ナスネンダの脅威~歩夢の旅 前編
モーネン神殿の戦いの決着から歩夢をメインとした旅の始まりです。
「・・潰れろ」
ナスネンダは槍の様なフォークを手に、全身から突起を出して床を吹き飛ばしながら猛烈な勢いで突進してきた。
「ぬぅっ!!!」
残る6個の魔法石全てを宙に放ちつつ大剣でそれを止めるマリガン。魔法石が早々に1つ砕け散った。
「立て直せっ!」
背後の一同に叫ぶマリガン。
ニョルは呪いのナイフを受け、半ば結晶化した状態で時を止められたチカゲを腕輪にしまい、残る3つの魔法石の内2つを使って光の属性を高める頭上の光の輪と機動性を担う背の翼を強化しながら、呆然とする歩夢を見た。
「歩夢様、お気を確かに。ここで敗れればチカゲ様も助かりません。それにエルアルケーの術に気付いたあの魔族を逃すワケにもゆきませんっ」
「あ、ああ・・」
歩夢が手に持っていたマグネットロッドを構え直そうとして取り落とすと、莉子は杖は拾わずにカニーラ3号に乗った歩夢に歩み寄り、冷や汗をかいている歩夢の顔を両手で挟んでその目を見た。
ニョルとリピンとド・スはそれを見届けるとマリガンの支援に入った。
「歩夢、私、ゲームはあんまりしないし、漫画もアニメも小説も映画も、そんなにだから、そんな風には思えなくて、わりと最初から、これ危ないな、って思ってた」
「・・うん」
「ゲームみたいな世界の人だからしょうがない、って思えなくて、ビックリしちゃった?」
「・・・チカゲってたぶん、昔の自分を助けるつもりで俺達のこと構ってるんだと思う」
「私もそう思う。だから、私達の方がチカゲちゃんを助けなくちゃ。そうでしょ?」
「・・・だなっ!」
莉子が頬から手を離すと、歩夢は自分でマグネットロッドを操って手元に引き寄せて取り、構え直した。
「これも使ってみるか?」
メリアサから渡されたサファイアの付いた護符に魔力を込めて発動させてみる歩夢。
目映く光るサファイアの護符は砕け散りった。そして、
「ばぁ~っ!! 私だよっ?!」
メリアサ分体が現れた。
「・・いや、かもな、とは思ってたけど」
「メリアサちゃんっ! 手伝ってっ」
「勿論っ、中で状況見てて焦ったっ!! というワケでぇ~・・ホイっ!」
マリガン達を圧倒していたナスネンダの周囲に輝く水を発生させ、それをナスネンダの大フォークに撃ち当て、炸裂させて砕くメリアサ分体。
「メリアサの分体かっ! ・・死ねっ」
ナスネンダは鉤爪の様に尾を切り離した。尾は素早くマリガン達を無視して、全身が刃物てできた大蛇に姿を変えメリアサ分体に襲い掛かってきた。
すかさず莉子がミラージュジャベリンの分身槍で勢いを削ぎ、アイスジャベリンで作った氷壁で突進を止めた。
「ありがと莉子ちゃんっ! もう1発大きいの入れるから2人は時間稼いでっ」
言って水の力を高め始めるメリアサ分体。
「よーしっ、俺も・・スペルマジック・スパークウェブっ!!」
マグネットロッドを左手に持ち変え右手でサンダーロッドを構えた歩夢は、残り7個の魔法石の内、2個を使い、莉子と激しく争っていた剣の大蛇に向かって強力な電撃の網を放った。
網目の部分を莉子に向ける歩夢、歩夢の詠唱を耳で聴き、電撃の撃ち方で意図を察した莉子はミラージュジャベリンの分身槍で剣の蛇の動きを再び動きを牽制しながら電撃の網目に向かって跳び、すり抜けた。
電撃の網は剣の蛇を捉えた。激しく感電し、完全に動きを封じられ、金属の体を焦がし発熱させる剣の蛇。
「アクティブマジック」
莉子をサンジャベリンを大きく振りかぶった。
「フルアーティレリィっ!!」
