東の海王
コンパクトに海底冒険です!
大渦潮の真上まで来た箒星号は中空で静止し、煌めく空気の膜を船体の周囲に張った。
「うおっ? ニョルっ! 凄い揺れるんだけど?!」
「頑張って下さい、としか言えませんっ!」
操縦席のニョルに呼び掛けつつ、膜の外の烈風に煽られて揺れる狭い甲板に、アーム歩行モードのカニーラ3号に乗った歩夢が、珊瑚の鍵を手に出てきた。
船室は耐振動仕様だが、船室の外は船体の揺れがそのまま伝わった。
「歩夢っ、影か念力で固定だっ!」
船室から眩しそうに顔だけ出したマリガンが言った。
「それ、俺も思ったっ。どっちかな? ちょっと直射日光と渦の海面の照り返しがややこしいなぁ・・」
船の縁越しに轟音を上げて逆巻く見渡し切れない程の大きな渦潮を見ると照り返し以前にクラクラしそうだった。
ウワバミの腕輪からマグネットロッドを引っ張り出す歩夢。
「スペルマジック・ミスティックハンド!」
念力の手を4本出して、船体の四方に伸ばし、ガッシリ自分を固定する歩夢。
「よしっ」
「大丈夫? 私、やろうか?」
船室から浮遊して分体のメリアサがスルリっと歩夢の側に来た。手にはパセリの掛かったチーズ味のカ○ルの入った小鉢を抱えていた。
「それ先に言ってよ?! ○ール持ってるしっ」
「いや言おうかな、って思ってる内にさっさと行っちゃったし」
カー○をモリモリ食べるメリアサ。
「いいよ、やるからっ」
歩夢は珊瑚の鍵を掲げた。蒼く眩しく光る珊瑚の鍵。箒星号の前方下方に見える大渦潮の中心部分が反応し、ゆっくりと穴が開き始め、箒星号が問題無く降りられる程の渦の回廊が出現した。
しかしその穴に明かりは無く、唸り上げて渦巻く暗い水の大穴であった。
「ここに入んのかぁ? 何かもっと、ワープ的なヤツかと思った」
光を失った鍵を手に困惑する歩夢。
「海面から下までは結構遠いし、多分この穴、長続きしないから急いだ方がいいよ?」
「マジ? ニョルっ! 時間無いっぽいっ」
「はーい、じゃ中に戻って下さーい」
「軽っ、これ戻んのもちょっと怖い」
念力の手を活用しつつ、慎重に揺れる甲板から船室にカニーラ3号で向かう歩夢。
「○ール食べる?」
「何で? 意味がわからない」
「歩夢っ、危ないから早く入るのだっ!」
「怒られるしっ」
歩夢とメリアサは船室に戻り、箒星号は光る虫の様な羽根を広げ、さらに船底前面と後方に照明も点けて、周囲を照らしながら、空気の膜は解除せずに慎重に海の大穴へと降下していった。
10数分は掛けて、徐々に狭まる渦の回廊を降下し続けると下方の今は海水の引いた海底と、シャボン玉の様に7色の光沢を見せるドームが見えてきた。
「何かあるっ!」
「船で入るは200年ぶりくらいね」
「港です。このまま向こうの空気のドームと接触します。歩夢様とマリガンもそろそろ海魔の腕輪と取り替えて下さい」
ニョルに促され、砂漠の環境への適応効果のある砂海の腕輪から海の環境への適応効果のある海魔の腕輪に2人は付け替えた。ニョルは既に付け替えていた。
「我輩、呼吸はそれ程問題ではないのだがな?」
「海の塩気や水圧、気圧、湿気、溺れるリスク。海と水のエレメントの強い環境への対策です。まぁこの深度で海に放り出されたらどっちにしろぺしゃんこですけどね」
「ふーむ・・」
幽体化もできるが大人しく付けておくことにしたマリガン。もう海上の様に日光を気にしなくていいのでフードは取っていた。
船はゆっくりとさらに降下すると、ドームの向こうに確かに港らしき物が見えた。
「接触します」
ニョルの操縦で船の空気の膜がドームに触れ、箒星号はそのまま空気の膜ごとドームの中に通り抜けて行った。
「おお~っ?」
「案外スッと入れる物だな」
「拒否はされてない感じ」
