夢を見る
ちょっと、世界観の説明要素多めの投稿です。
少し長いですが、お付き合いください。
ここは夢の中なのだろうか?あたり一面が霧に包まれているような感覚だ。ふわふわとした足取りであたりを見回してみると、国家機密の最重要研究施設、ケルベロスの研究室の一室だった。
俺は、世界各国から異能者や優秀な能力を持った人材を集めて構成されてるケルベロスの研究員だ。
5年前に異能を発言してここに来るまでは、どこにでもいる、しがないサラリーマンをしていた。専門はロボットなどの機械設計士。大学では機械関係を専攻していて、それなりに真面目に通っていたものの、成績は普通、これまた、どこにでもいるような能力の学生だった。それでもなぜか昔から自分には何か成し遂げる力があるんじゃないかってどこか根拠のない自信を盾に、いつも気張っていたが、それが勘違いであるというのに気付くのも時間の問題だった。
社会人として働き始めて、自分には新しい製品を思いつくでも、革新的な何かを生み出すこともできず、ただただ、日々社会の歯車として、誰にでもできるような取り替えの効く仕事をしていくうち、自分が特別ではないことに気づいていた。
そんなある日だった。当時、量子コンピューターと呼ばれる超高性能なコンピューターが実用化されると、AIの能力が飛躍的に進化し始めた。最もその技術の先端を行っていた電脳通信株式会社がAIを発表し、それまで不可能とされていた技術の壁を次から次へと取っ払っていった。そして人々が、国の最重要期間すらAIの導き出す指針にそって意思決定するだけで、国の発展が約束されるようになり、目まぐるしいスピードで世界全体が発展していた。
その、一端として、人の寿命を伸ばす研究も成果を上げており、深刻だった少子高齢化による経済の冷え込みの対策として、中流階層のごく普通のサラリーマンをしている人々にも保険適用範囲内で平均的に120才程度まで生きられる処置を施された。20代〜30代の肉体レベルを70才まで維持できるようになることで、期待通り働く人口が増え、経済活動もかつての高度成長期を上回るようになったのだ。
そんな中、AIはこの惑星アストラに神と呼べる存在がいることを突き止めた。そして、神が急速に技術を発達させている人類を滅ぼそうと画策しているという報道が世界中になされたのだ。
そして、その報道から息もつかぬ間の、1日後、AIと神との宣戦布告が行われ、2年に渡る機神大戦が勃発した。それがアストラ暦4321年のこと。とはいえ、戦争で実際に戦うのは、AIの導き出す政策を忠実に守る先進国の人類および機械兵で構成されたAI軍と神を信仰している人類および動物たちで構成された神軍であった。もちろん普通に考えれば、先進国側の方が武器を持っているため、圧倒しすぐに戦争を終えると思えたが、神の軍はそれまで、人類が確立してきたどの物理法則にも当てはまらない力を使って、互角の戦争に持ち込んでいた。
大体、惑星の北半球がAIを信奉する先進国、南半球が神への進行の熱かった国が多かったため、赤道付近が最も苛烈な戦地となっていた。また、神軍は防戦が種だったこともあり、北半球の赤道から離れた土地では、特に戦争ということを意識することもなく日々を過ごしていた。
そして2年が経ったアストラ暦4323頃、ついに、AI軍が原子力爆弾の数百倍の威力を持つとされる禁断の爆弾を神軍に放ったのだ。おそらく、南半球の一部がなくなっても北半球側の人類圏への影響は軽微とする結論がAIによってなされたのだろう。しかし、この攻撃により、神軍の大半を焼き払い、神は滅んだ。結局、神という存在が実在したのかどうかは不明なままだったが、AIによって神は滅んだと結論づけられたから、滅んだのだろうというのが実際のところだ。
だか、ちょうどその頃から、人類に異変が生じ始めた。大体1千万人に一人という割合で、異能を発現する人が現れ始めた。最初は、手品のように、人の目を誤魔化しているだけだと思われていたが、能力を発現した人がそこそこいたこともあり、手品のような目眩しなんかではないということがわかってきた。そして、この力のことを人々はいわゆる手品と区別し、魔法と呼ぶようになった。強大な力を手にする人もいれば、砂を一粒出せるというようななんの意味があるのかわからないような能力までピンキリの能力で、能力の発現から5年しか経っていない今ではまだまだ、法則性というものが全くわからず、理論も未確立の研究対象となっていた。初期の研究段階では魔法使用時に何かを消費することで能力を発現しているだろうという予測のもとで、地球上にあるあらゆるセンサーなどを用いて、魔法使用時の能力者周辺の変化を調査してきた。しかし、その魔法使用時に何かしら燃料のようなもの、例えば、炎を出すにはガソリンのような可燃物に火をつける必要があるが、一切、そのようなものがどこからも消費されていなかった。能力者の体重が減るというわけでもない。そこで、どうやら魔法というのは物理法則の外にあるエネルギーによって、物理法則から外れた現象を引き起こせるとされ、このエネルギーのことを宇宙を満たす検知できないエネルギーであるエーテルだとされた。観測出来ないエーテルをなぜ突然に使用できるようになったのかは全くわからないが、神を滅したことで、神が隠していた能力を奪ったのだろうという予測がなされた。
