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グリフィンクエスト~2人は勇者~  作者: 大石次郎


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眠れる神様~旅立ち

まんま旅立ちまでです!

天宮中心部地下に異界アマラシアの神は静かに眠っていた。

1つの山程もある巨体の蛇の下半身を持つ女神で、身体は陶器と水晶の中間の様な材質で固まっており、完全に静止していた。

だが、以前、莉子と歩夢がグラングリフィンと一時邂逅した空間とよく似た光の粒子が微かに漂い、確かに命の気配は感じた。

眠る神の上半身がよく見える位置に宙に浮く全体が祭壇の様にも見えるフロアがあり、そこに莉子と歩夢はチカゲとニョルに連れられて来ていた。

拝謁の間、呼ばれるそのフロアには両腕を爬虫類の状態にして生やした翼を畳んだエイダス、大柄な武装した初老の黒人の天使、下半身が蜘蛛の法衣を着た小柄な老婆がいた。

拝謁の間の入り口になっている魔方陣から見て最も奥には場違いなアンティーク調の椅子が1脚置いてあり、その椅子の上に修繕はされているがボロボロになっているコアラのぬいぐるみが1つ置かれていた。

ニョルが跪き、チカゲが社交ダンスの前の挨拶の様な独特の仕草で礼をしたが、莉子は作法がわからず、歩夢は蟹車椅子に座っているより他無かった。


「神様・・おっきくない?」


「どっちかと言うとラスボスっぽいな・・」


「2人共、余計なこと言わないっ」


少しだけ振り返ったチカゲに嗜められ、2人共軽口は一先ず引っ込めた。

チカゲは咳払いをしてからコアラのぬいぐるみの方に向き直った。


「勇者2名っ! 使命に適う身体を与え、職能を与え、連れて参りましたっ」


「・・御苦労様でした、チカゲ。2人も突然のことで驚いたでしょう?」


椅子のぬいぐるみが喋り出した。


「コアラぁーっ?!」


「そっちかぁっ?!」


「依り代です。今回は子供の勇者ということで、可愛い姿でお話ししようかと・・」


ボタンの目が飛び出そうなぬいぐるみの姿で言ってくる、神。


「もっと、ちゃんと直してあげた方がいいと思う」


「どっちかと言うと怖い」


「そうですか・・・」


露骨に落ち込むぬいぐるみの神。


「神様っ! 大丈夫ですよっ?! とっても可愛いらしいですっ」


「まったくですっ! モフモフしてますぞっ?!」


慌ててフォローに入るニョルと初老黒人の天使。チカゲはジト目で2人の方を再び振り返った。


「腹から綿が飛び出てらっしゃるから、どちらかと言うとモフモフというよりドフドフっ! ですなっ、だぁーはっはっはっ!!!」


益々ヘコんで萎れるぬいぐるみの神。


「エイダスっ! 追い打ちを掛けるヤツがあるかっ。お前のそういうとこっ!」


「団長っ! ドフドフしていても私の神への忠義に変わりはありませんぞっ?! だっはっはっはっ!!」


どうやら黒人の天使が未明騎士団の団長らしかった。


「神様の依り代チョイスがアレなのはいつものことっ! それより、勇者達よっ。名乗りなさいっ。勝手に呼び出してこの蛇コアラ女っ! と内心思っていてもここはクレバーに対応することですっ」


蜘蛛の老婆の言い様にコテっ、と椅子の上で倒れて沈黙するぬいぐるみの神。


「何か、可哀想」


「そういう作戦かもしれないけど、まぁいいや。俺は与田歩夢っ! 使命って何だっ?! 俺達でできることなら、引き受けてもいいっ。ただし願いは叶えてもらうからなっ!」


「私もっ。特に願いは無いけど、歩夢がやるなら私もやってもいいよ? 家、帰りたいしっ! あっ、上谷莉子ですっ!!」


歩夢に言い様に、エイダスとチカゲと蜘蛛の老婆はニヤリとしたが、ニョルは慌て、団長は明らかにムッとした様だった。

団長が青筋を立てて何か口を開こうとしたが、ぬいぐるみの神がスッと起き上がり、話し出した。


「勇者達よ、使命を引き受けるか否かは選べます。しかし、成し遂げた暁には、確かに私の力の及ぶ限りでただ1つ、願いを叶えましょう」


「使命は?」


「砂漠でしょ?」


「はい、砂漠・・ネブラ大陸の砂漠地帯のミッションです」


拝謁の間の中空に衛星写真の様な地図が映し出された。地図の大陸は、1つの大陸の中心部から放射状に大陸の北部と南部まで砂漠が拡がっていた。


「元々ネブラ大陸中部は砂漠地帯で、それで秩序が保たれていたのですが・・魔軍の残党の呪いでオアシスの精霊の3姉妹が封印されてしまい、砂漠地帯が際限無く拡大しつつあります。2人にはこの封じられた精霊の三姉妹を解放してほしいのです」


拝謁の間の頭上に精霊の3姉妹らしき映像も映し出された。いずれも耳は尖って下半身が水の渦の様になっていたが、アラブ系の人間の様で、しかし服装はどちらかと言うと東アジア系に見えた。

1人はグラマーな美女、1人はスレンダーな美女、そして残る1人は筋肉質な女装した中年男性だった。


「1人、オジサンが混ざってるけど?」


「ネイルは可愛くしてるよ?」


「心は乙女なので3姉妹です」


「あー・・」


「ネックレスとブレスレットの組み合わせがお洒落っ」


「・・ま、いいけど。俺達でできんのか?」


「魔軍残党の主な幹部や勢力は駆逐済みです。戦闘における危険はそれ程ではありません。問題は魔軍幹部の残した呪いと封印で、これは聖なる力を持つ勇者の力が必要です。純粋な子供が適任の使命です」