ドームの中の港には水が張られいた。施設に人影は見えなかった。
「海の中に海っ!」
「水棲種族以外も希に船で来るしね」
「どうやって維持してるのやら・・」
「着水しまーすっ!」
箒星号は港の中の海に着水した。
そのまま桟橋の適当な場所に係留を済ませ、一行が「磯臭い」「気圧が違う」「湿度が・・」等と言いながら港を進み出すと、前方の石材でできた施設から宙を泳ぐ、鞍の着いた鮫の様なモンスターに乗った鰭の様な耳を持つ人魚族の男の兵士と、女の半魚人の兵士が現れた。
「天宮の者だな?」
「ん? メリアサ様?!」
半魚人の放がメリアサに気付き、2人は慌てて鮫から降り、跪いた。
「御無礼をっ! まさか御越しとは」
「失礼致しましたっ」
「いいっていいって~。分体だし」
フランクに応じるメリアサ。
「それよりこの子、歩夢君って言うんだけど、私達姉妹の大陸に来てくれた新しい勇者なんだ」
「ども。勇者、なんだ一応」
人魚兵と半魚人兵は顔を見合わせた。
「天宮からの申し出はお受けしたいところですが・・」
「まずは我々、東の海底王国の将軍に会って頂くことになります」
下手に出ているものの、断定的に言ってくる使者2人。
「いきなりは王様に会わせないって」
「面倒ですね、突破しましょうか?」
「するな。雑か。鳥女っ」
「あ、また鳥っていいましたね? わたくしはむしろ、お湯、ですっ!」
「何??」
「私達は妹のモーネンを助けるのに協力して欲しいんだ。ほら、あの子の神殿って沿岸でしょ? 陸の種族にも他の人達が色々声を掛けてくれてるけど、なるべく被害を少なくしようと思ってるんだよ」
「はい、それは我々も賛同致します。しかし」
「まずは将軍にお会いして頂かないことには・・」
「ん~、どうする歩夢ちゃん?」
「いいよ。ケンタウルス族説得する時も色々あったし、会うよ。あと、あの建物、スロープあったっけ? ここからだと見えないけど」
メリアサを復活させ分体まで連れてきている分、むしろ交渉し易いんじゃないかと歩夢は踏んだ。
港の向こうの石造りの建物の中の1室に案内されると大柄な無数の古傷を持つ人魚族の男が、魚類の尻尾の下半身の形態で宙に浮き上がって待っていた。
「では」
「失礼致します」
案内した人魚兵と半魚人兵は退室していった。
「勇者殿っ! メリアサ様っ! お仲間方っ、よくぞ遥々海底へ。さぁ御掛け下さいっ。気圧や空気の濃度に問題ありませんか? ワカメ茶も有りますぞ?」
将軍は気さくにソファを勧め、メリアサは首座に通され逆巻く水の下半身を生身の脚に変えて小さな身体で腰掛けた。
将軍自身は魚類の下半身を2足歩行の下半身に変化させてソファにどしりと腰掛けた。2本足になる際、衣服や脛当、履き物まで再構成されるので歩夢は目を見張った。
蛸人間の給仕から出されたワカメ茶は冷たいワカメ汁だった。
「申し遅れましたっ。私はダストン・カツウラ3世と申します! 東の海底王国で将軍を務めさせておりますっ」
「俺は歩夢・与田」
「ニョル・ムッキです」
「アーシア・ウル・マリガンだ」
「分体だけどメリアサだよ?」
歩夢達は目配せし合ったが、メリアサがウィンクしてきたので歩夢は若干鼻白んだ。
「・・とにかくっ! 聞いてると思うけど、モーネン神殿攻略に協力して欲しいんだ。無理なら無理でさ、それはしょうがないんだけど、それもすぐ言ってほしい。俺ら時間無いから、他当たるから」
歩夢がかなりざっくりと言うのでダストンは少し苦笑した。
「勇者殿。まず、こちらの事情を少しよろしいでしょうか?」
「いいよ?」
「まず我らが東の海王、マシラウ国王陛下はお歳を召されて、最近は体調が優れない」
「あれ? 東の海王ちゃん、そんな歳だったかな?」
