスコーピオンマンクィーン。一方、チカゲは怪鳥の背に乗って球形の爆弾を投げ付けて主に歩夢をカバーする形で大蠍達に応戦していた。


「・・2人は大丈夫そうだね。こっちもだいぶ数を減らしたし、一気にいくかっ」


チカゲは爆弾をウワバミの腕輪にしまい、代わりにミスリル鋼のチカゲの身丈と変わらないブーメランを引き抜いた。


「アクティブマジック・ウェポンブリンクっ!」


チカゲが身体を1回転させてブーメランを投げ付けると、ブーメランは十数個に分身し、大蠍達を次々と撃破していった。


「おのれ鼠めぇっ!!!」


「兎だよっ!」


左腕も既に莉子の破壊されていたスコーピオンマンクィーンは毒針の尻尾と口から吐く毒のブレスに攻撃を切り替えて、周囲を飛び回る莉子を仕止めに掛かっていた。

加速状態は動きが単調になるからか、動きを読まれつつある様でもあった。


「歩夢っ! 近付けなくなったから何とかしてっ!!」


「何とかっ?!」


困惑する歩夢だったが、スコーピオンマンクィーンの酸の連打が無くなり、影の大穴による処理はかなり楽になっていた。


「やるかっ・・スペルマジック・ミスティックハンドっ!」


歩夢はマグネットロッドを構え、見えざる念力の巨人の手を生み出し、スコーピオンマンクィーンの口を強引に掴んで塞いだ。


「むぐぅうううっ?!」


毒のブレスが無くなり、加速を解除した莉子はアイスジャベリンを構えた。最初はスコーピオンマンクィーンの頭部を狙おうかとも思ったが、激しく暴れて狙いが定まりそうにない。

莉子はコントロールを失ってほぼ縦に立てたままにしている毒針の尻尾にターゲットとした。


「アクティブマジック・ドラゴンハンティングっ!!」


跳び上がってスコーピオンマンクィーン頭上にテレポートした莉子は、空中を蹴って毒針の尻尾に突進した。

槍の穂先に魔力を込め、吹雪の流星となった莉子は毒針の尻尾を貫通し、氷漬けにして打ち砕いた。


「ムゴォオオオーーーッ!!!」


もがき苦しむスコーピオンマンクィーン。


「莉子っ! ぶちカマすから離れてろっ」


「んっ? わかったー」


追撃を止めて、引き下がる莉子。

歩夢はシェードホールを一旦解除し、ミスティックハンドはキープしたままサンダーロッドを構えた。狙いは眉間のミスリル鋼クナイ。


「スペルマジック・スタンハンマーっ!!」


サンダーロッドから雷の大鎚をスコーピオンマンクィーンの眉間のクナイに撃ち込む歩夢。ミスティックハンドは解除した。


「じぇああああぁぁっ!!! 何と残虐非道な奴らだぁっ!!!!」


黒焦げになり、そのままスコーピオンマンクィーンの頭部は消し炭となって崩れ去った。巨体も倒れていった。


「よっしゃあっ!」


「いえ~いっ」


いつの間にか近くに来ていた莉子とハイタッチする歩夢。チカゲも大蠍達を全て片付けおり、ガスマスクを取り、怪鳥も帰還させた。


「・・よくやったね。歩夢は影に吸い込んだ毒と酸は後で大丈夫そうな所に棄てときな」


「うん、何かスゲー気持ち悪い。あとカニーラ3号のアームがもう限界だよ。ガッタガタっ」


「サブクラス取ったんだから、後で自分で直しときなよ?」


「ええ~?」


歩夢はチカゲと同じ魔工師の資格を取っていた。今まで自分でメンテをしていた車椅子が改造されてお手上げになったのが不安だった為だが、ここまでチカゲにほぼ任せ切りだった。