構えた腕の筋肉を盛り上がらせ、魔力を込めたサンジャベリンを全力で剣の蛇に投げ付ける莉子。
サンジャベリンは尾の先まで突き抜け、剣の蛇を融解させて吹き飛ばした。
「ナイス莉子っ。ゴリラショットだっ!」
「・・ゴリラはやめて」
「あ、ごめんっ」
睨まれて歩夢が萎縮する中、メリアサの力が高まった。
「よ~~~っしっ!! 人の妹の家で好き勝手しちゃってぇ~~っ、お仕置きっ!」
ナスネンダに無数の光の魚を放つメリアサ分体。光の魚の群れはナスネンダに命中すると激しく爆ぜ、ナスネンダの翼と左目を奪い、全身を傷付けた。
機動性と反応速度が衰えるナスネンダ。ニョルが銃撃で、ド・スは雷撃のブレスで、リピンは岩の槍で畳み掛けた。
マリガンもナスネンダの左腕を大剣で斬り落とそうとしたが、既にヒビが入り、魔法石も使い切った素の一撃は通らず、逆に大剣が砕け散ってしまった。
「っ?!」
隙を逃さず身体の突起を伸ばしてマリガンを弾き飛ばすナスネンダ。マリガンは穴だらけにされた。
「マリガンっ! アクティブマジック・クィックムーヴっ!!」
アンデッドのマリガンには回復魔法がつかえない為、残り5個の魔法石を内1つを使い、ミラージュジャベリンとドッズランスを構えて1段階目の加速でナスネンダに突進し、殲滅を優先する莉子。
「やっば、出遅れがちだ。メリアサっ! 合わせ技できるか? ・・メリアサ?」
返事が無いので振り返ると、メリアサは水溜まりの中で萎びてヘバっていた。
「メリアサぁああーーーっ?!!」
「・・分体で力使い過ぎちゃった。・・歩夢ちゃん、思い出を、ありが、と・・う」
「うるさいよっ」
キラキラ輝いて消えようとしたメリアサ分体に、歩夢はマグネットロッドを使って持っていた体力&魔力回復のエリクサー3本全てをぶちまけ、さらに魔法石も2つ使った。
「ふぉおおおーーーっ?!! 漲るぅううっ」
完全復活するメリアサ分体。
「歩夢ちゃんっ! 合体技だよっ。アレいこうっ」
「どれっ?!」
顔を寄せ、小声で打ち合わせするメリアサ分体と歩夢。頷き合い、歩夢はコーラルロッドを構え、メリアサ分体は水の力を高めた。
「アクティブマジックっ!」
魔法石2つを対価にしながら声を揃える2人。
「プレスコーラルピラーっ!!」
ナスネンダの足元から輝く珊瑚の柱が数十本突き出し、ナスネンダの左腕と両足を砕いた。
メリアサもまた「ぽしゅ~っ」と萎れたので、歩夢は最後の魔法石を1つ使い応急処置だけして後に残し、カニーラ3号のアームで走行して前衛に出ていった。
「忌々しいっ!!」
宙に浮いて応戦するが素手の右腕1本では苦戦するナスネンダ。
「葉っぱざくーんっ!!」
リピンが発生させた巨大な鋸刃の葉に背を斬り付けられるナスネンダ。右腕に死の弾丸を数発撃ち込み、ヒビを入れるニョル。その右腕に飛び掛かって嚙み砕くド・ス。
莉子はさらにドッズジャベリンをナスネンダの胸に撃ち込んで追い討ちを掛けたが、浅く、口から衝撃波を放たれ吹っ飛ばされた。
「ディザードツィスターっ!!」
砂の竜巻でナスネンダの動きを封じる歩夢。
「ぐぅおおおおおーーーッ?!!!」
「ド・ス様を使えクソ天使っ! アクティブマジック・ウェポンフォームっ!!」
銃口が3口あるライフルに変化して、ニョルの方へ飛ぶド・ス。
「クソは余計ですっ! リピンっ。わーっとしてなさいっ。アクティブマジック・・」
「わーっと? リピ~、これかな?」
リピンは歩夢の砂竜巻が激し過ぎるのと、既に魔法石を使い切っていた為、取り敢えずウワバミの腕輪から下等な魔物寄せるのに使う、臭い袋を取り出し、砂竜巻の中に投げ入れた。
「ぬぉっ?! 臭いっ! 何だっ???」