「この30年余り、ネブラ大陸からこの海へと流れ込むの活力が減退し、代わりに邪気が流れ込む様になり、海王様はこれを浄化する為に力を使い続けられ、疲れ切ってしまわれたのです」
「あちゃ~。ごめんね、封印されちゃって」
「いえ、当時ネブラ大陸を攻め落とした魔軍の勢いは相当な物でしたから」
「そんなヤバかったの?」
「私の意識があった時点で神ちゃんが召喚した勇者が2人倒されちゃってるから」
「うわっ・・今呼ばれて良かった、のかな??」
「リカドは昔の砂漠から離れていた故、そんな騒動になっているとは知らなんだな」
「そもそもずっと館の中に居たでしょうに」
「いやまぁそれはそうではある・・」
「歴代の未明騎士団員方の御苦労と、多く陸の戦士達の活躍でようやく攻勢に転じられる時代となったことは、本当に喜ばしいことです」
歩夢は内心、いきなり誰かが来てどうにかできたのではなく、何人も来てようやく解決できつつある、ということに少なからず衝撃を受けていた。
「・・で、周りクドく話しているが、何か条件があるのだろう? 普通の人魚ならともかく、縮んだ海王の寿命を伸ばしてくれ、等という話は我々では難しいぞ? 対価を用意できん」
マリガンが一段跳びに切り込んだ。
「そうではありませんぞ? 皆さんにはある方を連れた上で、魔物達を成敗してほしいのです」
「ある方?」
歩夢が詳しく聞こうとすると、奥の部屋と仕切っていた垂れ布を掻き分けて、ひょろりと細身で猫背気味な、ローブを着て眼鏡を掛けたモッサリとした人魚の青年が入ってきた。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・誰ちゃん?」
「す、すいませんっ! イケメンとか美女とかキャラ立ちした面白い感じの人とかじゃなくてすいませんっ!!」
やたらペコペコする人魚の青年。
「第5王子のジュウロウ殿下ですっ!」
ソファから立ち上がって畏まるダストン。
「すいませんっ、5番目ですいませんっ!」
よくわからない謝罪をするジュウロウ王子に一行は困惑させられた。
歩夢達がジュウロウ王子を紹介されてから約10分後、東の海底王国の近くのとある洞窟の入り口の前にガストンと港で歩夢達の迎えに出た人魚兵と半魚人兵、他に役人数名と海神教団の司祭等がきていた。
すぐ側に転送用の魔方陣がありそれを使ってここへ来ていた。
入り口から奥へと続く水路以外は港と同じく海水が抜かれたシャボン玉の様な空気のドームで覆われた空間だった。
半魚人兵は入り口の所で大きな香炉を焚いており、人魚兵はかなり古めかしい機械式の大きな扇風機を使って、香炉の煙を洞窟内へと送ったいた。
「殿下、御無事で・・」
ガストンは心配そうに洞窟の奥を見ていた。
その香炉の煙が漂う洞窟内部では機械式のスクリュー付きの小舟にジュウロウ王子と共に乗った一行が、真っ直ぐ続く水路を奥へ奥へと進んでいた。
舟の舵や速度調整は箒星号同様、ニョルが担当していた。
水路の底には奇妙に光る海百合が群生しており、点在する灯り台の鉱石照明と合わせて洞窟内を照らしていた。
「この海百合は特別で、水に伝わる邪気を浄化して養分にしているんです。老廃物は錬成素材にもなって設備の維持費に当てられています。大学での私の専門は古代史ですが、間近で見ると興味深いですね」
舟から身を乗り出して、熱心に水路の水底で群生する海百合を見ているジュウロウ王子。
「これから発掘調査にゆくワケではないぞ? 王子」
「いや、すいません。性分でして、ははっ」
「あんた、ホントにそんなんで戦えんの? 俺もわりとフワフワしてるけど、魔物とのバトルは結構危ないぜ?」
「大丈夫ですっ! 最近はこの日の為にずっと訓練しました。それに王族として、子供頃から海祭司の修行もしていますっ」
「でも普段は大学で研究員してたんだよね?」
