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睡眠不足勇者の日常  作者: 夜霧
一章 寝不足勇者と夜の異世界攻略
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6.スラム街?いいえ、城下町です

次回は明日12時

さ、やっと異世界入り

 

「えーっと……座標はこれで良いんだよな……よし、行くぞ」

「畏まりました」

 右手に座標が刻まれているらしい紙を握り、左手はフランへと差し出す。

 一見何も書かれていないこの紙には書いた本人にしか読めない文字が書かれているらしく、どういう仕組みなのかこれに魔力を注ぎながら空間転移を行うと刻まれた場所へと転移出来るらしい。


「……着いた、か……」

「これは……酷いですね」

 転移した矢先に視界に入ったのは砂嵐の影響かボロボロに風化しかけている巨城とかつては栄えていただろう城下町だ。


「とりあえず城に挨拶でもしに行くか……」

「はい……」

 あまりの光景に普段は『畏まりました』と返答しそうなフランが『はい』と至って普通の関係性の中で使われる返事をしていた。


「……あっ」

「別に良い、ていうか無理してそういう言葉を使わなくて良いと何度も言ってるだろ?」

「いえ……これは私が望んでやっている事ですから」

 最初の異世界から連れ帰って以来何度か「もう少しラフな口調で良い」と勇人は言ったのだがフランは態度を変えない。


(俺は別に従者が欲しくて助けた訳じゃないんだがなぁ……)

 実際のところフランが居ると助かることは多い、しかしあまりにこの生活が普通になると失った時のダメージは計り知れない。

 そう感じながらも五年の歳月が過ぎた。


 勇人も薄々感じてはいるのだ、もうこの生活から離れることはできない……と。

 如何せんフランがハイスペック過ぎた。

 掃除、洗濯、料理、家事全般もお手の物、知識欲にも事欠かなく今でも気になったことは満足するまで調べている。

 そしてこの異世界でもかなり楽な旅路が約束されている。


 そんな事を頭の中で考えてる内に城下町中央、オアシスだっただろう場所へと辿り着いた。


「これ全員生きてる……よな?」

「生命反応はあります。ですが……水と食料が無ければ長くはもたないでしょう」

 ほぼ干上がっている池の周囲には男女関係無しに雑魚寝状態、砂漠の夜は昼間と比べてかなり寒い筈なのに全員薄着なのは服がないからなのか着替える気力もないからなのか。


 勇人とフランはそれぞれ黒と灰色の外套を着けている。

 加えて勇人の顔は眼鏡が外され、前髪は後ろへ撫で付けられた所謂オールバックの状態だ。

 眼鏡が無くとも問題ないのはそもそも伊達眼鏡だからである。

 視力云々ではなく同じ異世界転移者同士――つまり勇者がバッタリ出会わないようにするための対策だ。

 どうやら異世界転移者からの印象を薄くする効果があるらしいが明確に転移者だと分かっている人物と遭遇したことがないため真偽は不明だ。


「お?お二人さん良いもの着てるなぁ?何か恵んでくれんかね?」

 中央を突っ切り、暫く進むとナイフを手に持った数人の男が現れた。


「……何処の世界にも居るんだな。この手のチンピラ」

「相当補助が充実してかつ、平等な世界じゃない限りこういう層が消えることはないでしょう」

 人は他人の物を欲しがる生き物ですから……と小さな声でフランが呟くがその声は男達には聞こえていないだろう。


「どう致しましょうか?」

「お望みの水でも食らわせてやれ、たとえ渇れる寸前のオアシスでも空気中の水分量はこの辺で一番多いだろ」

「畏まりました」

 フランから魔力が発せられ、男達は謎の威圧感によって少し後退りするもリーダーであろう人物からの指示によって撤退は許されなかった。


「女一人にビビるんじゃねぇ!傷物にしちまいなっ!!」

「はぁ……テメェらごときがフランに触れられるわけねぇだろうが」

 周囲の空気中に漂う水分が急速に集められ、それはちょうど人数分の顔がすっぽり入りそうなくらいのサイズの球体となった。


「行きます…『水球』」

 そしてその球体は全員の頭へと飛んでいき、覆った所でちょうど停止する。

 一瞬何が起こったか分からないような顔をしたが数秒後球体がナイフで傷を付けようとしても手でパシャパシャと掻いても壊れず、慌て始めた。


「テメェらにとっては良いものだろう?水だ。こんな砂漠じゃあなかなか手に入らないだろうからなぁ……まぁ頑張って飲み干せ?」

 まぁ無呼吸で自分の頭を覆える水を飲むなんて相当キツいだろうがな、と付け加えると男達は更に慌てて口をパクパクさせてるが頭を覆う水はなかなか消えない。


「……ちゃんと溺れる寸前で解除してやれよ」

「畏まりました」

 男達に聞こえない程度の声でフランに囁くと分かっている、と言うように頷き、そう言う。


 いくらチンピラと言っても自国の民を殺した勇者を信頼する筈がない。

 ケンカを吹っ掛けられてもこうやって脅す程度で我慢しなければならないのは困りものだ。


 やがて動きが鈍くなった男達の顔の水球が弾け、両手と膝を付いて過呼吸になりそうなほど激しい呼吸をしている男達へと俺は歩み寄り、目線の高さが同じになるように屈む。


「俺はこの世界を救いに来た勇者だ。この国との関係性を悪くしたくなくて脅し程度に抑えたが次は多分徹底的に証拠を消して殺す。覚えておけよ?」

「ひ、ひぃ……!?」

「怯えはいらねぇ。返事を寄越せ」

「わ、分かった!あんたらに手は出さねぇ!」

「よし、んじゃあ城に行くぞ、フラン」

「畏まりました」

 リーダー格の男の胸ぐらを掴んで脅し、満足したのでその場へ投げ捨てる。

 勇者の所業ではない?うるさい、優しいだけの勇者はすぐ死ぬんだ。


 綺麗なことを言ってるだけじゃあ長続きはしない。

 


『最強さんなにもしてないじゃん』


『俺、力の安売りはしないから……』(目そらし)


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