混乱するナスネンダ。そうこうしている間にニョルの魔力が高まった。既に魔法石は使い切っていたが、全魔力をド・スのライフルに集める。
「テラ・レイっ!!!」
3本の熱線が放たれ、ナスネンダの胴体と砂竜巻を吹き飛ばした。
「・・やりましたか? あちちっ」
膝を突き、焼け付いたド・スのライフルを取り落とし、ウワバミの腕輪からエリクサー全3本を取り出し、2本はライフルのド・スに振り掛け、1本は自分で飲むニョル。
歩夢も力を使い切り、マリガンは残り1つだったブラックジェムで回復中、メリアサはダウンしていた。と、
「ウバァアアアーーーッ!!!!」
大口を開け、空中からリピンを強襲するナスネンダの焼け爛れた生首。
「ぎゃーっ! 顔怖いっ、顔怖いっ、無理ーっ!!」
泣きベソかきながら、シールドタクトとマグネットタクトで必死で防ぐリピン。
「リピンっ! って、おおっ?!! ぶはぁっ??」
リピンのフォローに入ろうとしたニョルに突然、ナスネンダの焼け残った巨大な胃が襲い掛かり、ニョルの顔面をしつこく殴り出した。
「ちょっ?! 胃っ?! ぼはぁっ?! べぇうっ?! 胃ーっ??」
混乱するニョル。その時、
「ドラゴンハンティングっ!!」
アイスジャベリンを構えて跳び上がり、テレポートし、ナスネンダの頭上に現れた莉子は空気を蹴って、残り2つになっていた魔法石を使い切り、アイスジャベリンに魔力を乗せた。
「やぁああーーーっ!!!」
気合いもろとも穂先をナスネンダの巨大な頭頂部に撃ち込む莉子。
「うううっ・・・他の同胞達も直に蜘蛛の糸に気付くはずだ。これまでの様に、好きには、させん・・クククッ、あぷぁッ?!!!」
霜柱が炸裂し、ナスネンダは当分を破裂させて滅んでいった。胃も塵と消えた。
「魔族の言い分じゃないけど、さっさと妹を復活させてここは去ろう。チカゲちゃんの様子も診ないと・・」
メリアサ分体はヨロヨロと浮き上がってそう言い、一行の視線はニョルのウワバミの腕輪に集まった。
・・翌日、ド・スの召喚は既に解けていたが、一行は天宮の大治癒の間に来ていた。そこでは患者衣を着せられた10数名の未明騎士団員や関係者が、床に印された治癒の魔方陣の上にで浮き上がって眠っていた。チカゲもその1人だった。
医官の天使等が数名、患者の様子を看て回っている。
チカゲの肩の呪いの短剣は既に取り除かれ、時間停止も解除されていたが、半身は未だ結晶化したままだった。眠り続けるチカゲ。
「私の解放に尽力してくれたのに申し訳ないな」
歌劇スターの様な立ち居振る舞いで、オアシスの精霊三姉妹の末の妹、モーネンが言った。モーネンとメリアサ本体、それからローブを着た蜘蛛の下半身を持つ老婆、エルアルケーも大治癒の間に来ていた。
無事復活したモーネンの力でネブラ大陸の西部と西南部の砂漠化の呪いは解けた。残るは精霊の次女アバリッヒの支配域であった北部、北西部、北東部、そして解放後も容易には沈静化しない中部中心の炎熱エリアのみ。
「あれは仕方無い、相手方に感のいい者がいただけのことだ」
傷の再生に手間取り、包帯だらけになっている為、ミイラ系アンデッドの様な姿のマリガン。
「もう限界さね。幸運の糸の効果はあんた達の居場所の秘匿と、他の大陸の魔族どもの介入の回避に限定して強化するよ」
エルアルケーは渋い顔で言った。
「婆さん、チカゲは治るんだよな?」
眠るチカゲを見上げながら問う歩夢。
「アタシは医者じゃないよ? ただまぁ処置はされてる。心配無いさね。・・モーネン、メリアサ、気になるだろうがあんた達の力は別のことに使ってもらうよ?」
「何なりと」