「だ、大丈夫ですっ。皆が期待してくれていますし、父上を安心させなくてはっ」
気張るジュウロウ王子。
「他の兄や姉はそんなに頼りになりませんか? 貴方が海王を継ぐのが最適解なのか? 少なからず疑問はありますよ?」
やや冷淡に言うニョル。天界より下の政争の類いには基本、冷ややかだった。
「・・正直、皆、私よりそれぞれ優秀だとは思います。しかし」
気まずそうなジュウロウ王子。
「第1王子のプリジガは軍事に長けていますが、内政に関心が薄いのですっ。第1王女のユニメットは自前で服飾ブランド等を成功させていますが、放蕩が過ぎます。第3王子のオローは雄弁で国民に人気がありますが、後先を考えていません。第4王子のバヤンは財務に長けて議会の支持もありますが、選民思考が強過ぎます! 私が立つしかないのですっ」
熱弁するジュウロウ王子。
「で、その人気取りの為にあんたら的には有名か古代の魔物達を倒すから俺達に協力しろ、ってことだろ?」
「す、すいません。メリアサ様が復活されて大陸からの邪気がだいぶ収まって、魔物が弱体化したのですぐに狩ろうと思ったのですが、文献で見たより手強くてっ、私一人では歯が立ちません・・。どうか御助力して下さいっ! お願いしますっ、お願いしますっ!」
またペコペコしだすジュウロウ王子。メリアサ以外は溜め息を吐いた。
「・・改めて聞くが魔物の対策はこの、我輩も若干辛いが、魔除けの香以外では?」
「3体の魔物の内、楽器を使って死の歌を歌う魔物には対抗する音楽か騒音で相殺できますっ」
「騒音ではありませんが、わたくしの出番ですね」
「毒の魚を多数打つ魔物は、それを撃ち落とせれば、本体はそれ程でもないはずです」
「我輩がやろう。毒にも耐性がある」
「残る一体は素早い近接攻撃タイプで、一番厄介ですっ!」
「まぁ、単純なパワー系なら俺、かなぁ?」
「私もしっかりサポートしますっ!」
自分のウワバミの腕輪から海の力を待つコーラルロッドを取り出すジュウロウ王子。
「じゃあ、サポートする王子ちゃんのサポートは私がするね」
メリアサは小さな朱色の小枝の様な杖をどこからともなく取り出した。
舟は7分程で水路の左右に海神像の立つ場所まで来た。浄めの香を持ってしても打ち消せない程の邪気が漏れ出ている。
「この先の巨大な溜め池の様になった所に封印されています! 近付けばすぐに浮上して来ますよ?!」
「よし・・やっちゃうか皆っ!」
「御意ですっ!」
「まぁここで帰るワケにも行くまい」
「闘うの30年ぶりだぁっ、漲るぅっ!!」
「・・1体出しとくか、アクティブマジック・シェードウォリアっ!」
歩夢は武装した影の小人を1体造り出して傍らに従えた。
それを合図に、ニョルは舟を再発進させ、海神像を越えて水路を進みだした。
程無く、水路の先に巨大な溜め池に行き着いた。噎せ返る様な邪気が立ち込めている。
「足場を造りますっ。スペルマジック・コールドブロウっ!」
魔法石1つを対価に凍てつく風で溜め池への入り口の辺りを強固に凍結させるジュウロウ王子。
これに反応し、溜め池の底から3体の魔物が浮上してきた。氷の足場も水を被ったが、一行はカニーラ3号をアーム歩行モードにしている歩夢とシェードウォリアも含め飛び退いて回避した。
「また来たな王族めっ!」
「口惜しや口惜しや口惜しやっ!」
「我らを見棄てた王家は滅びよっ!」
いずれも人魚の巨人で、蝦蛄と融合した男、海牛と融合した女、アンモナイトと融合した老人の姿をしていた。
海牛と融合した人魚は自分の爪で自分の身体を傷付けて飛び散った血液で弦楽器を造りだし、高速で掻き鳴らしながら歌い始めた。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねっ!