とにかく、そうやって人類に異能を持つものが現れる中で、世の中は急速に変化していく。
この無尽蔵の燃料が不要というのは、惑星にある燃料の不足が深刻化していた人類にとっては大きな希望となっており、さらに、この能力の研究が進むきっかけとなった。
一方、野生の動物たちにも変化が起こっていた。異様に発達した顎と妙に伸びた犬歯で軍用車すら噛み砕く犬、超音波で平衡感覚を狂わせ大型動物を襲うコウモリなど。これらは神が最後に悪あがきで残した残党だと言われており、魔物と恐れられ、異能を発現すらしなかった人々には大きな脅威となっていた。
エーテルは無尽蔵ではなく、使うことで、惑星アストラが滅びに向かうと主張し、その一端が魔物の存在だとして、エーテル研究を批判し、糾弾する団体もできた。
しかしAIが、エーテルの使用を問題ないと判断したため、その主張が認められることはなく、これら団体は等しく治安維持のため取り締まられることとなった。
そして、かくいう俺にも異能が現れていた。
それは、あまりに明らかな変化だった。
それまで、見えなかったエネルギー(エーテルと呼ばれている)の流れがはっきりと見えるようになったのだ。地中から機械の中まで全てのものにエーテルが満たされていることが見て取れた。そして、機械などで問題がある箇所などではエーテルの流れが滞っているように見えるため、どんなに複雑に壊れた機械だってすぐに問題の箇所がわかり直すことができるようになった。そこで、俺の能力が国の目に留まりエーテル研究の機関であるケルベロスに招集されたのだ。
俺の力は特段、超能力者と言うイメージの強い、派手な力を得たわけでもなんでもない。ただエーテルの流れが見えるだけの、機械設計士としての能力をサポートしてくれるような能力。
ただそんな能力でも、それまで、平凡な能力しか持たなかった俺にとっては、十分に大きな能力でケルベロスにおいても、機械のことで俺の右に出る人はいなくなっていた。それに、他にエーテルが見える人はいなかった。そんな自分だからこそ、優秀な仲間たちと協力して、魔物から人類を守るためのエーテルを利用した大都市級超大型バリア装置を作るのに役立てるのだと、息巻いていた。
この俺が所属する研究チームには、全員をまとめあげるのが得意なリーダーの修や強力な能力で警備要員としてのいつでも明るいキャラクターのニック。同じく警備要員で、研究所で久々に再開した幼なじみの玲緒奈。いつもつんとした雰囲気を纏い、理論物理学者の天才肌のアニヤ、他にもたくさんの仲間たち。
今日はもうすぐ完成しそうなバリア装置のパラメーター調整を一通り完了。明日からは実地テストが始まる。一区切りついたということで、今日の夜は宴会を開き、全員でこれまでの苦労を労うことになっていた。
「やっと、ここまで来れたな。」
そう呟きながら、完成間近のバリア装置を眺める。
すると、少し離れたところで、仲良しのアニヤと宴会に向かう準備をしていた玲緒奈が、準備を終えたのか不思議そうな顔をしながら、少し首を傾けて下から見上げるようにして、なんともあざと可愛い笑顔で、こっちの顔を覗き込んできた。
玲緒奈「ねぇ、何考えてんの? 早くしないと遅れちゃうよ? 早く行こー」
「いや、なんでもないよ。そうだな。そろそろ行くか。」
最初研究所で久しぶりに玲緒奈と再会した時は、懐かしさと昔よく近所でいたずらして遊んでいた時のことを思い出し、その頃のような感覚で話していたが、昔のヤンチャな少女だった面影は鳴りを潜めており、ぐっと大人っぽい色気と少し童顔な顔つきに気づいた時から、話すと少しどこかくすぐったゆいような感覚があり、それが恋だということに気づくのには時間がかからなかった。玲緒奈も同じ気持ちでいてくれているのだろうか、時々さっきみたいに俺をドキッとさせる仕草を混ぜてくる。ニックから聞いたが、俺以外にはこんな仕草はしないんだとか、そんなことを言って、こんな可愛い幼馴染がいることに心の底から悔しがられたことがある。
よし、このバリア装置が完成した暁には玲緒奈に交際を申し込もう。そう決意したことを悟られないようにして俺は玲緒奈と肩が触れるか触れないかくらいの距離で並んで歩いて、宴会場に向かった。
ありがとうございました。
また続きを楽しみにしてください。
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