歩夢はチラリ、と莉子を見た。


「莉子はともかく、俺、純粋な子供かなぁ?」


「スマホにエッチな画像保存してるもんね」


「何で見れてんだよぉおおおーーーっ?!!!」


異界に来て、最大の驚愕をする歩夢。


「指の動き見切って暗証番号解いたし」


得意気な莉子。


「神様っ! コイツもピュアな子供じゃないよっ!!」


「・・ふふっ、許容範囲です。祝福しましょう」


ぬいぐるみだが、声が半笑いの神。


「う~っ、まぁ俺達でできるんだったらやってみるよっ!」


「莉子はピュアだから指の動き30回くらい見たら暗証番号わかるよっ!」


「お前、調子乗んなよ? 絶交するぞっ?」


「ピュア兎ちゃんだよっ? ぷーっ」


図に乗る莉子。


「あんたらその辺にしときなっ」


チカゲに嗜められた。


「ふふっ、引き受けてくれるのですね? 良かった。では後のことはチカゲと・・ニョル。貴女も付いてゆきなさい」


「わたくしですかっ?!」


「神様っ! ニョル・ムッキはまだ見習いですっ。他に適任者がっ」


当人より団長が慌てた。


「構いません。ニョルなら健やかに2人の旅を見守ってくれるでしょう」


「はぁ・・ニョル・ムッキっ! ふわふわせずに確り勇者2人の使命を助けるのだぞっ?!」


「畏まりましたっ! 団長っ。・・神様っ、このニョル・ムッキっ、最適解で務めを果たしてみせますっ!!」


「はい。頑張って下さい。では・・・エル・アルケー。旅の祝福をっ!」


「御意」


蜘蛛の老婆は「キェエエーーーっ!!!」と奇声を上げて幻の様な黄金に輝く糸でできた網を、莉子、歩夢、チカゲ、ニョルに放った。

それは4人に触れるか触れないかという所で輝きながら消えていった。


「運命の糸を編み直した。これでお主らは数ヶ月の間は、幸運に護られるであろうよ」


「ありがと、エルアルケー」


「ありがとうございますエルアルケー様っ!」


「え~と、何かよくわかんないけど、ありがと」


「私もありがとう、お婆ちゃん」


「まぁ、お婆ちゃんではあるさ。フォッフォッフォッ!」


笑う蜘蛛の老婆、エルアルケー。


「健闘を祈ります・・では、私は、しばし眠りましょう・・・・」


ボロボロのコアラのぬいぐるみは再びコテっと倒れ、気配が無くなり、起き上がらなくなった。



小1時間後、天宮の桟橋に4人とエイダスが来ていた。いつの間にか夕方になっている。4人は既にクルーザー船に虫の羽根の様な物が付いた奇妙な乗り物の甲板にいた。

チカゲとニョルは砂漠の環境から身を護る力を持った砂海の腕輪、を右腕に付けていること以外に格好に変わりは無かったが、莉子と歩夢は靴と下着以外の装備を刷新していた。

2人共、ウワバミの腕輪という名前だった。物を出し入れできる腕輪を左腕に付け右腕にもチカゲとニョルと同じ砂海の腕輪を付け、頭部には色違いでお揃いのフードとゴーグルの付いた帽子被っていた。

服装は莉子はオレンジ色の丈夫な記事の服の上から甲羅の様な素材の軽量鎧を身に付け、大振りのナイフと特殊弾を撃つ為の2連装の拳銃を差していた。

歩夢はモスグリーンのかなり分厚い衣服の上にやはり甲羅の様な素材の胸当ての付いた法衣を着て、腰には小振りなナイフを1本のみ差していた。


「飲料と食糧は持ったなっ! 食事を忘れてはいかんぞっ?! 気合いが入らないからなっ、だぁーはっはっはっ!!!」


「天宮は任せたよエイダス」


「お元気でっ、エイダス様っ」


「じゃあな」


「行ってきま~す」


4人は別れをあっさり目に済ませ、船室に入った。窓から桟橋のエイダスはまだ見えた。

操舵席にチカゲが着き、パネルを操作して、アームで桟橋に固定していた船を解放し、浮き上がらせる。


「達者でなぁ~~~っ!!!」


桟橋で叫ぶエイダス。船は虫の羽根を大きく拡げ、羽根は発光しだした。


「じゃあ、莉子、歩夢、あとまぁニョル」


「何だオマケみたいなんですかぁっ? チカゲ様ぁっ」


「出発するよ?! ほんとにいいんだね?」


「わたしは大丈夫っ!」


「俺もっ!」


「なら・・出航っ!!!」


チカゲは船を発進させた。虫の羽根の船は燐光を放ちながら、大空へ進み出した。すると、


「あっ、あそこ。歩夢っ!」


「何? 莉子」


船が通り抜ける崩れた寺院の様な建物がある浮遊島の堂の上に完全に半分だけの姿にになった、2人を連れ去った悪魔がいて、2人に向かって半分だけのシルクハットを取って、芝居掛かった御辞儀をしてきた。


「あいつぅ~っ、白々しいヤツだぜっ!」


「必ず帰りも送らせてやるもんねっ」


2人が息巻く中、光る船は一路、ネブラ大陸へと進路を取った。

旅立てて良かった!

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