王家死に晒せっ! アァアアアーーーーっ!!! 王家以外も全部死ねっ!!!!
積極的に真面目に死ねっ死ねっ死ねぇえええッッ!!!!
絶叫して死の歌を裏声を多用して熱唱する海牛の人魚巨人。一行は死に耐性の有るマリガンとメリアサとシェードウォリア以外は衝撃を受けた。
ニョルはウワバミの腕輪から機械化された弦楽器を取り出し、高速で掻き鳴らしながら歌い始めた。
生きる生きる生きる生きる生きる生きる生きるっ!!!
わたくし達は超存命っっ!!! 超生きるぅっっ!!! アァアアアーーーーッ!!!
お前だけ死ねぇえええーーーッッ!!!! うらぁーーーッ!!!
やや主旨がズレているようでもあったが、ともかく死の呪いの歌を打ち消すことに成功しているニョル。2人はそのままタイマンで罵倒即死ソング対決に移行した。
「・・王家ぶるぅあああっ!!!」
アンモナイトの老巨人は散弾の様に毒液の怪魚を放ってきた。
「・・ック・へビィ・キューブっ!」
マリガンは左手を構えて重力球を放って毒液怪魚を吸収して消滅させ、右腕に抱えた砲筒でアンモナイトの人魚巨人に撃ち込んだ。
「シェードウォリアっ、持ち堪えろっ! スペルマジック・・・」
歩夢は命じつつ、サンドストームロッドを構え集中していた。
シェードウォリアは巨体にも関わらず水の上も壁も天井も、所構わず高速移動しながらジュウロウ王子や歩夢に蝦蛄の下半身の甲殻類の腕から繰り出す神速の拳打や上半身の腕に持った鋸状の双剣による連擊をどうにか阻止していたが、あっという間に影の身体を削られていた。
「王家は滅びろっ! お前達等民衆の玩具に過ぎないっ!!」
「どう思われようと結構っ! 私は私の時代の国と共にありますっ。それが幻想でもっ、その幻想が私の生涯っ! 受け入れましたっ!! スペルマジック・アクアブリンカーっ!」
旋回する水の刃をアンモナイト人魚巨人に撃ち込み、隙を作るジュウロウ王子。マリガンは一気に連射攻撃を撃ちだした。
「よっ! ほいっ! そこっ!」
メリアサは小さな杖を振るって、蝦蛄人魚巨人の着地点を見切って煌めき弾ける水の玉を発生させてその身体を焼いて、これ以上の加速を阻止していた。
「鬱陶しいっ!!」
蝦蛄人魚巨人はシェードウォリアを蝦蛄パンチの直撃で打ち砕いたが、その大振りを歩夢は見逃さなかった。
「サンドロックっ!!」
瞬間的に蝦蛄人魚巨人の周囲に大量の砂を発生させ、これで押し潰す様に捕獲し、宙で動きを止めた。
「重っっ?!!」
脂汗をかく歩夢。
「スペルマジック・コーラルシュートっ!!」
ジュウロウ王子は結晶化した珊瑚の槍を放って蝦蛄人魚巨人の喉を貫いた。
「がぁっ?!!」
「・・すいません、爆ぜます」
珊瑚は一気に蝦蛄人魚巨人の頭部と胸部を侵食し、輝きながら炸裂した。
「こっちも押し切るぞっ!!! アクティブマジック・・」
大剣に持ち替えて近接戦に持ち込んでいたマリガンは、剣に電撃を溜めた。
「技の名前が思いつかんから殴るっっ!!!」
雑な構成で詠唱したが、強力な電撃の斬擊をアンモナイト人魚巨人に撃ち込み殻と胴体から電撃を弾け出させ、絶命させた。
「こっちも済みました。口程にも無いギグでしたね・・」
即死ソング対決をしていた海牛人魚巨人を真っ白に燃え尽き、弦楽器と腕は崩れ去っていた。ニョルはニヒルな表情で振り返り、手にした機械化弦楽器の弦は殆んど焼き切れていた。
「じゃあ、浄化するねっ」