「わたしがダンスで励まそうか?」


「いいってっ。1人で勝手にするからっ」


莉子と歩夢が軽口を言い合い、チカゲがそれを微笑んで眺めていると、ニョルが光の粒子と共にテレポートして戻ってきた。

全身ボロボロで、左腕が欠損していた。


「ニョルちゃんっ!」


歩夢は唖然としていたが、莉子は即座に駆け寄った。


「問題ありません莉子様。わたくしは天使ですから、これくらいでは死にません」


「痛いでしょ? 待って、・・スペルマジック・プラスヒールライトっ!」


莉子は強力な癒しの光でニョルを包み、水分や栄養素等を消費せずに左腕の欠損を完璧に修復させ、他の全て怪我や疲労も完全回復させた。

莉子のもう1つのサブクラスは回復の専門家である癒し手だった。

驚愕するニョルと歩夢。


「凄ぇな、莉子」


「ありがとうございますっ! 莉子様っ」


「大袈裟だよ~、へへへっ」


「この子は本当は竜狩りより癒し手の方が向いているくらいだったからね」


少し憐れむ顔をするチカゲだったが、すぐに厳しい顔をニョルに向けた。


「ニョル、農園は?」


「ありましたっ。治療可能な状態の者80名程を救出し、手近な浮遊島の協力者の元へ送っておきました。救えない者達はわたくしの職能で、なるべく苦しませずに・・」


痛まし気な顔をするニョル。


「農園って?」


「鶏とか牛を育てるみたいな?」


「いえ、人や亜人や妖精達です。挿し木で増やす様な、邪悪な法を行っていました。御二人には見せられません・・」


「ええ・・」


「そんな感じもあんのか・・」


2人はドン引きだったが、チカゲは固い表情を崩さなかった。


「ニョル、よくやってくれた。・・戻ってきたばかりで悪いが、このエリアの別の場所に農園を隠している可能性がある。近辺の冒険者達やスコーピオンマン達と対立していた勢力に金目の物を渡して事後処理の段取りをつけてくれ」


「御意っ! 皆様は?」


「あたし達は・・」


チカゲはそれなりにボロボロな莉子と歩夢の方をチラリと見た。


「スカーレットジェムの原石を回収したら、どこか休めそうで、換金できそうな素材の採集ができそうな浮遊島にでも行ってくるよ。出費が増えたし、2人を休ませたい。お前とは明日の昼くらいに、明星の砂の素材を買う街で落ち合おう」


「わかりま・・」


「何島?! 温泉ある? 温泉入りたいっ!」


莉子が話に割って入った。


「温泉かぁ・・、チカゲ、俺も温泉入りたい。この身体でもさすがに腰と尻が痛くなってきた」


チカゲは溜め息を吐いて表情を崩した。


「そうねぇ・・ちょっと遠くなるけど、温泉島にでも行こうか?」


「温泉島ですかっ!」


ニョルが食い付いてきた。


「わたくしっ、温泉には目がないのですっ! というのもわたくしは天宮の源泉の1つに卵がポコっと発生して産まれてきたので、もはや温泉の申し子であると自負していますっ! 温泉島も勿論、押さえてありましよ。プラチナ会員ですよっ! 毎回記念に浴衣と桶が貰えるんですっ。桶ですよ?! 桶っ! 単純温泉もいいですね。柔らかで、自律神経不安定症、不眠症、鬱状態、冷え性、末梢循環障害、軽度高血圧に効きます! しょっぱい塩化物泉は切り傷、皮膚乾燥症に良いですっ! シュワシュワの炭酸水素塩泉は角質を柔らかくし、お肌柔らかで、わたくしは飲め・・」