分体はともかく、本体はわりと落ち着いた口振りのメリアサ。
「思ったより魔族側の反応が早い。範囲を絞っても幸運の糸を利かせていられるのは精々あと2週間、ってとこさね」
苦い顔をするエルアルケー。
「エルアルケー様、北のタデオン大陸に向かった班の内、1つが冬の魔女の協力を得られそうです。砂漠中心部の炎熱エリアは、先に処理できるのでは?」
ニョルまで至って真面目に話す為、リピンが密かに、本当に本人なのか? と怪しんだりもした。
「・・チカゲ抜きでネブラ大陸の最後の攻略するのは厳しそうさね。ニョル、北に向かった連中はあとどれぐらいで成果を持ち帰れる?」
「おそらく2日。砂漠中心部の処理には3日は掛かるはずです」
「うーん・・」
エルアルケーは眠るチカゲと、メリアサとモーネン、最後に歩夢と莉子を見た。
「何日か時間があるなら、私達はチカゲちゃんの為に使いたい」
強い目で莉子はそう言い、歩夢も頷いた。
数時間後、箒星号に乗った歩夢、ニョル、リピンの3人は雲と同じ高さで飛行していた。
操縦はニョルが行い、歩夢とリピンは蛍火号より手狭な船内で、並んで毛布にくるまっていた。リピンは既に眠っていたが、歩夢は中々寝付けずにいた。
「・・ニョル、ちょっと話せる?」
リピンを起こさない様に小声で話し掛ける歩夢。箒星号は狭いので特に問題は無いはずだった。
「何ですか? 眠っておいた方が良いですよ? 昨日も余り寝ていないんでしょう?」
操縦しているので振り返らずに応えるニョル。
「ニョルは元気そうだな」
「それは勿論っ! 昨夜は天宮の温泉に入りましたし、それはもう、ぐっすりと眠りました」
「・・やっぱり、仲間が怪我したり、死んじゃったりってのは慣れっこなのか?」
ニョルは少し黙ったが、やがて口を開いた。
「慣れっこではありませんが、わたくしは産まれて、戦える状態に育ってからはずっと見習い騎士として努めています。まぁこれまで内勤も多かったですけど・・ともかく、そういったことへの処し方、という物は心得ています」
「処し方?」
「やり過ごし方です」
「どうするんだ?」
「どうしようも無いことを言い訳に、やるべきことを放り出さないことにしています。特に、私はまず自分の健康を確保することを重視します。お風呂に入り、良く食べて、たくさん寝ます。色々試しましたが、それが最適解ですっ!」
歩夢は改めて、今は天宮から離れ、狭い船内の操縦席に座っている為に頭上の光の輪も翼も消しているニョルを背を見た。
「お前は凄いな」
「そうでしょう? 歩夢様も、今は御眠り下さい。何でしたら、わたくしが子守唄を歌いましょうか?」
「えー? ちょっと恥ずいな、まぁいっか。頼むよ、ニョル」
「では・・真面目な方と、面白い方と、どちらがお好みですか?」
「真面目でいいよ。お前、スベっても全然気にしないから、こっちが疲れるんだよ・・」
「ふん? わかりました。真面目な方を歌います」
5月の雨は優しい小雨 テラスのカーテンが揺れている 愛しいお前に教えたい 小さな爪が お婆様によく似ていると 揺り篭を揺らすよ
ゆるり ゆらり ゆらり ゆらり 見知らぬシルフが笑ってる・・・
・・それが魔法の歌であったか否かは定かではなかったが、歩夢はいつの間にか柔らかい眠りに落ちていた。
思えば、元の世界に居た時も、もう何年も穏やかな気持ちで眠りに就いたことはなかった気がした。
歩夢は、光の粒子が漂う空間にいた。衣服は着ておらず、身体の輪郭は煙の様にボヤけていた。
グラングリフィンの世界だった。以前よりも倍以上空間が広がっていて、小さな浮島が集まって、大地を形造ろうとしており、その大地に対する上空に空、と呼ぶべき物も現れ初めていた。