メリアサが杖を構えると天井に雨雲が発生し、煌めく雨が溜め池に降り注ぎ、魔物達の遺骸を打ち、浄め、崩れ流し、最後にその一部から原型と見られる人魚達が姿を見せて天に手を伸ばし、崩れ滅びていった。
「・・これで冥府で悪魔に堕ちた魂を利用されずに済むと思う。たぶん」
「あ~、疲れた。何か凄い恨まれてたみたいだけど、アイツらなんだったんだ?」
「大昔の王家の重臣や当時の王子の1人だそうです。政争に敗れ、ヤケを起こしてあんな姿にまで堕ちたとか・・」
「そんなことで魔物になるとは虚しいですね」
「政治は魔物なのだ」
「ま、済んだし、戻ろうじゃない? お腹空いたねっ!」
「あんた、いいポジションだな」
「まーね~」
一行は以来の王子を連れた魔物退治を成し遂げ、無事洞窟から帰還していった。
一行はガストンに労われ、海神教団の者に汚れを浄められ、一息ついてから東の海王が住まう王城へと転送用魔方陣で向かった。
ジュウロウやガストンとは一旦別れ、しばし空気のある部屋で待たされたが、やがてイカ系種族のメイドが迎えに来た。
「玉座の間まで空気が通りました。ちょっと床が濡れてるけど気にしないで下さいね」
イカメイドはお茶目に言って一行を玉座の間まで案内してくれた。
「おおっ、勇者歩夢よっ! メリアサ殿と他の皆もよく来てくれた。ジュウロウが世話になったようで」
玉座の間には歳老いて見える東の海王マシラウやその他の臣下の他にガストン、正装したジュウロウ、第1王子のプリジガ、第1王女のユニメット、第3王子のオロー、第4王子のバヤンも集まっていた。
当然、ジュウロウ以外の王子達と王女からは睨まれる一行。
「よくぞ、古き哀れな魔物を倒し浄めてくれた。あれは古き王家の負の一面であった。同じ過ちは繰り返さず、私は毅然と王位継承を決めようと思うっ!」
「いきなりっ?!」
戸惑う歩夢。王子達と王女もザワついた。
「ジュウロウ! お前は気が優しく、博識だが、意気地に欠けた。だが、試練を乗り越えた。・・私はお前に海王の座を譲るっ!」
「父上っ?! 真ですか!」
「待って下さい、この国難をこんな軟弱者がっ」
「プリジガよ、今後国防はそなたに一任する。ジュウロウを助け良い国を作ってくれ」
「ぬっ? ん~・・畏まりました。身命を賭して務めさせて頂きますっ!」
マシラウに跪くプリジガ。
「兄上、軍事のことは私ではわかりかねます。豪胆な兄上の才気を頼りにしています」
「フンッ、内政の細々としたことはお前がすればいい。国防は任せろっ!」
臣下の態度ではないが一先ずは納得したらしいプリジガ。
「ユニメットよ、お前の国費の使い込みは目に余る」
「いや、それはっ、父上っ!」
慌てふためくユニメット。
「現在は特に統治者は置いていないマニャネア島に大公として赴任せよ!」
「田舎の観光地ではありませんか?!」
「今はさほど発達しておらんが、観光地ゆえそれなりに華やかで物価も安い。お前の会社の収入でも度をわきまえれば好きに暮らせるであろう」
「うう・・畏まりました」
不承不承跪くユニメット。
「姉上ならば大いにあの島を発展させられることでしょう! 定期船を増やされて・・」
「私の所領は私が好きにするっ!」
「は、はいっ! お任せしますっ」
腫れ物だが、こちらも一応納得した様子だった。
「オローよ、お前には議会長と王家の広報官を任せる」
「はぁ・・固い仕事ですね」
