「すき」
屍の山を築いた。
この世に正義は無く、あるのは邪悪のみ
空は赤く濁り
命はただはて、亡骸が積み重なる
それでも自分という存在だけがただ浮かんでいた。
魂だ
霊となって体は屍の山の一つだった。
いくさだった
ただの農民だったのに
桑から槍を持たされて
戦えと命じられ
闇雲に突っ込んで
無意味にしんだ
未練
そう、未練だ
父
母
妹
兄
を残して死んだ
お嫁さんがほしかった
でもこんなふうに死ぬなら、いなくて良かったなとも思う
ふよふよ
ふよふよ
散歩していると、
なにかに出会う
美しい
そう思った
ただし
この世のものではない、とすぐに気づいた。
黒髪の長髪
黒の衣をまとい
おしろいのように白い肌
生気は感じられない
美しい幻想のような透き通る何か
ウツシヨ(現世)に、このような者はいない
カクリヨ(あの世)の者であることは明白だ
自分の方を見た
「すき」
すき?
確かにそういった。
そして、両の手を俺に向けて差し出した。
「これ、おかね」
その手から、溢れんばかりの小判が出てくる
見たことが無い大金
目がくらみそうだ
「すき、うけとって」
うけとれない
これは君の金だ
なにせ俺は死んでいる
無意味だ
「ん? ん?」
女は首をかしげる
「なにがほしい?」
おれに尋ねた
その前に聞きたい
君は何者だ?
「わたし?」
そう
きみだ
「かみさま」
神様?
「たたりのかみさま」
祟り
タタリ神さま
「なにがほしい?」
また尋ねた
おれは答えあぐねた。
「わかった」
タタリ神はいった。
「えらい人、の、いのち」
彼女は、笑顔だ
「このたたかいをはじめた、ひと」
くっく、と笑う
「きみ、ころした、ひと」
やめてくれ
おれはそういった
うらんじゃいるが、君に殺してほしくない
そう訴えかけた
「……」
少し黙ると、
タタリ神はこういった。
「やっぱり、すき」
頬をあからめて
ええ……
正直、現世でもここまで女性から好かれたことは無かった。
それが、おれとタタリちゃんとの出会いだった。
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