「1人で来るの初めてだな。・・行くか」
すっかり慣れっこの歩夢は身体を飛行させ、この世界の中心の光に向かった。
光の中心の周囲には宙に浮く、石の祠が成形されつつあった。
歩夢が近付くと、光は人間の10代中盤位の歳の少年の姿になった。
下半身にはゆったりとした裾締めのロングパンツを穿いていたが、上半身は腕輪や首飾りといった装飾品だけだった。全体として地球で言うところのアラブ風かインド風の服装だった。
「よっ、グラングリフィン。ちょっと見ない間に年上みたいになってるじゃん?」
「うん、力がだいぶ戻った。もう出ようと思えば外の世界に出られるよ、歩夢」
グラングリフィンは微笑んで応えた。
「いや、魔族が何か、賢く? なってきてるみたいだから、最後の神殿を攻めるここぞ、って時まではいいよ。まぁ状況かわるかもしれないけど」
「わかった。後で莉子とも話してみるよ」
「うん・・次のこっちの大きな動きまで何日か間があるから、仲間の呪いを解くのに使える素材を手分けして集めることになったんだ」
「確か、ウォーテア大陸の元勇者、チカゲ、か・・」
遠い記憶を辿る様な顔をするグラングリフィン。
「ウォーテア大陸・・今いるネブラ大陸のの西の熱帯だっけ? チカゲはどんなミッションだったんだ?」
「どうだろう? 以前の僕は知っていた気はする。無事、回復したら本人に聞いてみたらいいよ」
「そうだな、聞くよ。バッチリ治してっ!」
グラングリフィンは頼もしそうにニッコリと笑った。
「今回は君にこれを」
小さな光を歩夢に与えるグラングリフィン。手に取ると、光は爪の様な指輪の形を取った。
「それは荒鷲の指輪。攻撃することで君に直接手に掛けようとする者から身をを守ってくれるよ」
歩夢は早速指輪を嵌めてみた。吸い付く様に指が入った。
「おお~っ、助かる。ありがとう。今回もだったけど、やっぱ俺、狙われ易いみたいだから」
「しかし君は勇者だ。上手く使ってほしい。それじゃあ・・」
「またなっ!」
光に包まれ、歩夢が目覚めると、寝相の悪いリピンに顔を足で押さえ付けられていたが、目的地の、ネブラ大陸中部の東側にある、巨石遺構の1つに近付きつつあった。
遺構の側に着陸後、歩夢は砂漠移動用の車輪の無い、大きめの脚で四足歩行する仕様のカニーラ3号で砂の砂漠に降り立った。
アマラシアに来てから礫砂漠ばかりだった為、砂地の砂漠は初めてだった。
「この身体と腕輪がなかったらヤバいんだろな・・」
石の様な皮膚の自分のストーンマンの身体と、砂漠の環境に適応する砂海の腕輪を見る歩夢。
「歩夢様、ゴーグルを。砂と日差しで痛めます」
箒星号をステルスモードで隠したニョルは、自分もウワバミの腕輪から取り出したゴーグルを付けた。
「リピンも付けたリピっ」
日射しを避けるフード付きマントを着込んだリピンもやや大き過ぎるゴーグルを付けていた。
「おっけー」
歩夢は帽子に付いているゴーグルを下ろし、目に装着した。
「この神の神殿跡の遺構で集めるのは光の属性の神器級錬成素材をただ1つっ。最適解で集め終え、夕方までには一旦温泉島に向かいましょうっ!」
「温泉島は一回挟むんだ・・」
「リピ~・・」
やや呆れながら、歩夢達は神の神殿跡遺構へと立ち入っていった。
1度、砂で埋もれた遺構は、既に別動の者達の手によって露出された状態にサルベージされ、目立つ魔物の残党も掃討済みであったが、個別に封印されたエリアまではほぼ手付かずであった。
「壊れたギリシャの神殿が砂漠に埋もれた、って感じ」
「中部は解放しても暑いピぃ」
