5.夏季休暇中の活動予定
次回は21時予定!
「まだ議題に移ってはないが遅刻は遅刻だ!工藤後輩!理由を話したまえ!」
「え~、フラン先パイと奏先パイなら良いけど瞬先パイに~?どうしよっかなぁ~」
「どうやら貴様には一度立場というものを教えねばならんようだな……工藤後輩っ!!」
「キャー、セクハラっスよ~?先パーイ?」
瞬が綾乃の肩を掴もうとするがそれを避けてわざとらしく煽るような口調で笑うと瞬の頭の中で何かが切れるような音がした。
「ほほう、なら我が武装にて貴様を葬るっ!」
瞬はパーカーのポケットから白い固形物を大量に取り出し、綾乃へと投げつけ始めた。
「いやいや、武装って……いつも通り消しゴムじゃないッスか!」
「うるさいっ!さっさと食らうがいいっ!」
瞬もかなり全力で投げている筈だが動体視力が良いのか綾乃には全く当たらない。
そして勿論消しゴムである以上少し弾力があるため、狭い室内を跳ね回る事になる。
「ったく……フラン、大丈夫か?」
「はい、問題ありません」
勇人とフランはノートやプラスチック製の筆記用具入れを使って跳ね回る消しゴムを弾いて防いでいた。
いくら消しゴムとは言え当たればそこそこ痛い。
「いてててっ!奏~、彼氏さんは消しゴム弾幕を防ぐための壁ですか~?」
「黙って私の前に立ってなさい、フランちゃんとか勇人みたいに私は防げないの。それとも何?私が消しゴムをぶつけられても良いの?」
「いや、きっと投げた奴をぶん殴るな」
「じゃあ私と、ついでに瞬君のためにも大人しく壁になりなさい」
「イエッサー!うぶっ!?」
奏と修二も見事な主従かんけ……彼氏彼女関係でお互いを思って行動していた。
「はぁはぁはぁ……くっ、今回も一発も当たらなかった……だとっ!?」
「甘いッスね~、避ける隙間を与えないくらい濃い弾幕を作れるようにならないといつまで経っても当たらないッスよ~?」
「拙者に人間を辞めろと言うのかっ!?」
数分後、跪いてうちひしがれる瞬とその前でご機嫌に魔力を吸えそうな不思議な躍りを踊っている綾乃がいた。
「あ、ちなみに遅れた理由は高校時代の後輩から連絡があってそっちに対応してたからッスよ。すいませんでした~」
「……そうか、まぁ慕ってくれる後輩は大事にするがいい」
「はーい」
綾乃が手を差し出し、それを借りて瞬は立ち上がる。
何だかんだ言ってるが綾乃がこの中で一番信頼してるのは瞬なのかもしれない。
◇◇◇
「……さて、話を戻すとしよう。夏季休暇中の活動の件だ」
全員で散らばった消しゴムを拾い集めた後、瞬が話を再開する。
「去年は修二の家で一人二十ずつ自作の怪談を持ってきてもらって百物語やったっけ?」
「あれ終盤はグダグダになったわよね。そもそも素人がクオリティを維持しつつ二十も怪談を考えるなんて無謀だったのよ」
去年は現在の二年生五人で独り暮らしをしている修二の家で百物語をやった。
流石に百本の蝋燭は用意しなかったがそれなりに楽しかったものだ……前半戦は……。
奏の言うとおり、一人一人二十も作ればだんだんと作品のクオリティは落ち、類似の作品も増えるもの、結局八十ほどで止めてしまったのだった。
「今回も誰かの家で何か企画できれば良いものだが……残念ながら拙者の家は兄弟も親も居る。あまり推奨できない」
「まぁ保護者が近くに居る環境でやるっつーのも悪くはないけど自由度は激減だな。奏は」
「私の家はダメよ。お母様が怖いもの」
「だよなぁ」
瞬は実家暮らし、兄一人弟一人という間環境にいる。
ちなみに弟はリアルタイム中二で瞬の影響を受けまくっているらしい。
奏の家は門限こそ無いもののピアノ、水泳、塾など様々な英才教育を施されており、親もそこそこ厳しいらしい。
そんな環境で夜まで騒ぐなど絶対に許されないだろう。
「ってことは候補としては綾乃ちゃんか勇人の家だが……どんな感じだ?」
「あたしは寮に居るんで無理ッスね。寮則的に連絡してれば他で宿泊してもOKッスけどうちの寮に人が増えるのは厳しいッス」
「じゃあうちか……フランは大丈夫か?」
「事前に予定が分かっていれば問題ありません。むしろご主人様の方は大丈夫なのですか?」
大丈夫か大丈夫じゃないかで言うと大丈夫じゃない。
その間勇者家業は少しやりづらくなるだろうし更なる睡眠不足になる可能性が高い。
いくら大学へ行く用事が殆ど無いとは言え去年は三泊四日ほぼ睡眠無しでいた。
俺はその前に事前にある程度異世界の方で魔物を制圧するために四日ほど寝ずに活動していた。その結果、最終日にはコーヒー等のカフェインが含まれる物が欠かせなかった。
「まぁ何とかなるだろう。何日にするんだ?」
「黒崎殿が良いのなら……ではそれぞれの予定を照らし合わせましょう」
それぞれ自身の夏季休暇中の予定を話し、候補を絞り混んだ結果五日後の八月七日から四日間の泊まり込みで勇人の家で合宿を行うことになった。
何をするかは当日決めるらしい。
「じゃあ今日は解散!後でSNSのグループチャットの方で持ち物とかやろうと思ってることとか送るから確認しといてくれ~」
「りょーかい、フラン、帰るぞ」
「あ、勇人は神隠しに出会わんようにな!今回に関しては我らが裏代表様がいないとそもそも場所が用意できない」
「善処する。そもそも神隠しが制御できるならそれは神の所業じゃないだろうがな」
「然り、ですがお気をつけを、黒崎殿」
「瞬、お前もか……はいはい」
そもそも勇人は既に空間魔術によってノイルに半強制的に飛ばされるのではなく自主的に異世界へ行くようになっているため気を付ける必要はない。
しかし、それを知られればまたややこしいことになるので何も言わない。
そもそも神隠しによって何処に行っているのかは秘密なのだ。
(まさか最近のラノベみたいな展開になってるとは思わねぇだろうな……)
異世界転生または異世界召喚などによって成人まえの学生などが地球とは別の世界に飛ばされて勇者として活動する――という感じの普通に考えてあり得ない出来事が五年前から俺に起こっている、なんてこと言っても親友の修二でさえ信じないだろう。
「……フラン、部屋に戻ったら異世界に出る準備だ。基本、夜に動くだろうから防寒対策しとけよ」
「空間魔術と火属性魔術を組み合わせればちょうど良い温度を保つことも出来ますが……」
「基本はそれでいいが魔術が使えない場所もあるかもしれない。この前フランが見ていたラノベの主人公みたいな魔術を封じる魔術もあるかもしれないしな」
「畏まりました」
さぁ、異世界攻略の時間だ。