「わかったっ! 文字数っ。ゆっくり目に島に向かうから、夜8時くらいに温泉島で合流しよう、ニョル。それまでに段取り組んどいてね」


「勿論です。教会のコネを最大限使って片付けますっ! 温泉島の転送陣はプラチナ会員なら格安・・」


「わかったからっ! もう行きなっ」


「御意っ。失礼します。御二人も後程っ。・・アクティブマジック・スプライトポーターっ!」


ニョルは生き生きとした顔でテレポートしていった。


「アイツ、切り替え早くないか?」


「ニョルちゃん温泉好きなんだ」


「天使達は大体ズレてるから。それよりとっととスカーレットジェムの原石、回収するよっ! 首魁を倒してもしつこい奴らは増援に来たりするからねっ。手伝いなっ!」


「は~い」


「何か温泉の話したら、気持ちが観光モードになっちゃったよ、俺」


「働け、忘れろ」


残った3人は祠のどこかにあったらしい農園についてはもう話さず、スカーレットジェム原石の採集に専念した。



温泉島は莉子と歩夢がいた世界で言うところの極東風の温泉町が1つの大空に浮遊する島に全体に圧縮された様な島だった。

島は様々な種族の者達でそれなりに賑わっており、平和その物で、地上の多くのエリアが荒廃している、というのが嘘の様な光景だった。

夜、3人は男女別の温泉部屋で先に身体を洗ってから水着着用の混浴風呂に来ていた。


「いやっほぅっ!!」


元気良く風呂に飛び込む莉子。風呂の中心部はプール並みに深く、広さも温泉も莉子と歩夢が通っていた小学校の校庭くらいあった。

興奮した莉子は泳いだり、シンクロナイズドスイミングの真似をしたりと、元の世界でやったらまず怒られることを満喫していた。


「ガキだなアイツ。よっと・・」


歩夢はマグネットロッドで自分を操りつつ、湯殿の浅い所に慎重に腰掛けた。


「ふぁあああ~~~っ。こりゃあ、生き返るぜぇええ~・・・」


「お爺ちゃんか」


湯煙の向こうの案外近くにチカゲがいた。歩夢としては莉子の水着は、莉子が水着を着ている。くらいの認識だったが、チカゲは、見た目の年齢は大して変わらなくても水着姿であっても何やら直視してはならない様な気がした。


「お、おうっ。チカゲか。・・さて、俺もちょっと泳いでくるわ。意外と俺、手だけでも泳げるんだよ。今はこの杖もあるしな」


「そんな露骨に照れられたらこっちが恥ずいわ。お子ちゃまだね! ニヒヒっ」


「照れてねーしっ! 普通だしっ。泳ぐしっ。泳ぐの好きだしっ」


歩夢はしばらくチカゲを遠巻きにする様に泳いでいたが、わりとすぐに、近くもないが遠くもない、くらいの間合いに戻ってきて、風呂の浅い位置に腰掛けた。


「はぁ~っ、疲れた。クロールの切れが悪いわ。右肩の回転がちょっと・・」


チカゲは暫く知らん顔することにした。


「・・・」


「・・・」


「・・・」


「・・いやっ、そんな気にしてねーけどっ。お子ちゃまっておかしい気がすんだよな? だって、見た目もだけど、歳もそんな変わんないよ?」


負けた感じで引き下がれない歩夢。


「小6と高1」


「うっ・・。とにかくっ、ミッション関係はしょうがないけど、それ以外であんまお世話係みたいな感じはやめろよっ? ・・俺からはそれだけだっ!」


歩夢はそれだけ言ってはしゃいでる莉子の方へ泳ぎ去って行った。


「・・・」


チカゲは暫く、平静を装っていたが、


「・・プフっ! ニヒヒヒヒっ! 俺からはそれだけだっ、だってっ。お子ちゃま過ぎるっ。まぁ可愛いもんさね」


「チカゲ様」


「わぁおっ?!」


ヌッと間近に頭上の光の輪のみ消したニョルが現れた。水着着用の混浴風呂だが、なぜか全裸だった。


「いつからいたんだよっ?! というか何で全裸? ここ水着着用っ!」


「接近した状態では、まぁ可愛いもんさね、の所から。遠くからは、歩夢様が照れてチカゲ様の周囲をクルクル回って泳いでいる辺りから見ていました」


「確信犯的だなっ、お前っ! 全裸はよっ?」


「全裸に関しましては・・・」


ニョルは浅い湯殿から立ち上がり、腰に手を当て、頭上に光の輪を発生させ、己と周囲を照らした。騒然となる湯殿。莉子に両目を隠される歩夢。


「プラチナ会員は水着着用風呂に全裸入浴可、なのですっ!!! わっはっはっはっ!!」


「お前っ、会員証を発行している島の連中に騙されてるぞっ?!」


「温泉はっ! 解放っ!!! 誰もわたくしを補導できないのですっ! わっはっはっは!!!!」


「あたしが恥ずかしい感じになるだろっ?! そういうとこエイダスの真似しなくていいんだよぉーっ!」


チカゲの悲鳴とニョルの高笑いが温泉島に響くのであった。

グリフィンディスペルはアイスジャベリンと同じ用法です。グリフィンをディスペルする特技ではありません!

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