「ルートをショートカットできる所まで少し掛かります」
「因みにここダメだったら?」
「諸々のリスクを考えると、精製用の中位程度の素材をちまちま集めるしかありませんね。そうなると今日、温泉島にゆくのを諦めなくてはなりませんが・・」
深刻そうに言うニョル。
「・・ダメならダメでなんとかなる、ってことだな?」
「リッピっ」
「・・・そんなこと、ないですっ! さぁっ、張り切って封印エリアに向かいましょうっ」
歩夢とリピンは顔を見合せた。
若干の温度差はあったものの、歩夢達はサルベージして尚、砂に埋もれた様な神の神殿跡の遺構進んでいった。
暫く進むと遺構の地面ご直径80メートル程崩落して大穴が空いた場所に来た。
「ここです、ここから降りると目指す素材があるはずの封印エリアに直行できます」
「よーしっ、リピンっ! 後ろ乗れっ」
「リピーっ!」
歩夢は収納型のカニーラ3号の後部座席を露出させた。飛び乗ったリピンはベルトを締め、フードの下の帽子を取って備え付けのヘルメットを被った。
「では、降りますよー」
ニョルは回転式拳銃を抜き、翼を拡げ、頭上の輪の光量を上げて穴に降下していった。
「スペルマジック・ミスティックウェブっ!」
歩夢はマグネットロッドを構え、目星を付けていた穴の上で比較的安定してそうな神殿の残骸に念力の糸を数ヶ所括り付け、ライトを点けたカニーラ3号を安定させ、そのまま糸の長さを調節しながら穴に降下していった。
パワーは無いが細い糸なので、ミスティックハンドより魔力消費のコスパがかなり良かった。
「この神殿、復興させるの大変そうリピーっ」
「まぁ、先に各地の街の復興が先じゃないかなぁ? 中部は中心の炎熱エリア以外も、もうあんまり人や亜人がいないみたいだし」
「神殿の復興を疎かにすべきではありませんよっ! 仮に人や亜人種が絶滅しても、また神が創造し直せば良いのですからっ」
「何か酷いこと言ってるぞ?」
「ドン引きリピ~っ」
「最適解ですっ!」
歩夢達は穴の底、遺構の地下3階北東ブロックの封印エリアのすぐ側まで降りてきた。
底はメリアサ復活時の大雨の影響で大きな溜め池になっており、空気もひんやりとしていた。
ニョルは池を避け、池の端の瓦礫の上に舞い降りた。歩夢も近くにカニーラ3号を着地させ、念力の糸を解除した。
ニョルは中空にマップを表示する小石の様な魔法道具を取り出し、確認した。
「・・こちらです」
ニョルは早速水辺に生えだした若草が多く繁った先の入り口へと、ひらりと翔び移っていった。
歩夢も敏捷にカニーラ3号を操り、池から露出して瓦礫を1つ経由して後を追った。
通路の先には負の障壁が張られていたが、以前スコーピオンマンの住み処に張られていた物と同等程度の物で、歩夢は拍子抜けした。
「歩夢様1人で解除できますか?」
「結構強力リピ」
「グラングリフィンの力がかなり戻ったし、俺の魔力量も結構増えたから、いけるよ」
歩夢は集中して魔力を高めた。
「アクティブマジック」
輝く熱せられた砂が歩夢の周囲を逆巻く。
「アチチっ?!」
後ろに乗ってるリピンも熱かった。
「グリフィンディスペルっ!」
光の鉤爪が負の障壁を切り裂き、打ち消した。
「リピン大丈夫か?」
「酷いリピ~」
「むしろ浄められたでしょう」
「普通に熱かったリピっ」
怒ってしまったリピンに体力回復のポーションを飲ませて宥め、歩夢も魔力回復のエーテルを1本飲んで先へと進んでいった。
そのまま暫く進むと、ニョルは物陰に潜み、頭上の輪の光量を落とし、歩夢にもカニーラ3号のライトを消す様に促した。
ニョルはパズルを解いた時程ではないが、目を見開いて透視の力を使っていた。
