7.外は崩壊寸前、中は……
次回は21時予定!
城の正門へと近づくと勝手に門が開き、眼鏡をかけ、魔術師風の黒いローブを纏った女性が立っていた。
「お待ちしておりました。勇者ノワール様、従者のフランドール様。私は我が国エストノエラの軍事を任されておりますシェスカと申します」
「お出迎え感謝します」
「早速ですが王への謁見をお願いしたいと思いますがよろしいでしょうか?」
「問題ないです」
一応言葉遣いを丁寧にしながらシェスカと名乗った女性に対応する。
フランドールとはフランの正式な名前だ。
本名はフランドール・フラウロード、だが長いので親しいものはフランと呼んでいる。 オカ研の面々やノイル様がそれに当たる。
先ほどから当たり前のようにこの世界の人と話せているがそれは神から異世界限定で会話を自動翻訳してくれる魔法を掛けられているからだ。
最初、異世界転生もののラノベではありきたりのこの能力で地球でも英語が楽勝になるかと思いきや現実はそう甘くなかった。
異世界『限定』なので地球の別言語は対象外、いっそのこと『日本以外は異世界』という設定にして欲しかったものだ……。
さて、勇者の仕事と言うと魔王討伐よりも先にまずは自分を呼んだ国への挨拶が必要だ。
勝手に魔王を倒しに行って帰るだけでは済まない。
なので今回もまずは王に会わなければいけないのだが……。
「……これまた随分ときらびやかな王城で……」
「外装はまやかしでございます。恥ずかしながら私は空間魔術の使い手でしてね」
「なるほど」
……早速ながらキナ臭くなってきた。
民には極貧生活をさせているが王城内はこの過剰なくらいな装飾。
(ノイル様によると俺が望む報酬は期待できない……試してみるか)
あの人は一応神様、目は腐っていないと信じたい。
数分歩いた後、明らかに一人の力では開けれないほど巨大な扉――恐らくは王の居る部屋の前に着いた。
「陛下、勇者ノワール様と従者のフランドール様がお見えになりました」
「うむ、入るがよい」
シェスカが金属製のドアノッカーを利用して呼び掛けると想像していたよりも若い声が扉の奥から聞こえてきた。
シェスカがノッカーから手を離すと奥へ向けて扉が開き始める。
中は予想していた謁見ではなく長机の上に豪勢な食事が用意された物だった。
「よく来てくれた!私はエストノエラの王、ハティル・エストノエラだ。歓迎の証として食事を用意したが如何かな?」
「歓迎感謝します。ではお言葉に甘えて」
この形は勇人にとってあまり遭遇したことのない歓迎の仕方だったため驚いたがすぐに応じる。
(用意してくれた食事を拒否するのは失礼だろうからな……)
決してあまり見たことのない食事があったからではない。そう絶対に。
「……随分と良いもの食べてるんですね。外はあの現状なのに……」
「ハッハ、恥ずかしながら。民に食材を回せば彼らは平等を主張する。そしてその平等を実現するほどの備蓄は城にない。限られた物資は選ばれた者のために使うべきだ……とは思いませんか?」
「まぁ一理ありますね。と言うことは先代王は平等派でしたか?」
「……どうしてそう思ったのか、教えてくれるか?黒の勇者ノワール殿」
こちらが質問を投げ掛け続けていると少しだけ眉が曲がる。
(……攻めすぎたか?)
だが続けるように言われているのでまだ止めない。
「黒の勇者、もしくはノワールで良いですよ。なに、簡単な話です。私が言うのもなんですが貴方は王としては若すぎる」
勇人が今まで会ってきた王は大抵、既に子を授かっていたり頭髪がほぼ白髪となっていたりとかなり上の年齢の人物が多かった。
対してハティル王は勇人よりは上だがそれでも三十には満たないように見える。
しかし、別に今まで若い王がいなかったわけではない。
事情としては先代が病死、自身の能力不足を知り退位、果ては暗殺……といった感じでその子が王となった。こんな形が多かった。
大抵の王国は凡百の市民よりも一貴族、一王族の方が強い。
勇人は平等意識が高かった先代を有力貴族が見限って選民思想の強いハティル王につき、現在に至ると考えた。
(まぁこの国に英雄的存在でも居れば話は別だったんだろうがな)
市民も貴族も関係無しに満足に生き残っている世界の場合、大体市民側に強者……というかカリスマ的存在、つまり英雄が居る。
地球でたとえるならジャンヌ・ダルク的な存在だろうか。
彼女は最終的に魔女認定されて処刑されたと言われているがただの市民どころか村民である。
神の声を聞いた聖女としてフランスの士気を上げていた彼女は間違いなく英雄だろう。
彼らこそ勇ましき者――『勇者』に相応しいと思っている。
閑話休題
「なるほど、確かに先代王、私の父は私と意見が食い違い、私側に付いた貴族達と協力して退位して貰った。まぁ殺してはいないので安心するがいい」
「まぁこういうのもなんですが、親子で殺しあってないのなら安心です。王族、貴族にはよくあることらしいですが私の祖国では縁の無い事なので」
「ほう?ノワール殿の世界には親を疎ましく思う子はいないのか?」
「ゼロ……とは言い切れませんが少なくはあると思います。育てて貰った恩を仇で返す、なんて事をしたいとは思わないでしょうからね」
「ふむ、そうか……」
ハティル王は勇人達の世界に興味を思ったかと思えば腕を組んで考え事の姿勢を取り始めた。
そんなに難しいことを言ったつもりは無かったのだが……。
「君は今現在、親を殺したいと思っているか?」
あぁ、何を悩んでいるかと思えばそんな事か。
「正直に申し上げますと、あんなことになるなら俺の手で殺したかったかもしれないですね」
「あんなこと……とは?」
かなり喋っていたため渇いていた喉を水で潤す。
そして告げる。
「もう死んでしまったのですよ。私が異世界を救いに行ってる間に」