8.砂の魔王について
次回から1日1回更新かな
昼か夜どっちがいいだろうか?
「ちょうど異世界から戻ってきた時には家が焼け切ってましてね。私以外は全員焼死、見事なまでに焼けてましたよ」
二年経った今でも思い出す。
消防車のサイレン、肉や木材、様々な物が焼ける匂い。
野次馬やテレビ局の煩い声とスマホのシャッター音。
生き残ったのは俺のみだった。
それからフランのために用意していた賃貸に移り、異世界から持ち帰っていた大量の貴金属などを元手に今も住んでいる家を建てた。
二人で過ごすには少し広い二階建て3LDKの一軒家だ。
「見知らぬ所で死ぬくらいなら私の近くで死んで欲しかった……まぁこんなことが無ければ私は親を殺すって考えには至らないかもしれないですね」
「……少し悪いことを聞いたな。本題に入るとしよう」
「えぇ、時間は有限ですから」
いつの間にか冷めてしまっていた料理をハティル王は下げさせ、本題―――砂の魔王に関する事を話し始めた。
「『砂の魔王』の名はサージュ。彼女は元々シェスカと共に城に居た優秀な魔術師だったのだが数ヵ月前に豹変してな。恐らくは邪神族に魂を侵されたのだろう」
本当に優秀な人材だった、と付け加えてハティル王は語る。
「彼女の魔術は風魔術、だったのだが少し変質しているように見えた。その結果がこの砂漠化現象だ」
勇人が知っている風魔術は最上級まで至ったとしても巨大な竜巻のようなものを産み出したりするもの、水や土を渇れさせて砂漠にするような術はない。
「まぁこっち側の神様も力を与えることが出来るのに邪神側は出来ない…なんて事はないでしょうね。砂漠……砂か……」
黒の勇者としてノイルから闇魔術と黒魔術を与えられている勇人としても邪神族が地上の人間に力を与えることが出来ないとな考えにくかった。
「彼女の操る砂を遅く出来る水魔術を使える青の勇者殿の手を借りれれば確実だったが……」
「いや、そうとも言えません。水を吸って砂が遅くなったと取るか攻撃が重くなったと取るかの違いもあります。……まぁ代替わりしたばかりなのでいずれにしてもこの世界には来ないでしょうね……」
新米勇者にはこの壊滅寸前の状況は堪える。
出来る限り強者も残っててかつそこまで力が強くない魔王の討伐で経験を積ませるのが先決だろう。
「ところで報酬の話になりますが、この国の貨幣関連の状況はどうなっていますか?」
「ふむ、そういえばノワール殿は貴金属や食物による報酬を求めるのだったな。造幣していた国が砂に飲まれてしまったから今は物々交換が主流だ」
聞けば国としてキチンと残っているのがこの国、エストノエラのみらしい。
集落のような形で人が集まる場所は他にもあるらしいが聞けば聞くほど絶望的な環境だ。
何もかも砂に包まれる前までは銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚といった価値だったらしい。
銅貨の下に石貨、銅貨と銀貨の間に半銀貨というのもあるらしいが今はその辺の金銭に関わる必要はない。
(……少し吹っ掛けてみるか)
眩しいほどに装飾された城内、報酬が十分支払われる事はないというノイル様の発言、全ての正否を判断するべく報酬を打診する。
「当時の価値で言う金貨十枚分の貴金属類、前払いで金貨一枚、魔王討伐で残りを戴く……と言うのでどうでしょう?」
「ほう……」
異世界と地球の貨幣価値を比較すると大体銅貨一枚百円、つまり前払いで十万、合計百万相当の貴金属を要求した。
異世界内でも金貨一枚あれば一年普通に過ごせるだろうレベルなのでかなり吹っ掛けた報酬だと勇人は考えた。
「貴国は食料に関しては私に割く余裕はないと考え、この値段が妥当だと考えました。加えて私は一応現在、最強の勇者として活動しているため相応の対価は支払って貰いたい所存です」
「確かに我々は食料を何よりも大事にしていると言っていい……、うん、良いだろう。シェスカ、問題ないな?」
「承知しました。すぐに金貨一枚相当の貴金属をご用意します」
ハティル王はシェスカに何処かの鍵……恐らくは宝物庫のような場所の鍵を渡して下がらせた。
(……思ったよりアッサリと了解したな。まぁいい)
それからシェスカは大量の宝石類で飾られたネックレスの用な物をハティル王に渡し、彼が数秒見つめた後、勇人へと手渡してきた。
「これで前金は支払った。『砂の魔王』の討伐、期待しているぞ?」
「相当てこずらない限り十日ほどで終わります。それまで耐え忍んでいてください」
「ハッハッハ、もう何ヶ月待っていたのだ、今さらその程度の日数なんて屁でもない。おっと、少し言葉が汚かったかな?」
シェスカに少し睨まれ、ハティル王は苦笑する。
「ではこれにて失礼します。料理人さんにとても美味しかったです、とお伝えください」
「あぁ、伝えておく」
「フラン、行くぞ」
「畏まりました」
「シェスカ、勇者殿の出立だ。案内しろ」
「承知しました」
ハティル王は一度も立たぬまま勇人とフランはシェスカに連れられ城の正門まで案内された。
「……友人を、サージュをよろしくお願いします」
城を出て行く際にシェスカに頭を下げ、こう告げられた。
聞けば彼女は砂の魔王となってしまったサージュと仕事上での関係だけでなく、普段の生活の中でも共に過ごす時間が長かったらしい。
「出来ることなら彼女のことも救って欲しかった……ですがもう手遅れ、せめて一思いに殺してやってください……」
通常、魔王認定されてしまった者は世界の敵となり、勇者に殺される定めとされている。
しかし……
「出来る限りの努力はする。彼女の意志が残っていたら……だがな」
「!!、ありがとうございますっ!」
何事にも例外はある。
勇人は一度だけ魔王をも救ったことがあったのだった。
「……あのような約束をしてもよろしかったのですか?」
「ん?……あぁ、望みは薄くてもやれることは全部やりたいからな」
勇人はフランの方へ振り返り、笑みを浮かべる。
「何て言ったって、俺は最強の勇者だからな」
そうして『砂の魔王』討伐の一日目の夜が終わり、一度日本へと帰った。