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いもうと

 俺は目覚める。


 周囲を確認する。


 場所は崖下の滝つぼ近く。


 しかし、異様な光景が目の前に広がっていた。


 昼がいつの間にか夜になっていた。


 そして空には赤い満月が浮かんでいた。


(いったい、何が起こったんだ……あの糞坊主に数珠を投げられて、タタリちゃんにかばってもらって……)


 記憶がない。


 この場所には、坊主たちも、タタリちゃんもいなかった。


 それにしても、この場所はおかしい。


 俺は一体どこに来たんだ——


「しゅう兄さま」


 声の元に振り向く。


 え——


 最初は見間違いだと思った。


「しゅう兄さま……しゅう兄さまぁ!」


 俺の名前を呼ぶその女性は、俺の妹の美津子だった。


 美津子は俺に抱きついた。


 美津子! なぜこんなところに


「うれしい……会えてよかった……もう二度と会えないんじゃないかって……ずっと心細くて……」


 ……。


 本来なら、その通り二度と会う事など無いはずだった。


 なにせ俺は死んだのだから。


 けどもし、美津子と俺がこうして抱きしめあってるということは……


 美津子、お前も死んでしまったのか……?


「……はい。その通りです。しゅう兄さま」


 俺は驚き、嘆く。


 なぜだ、なんで!


「それは、やす兄さまが私を、はした金で売り飛ばしたからです」


 は?


 兄が、妹を——家族を売り飛ばしたのか……?


「賭博で負けた借金を返すためだと喚いていました。そして、わたしが売り飛ばされた先こそ、新真宗という邪教の集まりでした。

 わたしは祟り神様の生贄として、奴らによって、この滝に落とされたのです」


 俺は思わず、震えていた。


 兄の安太郎が人でなしに成り下がっていた。


 そして俺が居なくなった隙に、美津子を……!


 許せない、許せない、許せるはずがない!!


 思考が怒りで埋め尽くされる。


 だが、美津子は首をよこに振った。


「しゅう兄さま、やす兄さまを許してあげてください」


 え……?


「わたしはやす兄さまを恨んでおりません。確かに許されないことをしましたが、少しだけ感謝してるのです」


 すると、美津子は、着物を脱ぎ、素肌を晒す。


「しゅう兄さまは、ここがどこか分かりますか?」


 俺は何も知らない。


「ここは、幽世かくりよ。わたしたちが生きていた現世うつしよとは別の、見えてはならない裏の世界」


 美津子の乳房が、胸が、アソコが、おへそが。


 美津子のすべてがさらけ出される。


「この気持ち、しゅう兄さまへと向かっていくわたしの愛情は、絶対に許されないものでした。けど、死んだ後の世界なら許されます。もう邪魔するものは何もありません。

 ——わたしを抱いて、しゅう兄さま」


 俺は狼狽する。


 だって、目の前の女性——血のつながった妹に——


 劣情を感じてしまったのだから。

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