「居ますっ! メリアサの復活で弱体化はしているようですが、封印エリアの守護する魔物です。ちょっと妙ですが・・」
「妙?」
「何ピ?」
「見たことも聞いたこともない、魔物です。長期待機に耐えられる様に身体を機械化しているようですが、おそらく魔族ですね。完全に固有単独の魔物でしょう」
「強いのか?」
「いえ、それ程の力は感じません。いけるとは思います・・」
「殺っちゃうピっ! ガンガンいこうピっ」
「機械なら雷か、コレもとっとと使っちゃおう」
歩夢はサンダーロッドと、ルビーの付いた護符をウワバミの腕輪から取り出した。
「姉もだけど、聖杯の色と逆でくるよな、よっと!」
ルビーの護符に魔力を少し込め、歩夢はモーネン分体を喚び出した。何やら煌めきと共に現れるモーネン分体。
「ふふふっ! 地の癒しっ!! 砂漠のエトワールっ! モ~~~ネンっ! 参上ぅっ!!!」
ポーズを取り、薔薇を咥えるモーネン。
「・・メリアサもだけど、分体になるとちょっとフワっとするな、あんたら」
「分体は自由っ! さぁ悪しき魔物を倒そうじゃないかっ。ハハハっ!!」
モーネンは即、煌めきながら飛行し、物陰から出て突撃してしまった。
「マジかっ?! ちょっとどころじゃないっ」
「リピーっ!」
「歩夢様っ、やむを得ませんっ! 速攻でゆきましょうっ!!」
ニョルは頭上の輪の光量を上げ、歩夢もカニーラ3号のライトを付け、物陰から跳び出していった。
黄金で飾り立てられた部屋の前に体長4メートル程の4頭身くらいの機械の身体を持つ魔族が座っていて、目の前に現れたモーネンを寝惚けた様な顔で見上げていた。
「私はモーネンだっ!! 君に完全勝利するっ!」
「んあ~?? おではドズイネンだぞぉ? モーネンじゃ、ねぇよ」
「モーネンは私だっ!」
「っ?! おではドズイネンだぞぉ? モーネンじゃ、ねぇよ」
「モーネンは私だぁっ!!」
「っ?! おではドズイネンだぞぉ? モーネンじゃ、ねぇよ」
「私はドズイネンではなぁいっ!!」
「っ?! おでがドズイネンだぞぉ? おめはおでじゃねぇよ」
「私はモーネンっっ!!!」
「っ?! おではドズイネンだぞぉ? モーネンじゃ、ねぇよ」
「モーネンは・・」
「うるさいわぁあああーーーーーっ!!! ネン、しか合ってねぇしっ」
ツッコまずにはいられなかった歩夢。
「なんだぁおめらぁっ?! 泥棒かぁっ??!」
起き上がるドズイネン。リピンは蔓を伸ばしてモーネンを捕獲し、手元に引き寄せて保護した。
「わっ?! 何をするっ? 如何わしいっ」
「如何わしい?? 大人しくしてるリピっ」
「ぐうっ・・」
「歩夢様、巨人族ではなく魔族でこのパターンは高確率で特殊能力タイプですっ、お気を付け・・」
と、ニョルが忠告しだした側からドズイネンは手をパンっ! と打ち鳴らし、奇妙な踊りを踊り始めた。
「しまったっ?!」
「おおっ?!」
「ピっ?!」
ドズイネンの踊りに釣られて、ニョルは踊り出し、歩夢とリピンもカニーラ3号の上で踊り始めた。
攻撃が特殊過ぎてもらったばかりの荒鷲の指輪も反応しなかった。
「へっへっへーっ! おでの踊りで踊り殺してやるど?! このまま1週間も2週間も踊るどぉおおっ?! へっへっへーっ!!」
「だ、ダメだ。踊りた過ぎて魔法も特技も上手く練れないっ」
「リピ~っ?!」
「恐ろしい能力っ!!!」
ドズイネンの踊り異能に翻弄される歩夢達。
「・・・」
しかし、モーネンだけは平然としていた。
「っ?! おめ、何で踊らないっ? 縛られてたって我慢できないはずだどっ?!」
モーネンはニヤリと笑った。