「それから以前から申しておった王都の大劇場の建造を許すっ! 私の私財を好きに使え。お前の思う劇場を作って運用するがよいっ」
「本当ですか?! 父上っ! 畏まりましたぁっ!!」
喜び勇んで跪くオロー。
「兄上の劇場、楽しみにしておりますっ!」
「当然だよジュウロウっ! センスの無い君には理解できないだろうけど、最高のエンターテイメントでこの東の海底王国を魅了してみせるよっ!!」
オローに関しては友好的に納得した様子だった。
東の海王、マシラウは最後に第4王子のバヤンを見た。バヤンは先んじて跪いた。
「王命とあらば。財務は私にお任せ下さい。学者被れのジュウロウだけでは現実的な治世は困難でしょうからなっ、ハッハッハッ」
マシラウの表情は固かった。
「父上?」
「・・バヤンよ、お前は他の王族の悪評を広め、あまつさえジュウロウを始め、他の王位継承者の暗殺を計画していたな?!」
王子と王女達も戦慄し、歩夢とメリアサは困惑し、マリガンは表情を消し、ニョルは前髪をイジりだした。
「そ、そんなっ?! 陰謀論ですっ。騙されているのではありませんか父上?! 誰がその様な・・」
「私です!」
兵士に両腕を取られ、宰相が玉座の間に引っ立てられてきた。
「お前っっ」
「王子、あれだけ協力して差し上げたのに私に暗殺の罪を着せて始末するつもりでしたね?! 許せないっ!」
血涙の勢いの宰相。
「宰相とまで結託してようとは・・この者は一族と共に放免し、名も変えさせ、お前の目の届かぬ所に追放する! お前もまた、郎党と共に西の海底王国へ亡命するがよい。お前の母とも今この時を持って離縁するっ!」
「何と・・後悔しますよ? 父上、いや東の海王っ!」
バヤンはマシラウ王を睨み付け、ジュウロウを無視し、宰相の顔を装飾されたステッキで殴り付けて退室していった。
宰相も殴られた顔のまま項垂れて連れ出されていった。
「お見苦しい所をお見せしました」
面目無さげな顔をするマシラウ王。ジュウロウと、ガストン、跪いた王子達と王女も気まずそうな様子だった。
「世界に身体を持って現れて、国を治めれば色々あるよね」
「メリアサ殿・・」
「国のこととか、俺達はこれ以上何もできないけど、神殿攻略には協力してほしい」
「勿論です。・・ジュウロウよ、まだ戴冠はしておらぬが、プリジガに命ずるのだ」
「は、はいっ。では兄上」
「兄上呼びで命ずるな、余計に腹立たしいっ」
「す、すいませんっ! ・・プリジガよっ、勇者に協力し、モーネン神殿攻略に協力するのだ! ・・して下さいっ」
「うむ・・」
プリジガは立ち上がり、下半身を魚類に尾に変えると、浮き上がり、歩夢の目の前に来た。マリガンが思わず間に入り掛けるが、意外とニョルが肩を掴んで止めた。
「小さき勇者よっ! あの惨めな3匹の魔物を打ち倒し、またメリアサ様を解放したその力っ、認めよう!! 我ら東の海王軍はお前に剣を貸そうっ!」
「あー、・・じゃ、よろしく」
取り敢えず握手した方がいいかと、手を出すと、人魚に握手の習慣は無かったが何らかのコミュニケーションだと判断したプリジガが剛力で手を掴んでニヤリと笑ってきて、手を握り潰されそうになった歩夢は危うく絶叫するところだった。
こうして、歩夢達は東の海王軍を味方に付けた。
バヤン王子の不穏さは東の海底王国の問題で歩夢達がこれ以上関わることはありません。兄弟皆、仲良くとはならんやろ~、ということでした。