「リピン、私の如何わしい拘束を解きなさいっ」
「如何わしくないリピっ!」
リピンは歩夢とニョルと視線を合わせ、了解を得ると、モーネンに掛けていた蔓の拘束を解いた。
「ドズイネンよっ! 復活して最初に対峙した魔物が君であったことは運命っ!! 私達は決着をつけるべき好敵手だったのですっ!!!」
指を差して宣言するモーネン分体。
「っ?! そうだったのかぁっ!」
驚愕するドズイネン。
「モーネン、踊りに耐性があるなら早く攻撃して踊りを止めさせて下さい」
「誰も私達のダンスを止められないっ!!!」
ドズイネンと2人でポーズを決めるモーネン分体。
「オイっ、ダメだぞこの人」
「リピ~・・」
絶望する歩夢達。
「私はこの砂漠の芸能を司る者でもあります。・・さぁ踊りましょうっ! 私達の死のジルバをっ!!!」
リピンより小さなモーネン分体は逆巻く水の下半身を2本脚の形に変化させ、ドズイネンと激しいペアダンスを踊り始めた。
歩夢達の踊りの強制は解けなかったが、ドズイネンのダンスは、華麗に宙で舞い、時にドズイネンの巨大な手の指を取るモーネンに引っ張られ、より激しいステップを踏み始めた。
限界を越えたダンスに恍惚とするドズイネン。
「お、おでっ! こんな楽しいダンスは始めてだぁ~っ!!!」
「アハハハっ! 全て忘れて踊りなさいっ! 君の命を燃やしてっ! 一番綺麗な君を私に魅せてっ!!」
「魅せるっ、魅せるどぉ~っ!!」
瞬く間に生命力をモーネンに奪われてゆくドズイネン。
「・・どうやらこれは攻撃ですね」
「やべぇなモーネン」
「何か、えっちな感じリピっ」
ドズイネンは踊り尽くし、干からび、錆び付き、最後は骨と皮と鉄屑になって悦びの中、朽ち果てていった。
歩夢達への踊りの強制も解除された。
「・・君のアプローチ、ステキだったよ」
艶々のテッカテカの顔になって、モーネンは完勝した。
「・・まぁ、結果オーライってことで」
「思うところはあります」
「ピ~・・」
歩夢達はポーションを飲んで一息付き、黄金で飾り立てられた部屋に入っていった。
部屋は宝物庫で金銀財宝がザックザックだったが、歩夢達はそれらはスルーして1組の一見貧相な酒壷と4つ酒杯の前に来た。
「ソーマの酒壷と宴の杯だね」
モーネンが面白くもなさそうに言った。
「何それ?」
「ソーマは薄めたエリクサーの様なお酒です。この酒壷は無限にそれを注ぐことができます。杯はまぁ、より美味しく飲めて毒を盛ってもそれを打ち消す効果があります」
「ふぅん?」
「栄養はありそうリピ」
歩夢もリピンも子供な為、あまりピンと来ない様子だった。
「立派な神器ですよ? 勿体ないですが、酒杯3つとそれなりのソーマを光の錬成素材として使いましょうっ!」
ソーマの酒壷と酒杯を回収してウワバミの腕輪にしまうニョル。
「他の財宝は後処理班に任せましょう。意外と天宮は資金難ですしねっ」
「よっし、ここはこれで完了だな」
「あと2ヶ所リピ~・・」
ゲンナリするリピン。
「私と姉さんの祠の遺構だ、ここは敢えて、華麗にっ! 巡ろうじゃないかっ。アハハハっ!!!」
「・・はーい。今日はもう引き上げて温泉島ですよぉ?」
「まぁ休みたいけど、温泉島遠いし、そこら辺の普通の宿屋でいいんじゃないか?」
「そこら辺の普通の宿屋は温泉島ではありませんからぁああーーーっ!!!」
「お、おう・・」
「リピ~・・」
「じゃ、華麗に浸かろうか?! アハハハっ!!!」
箒星号まで戻った一行は一路、温泉島へと向かってゆくのだった。
アマラシアでは、魔族は魔界の住人。悪魔は地獄に巣食う負の摂理を体現する怪物です。似て非なるのですっ!




