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睡眠不足勇者の日常  作者: 夜霧
一章 寝不足勇者と夜の異世界攻略
19/54

19.砂の魔王戦 顛末

 

 砂の魔王の討伐は完了した。

 ここからはそれからエストノエラ…だった国がどう建て直されたのか、それをここに記す。



 ◇◇◇



 民衆は突然崩れた城から大量の水が流れ込み、命が救われたものも少なくなかった。

 それから黒い雷、黒い炎、真夜中のように空を覆う漆黒などが発生し、『これは神の怒りだ!』『天変地異だ!』『この世の終わりだ!』などと言った声が上がった。先刻水が流れ込んで『神の恵みだ!』とか言っていたのにとてつもない速さの変わり身だ。


 それから数分後、サージュとシェスカが民達の前に現れ、語った。

『砂の魔王、ハティル・エストノエラは死んだ』と。


 当然その宣言に動揺が走った。一般人でも『砂の魔王はサージュだ』ということは知っていた。

 それがサージュが皆の前に姿を現し、実は国の指導者が魔王だったといわれたのだ、混乱するだろう。


 だが、城の跡地を調べていく内に証拠は続々と出てきた。

 まず、ハティルを支持していた貴族達、それらは全員腐乱死体で地下から出てきた。

 判別がつかないものもあったが持ち物などから全員本人だろうと推測された。


 その中には先代王の死体もあった。

 これは更に酷い、胸部を滅多刺しにされ、そのまま絶命。後に死体が腐った、という流れだろう。

 最初からハティルは王座を奪い、この国を乗っ取っていたのだった。


 数時間後、急遽黒の勇者に感謝の言葉を告げる、という名目で清掃された中央広場にて集会が行われた。

 黒の勇者が求めたものは新しい王の任命権とサージュの持つ刀だった。


 サージュはこれを快諾し、刀を渡すと同時に彼女が次の王に任命された。


 新しい国の名はユージア、彼女は名をサージュ・ユージアと改名。

 それを見届けた後、勇者はこの世界を去っていった。


 後日談だが、数日経った日、突然馬車にて砂地を水で固めながら来た隣国、ジパンからの使者から『勇者ノワール殿からの情報により、貴国と交易をしたい』と言った内容の手紙を渡された。

 友好の印として多くの魔道具や加工金属など様々な物が贈られた。

 勿論、サージュは喜んで友好を結んだという。



 ◇◇◇



「そういえば、ご主人様は元から国の名前を考えていたのですか?」

「まぁな、ジパンが日本だとするとエストノエラは西側の大陸ユーラシア大陸アジア州。それを混ぜてユージア、って感じだ、簡単だろう?」

 サージュから貰った刀を眺めながら勇人は言う。


「こいつは日本刀より反ってるからシャムシールってところかな?いやぁ、良い刀だ」

 実は勇人は刀剣マニアだ。行く先々でその地特有の剣を仕入れ、空間収納に入れている。

 それに加えて勇人は『ヴォイド・クロック』を使うと剣を一振り犠牲にすることになる。ストックは何本あっても足りないくらいだ。

 無論、この刀剣コレクションに手を出すのは最終手段だが……。


 そしてその眺める体勢と言うのはうつ伏せだ。これは『ヴォイド・クロック』を使った反動で全身が動かないわけではないが、とてつもないダルさに襲われている。

 一回ならまだこの程度、二回も三回も使った日には痛みが生じるようになり、別の意味で身体が動かせなくなる。ダルい時間が延びるのではなく、濃縮されるのだ。


「はー、久しぶりに寝る時間ができた……このまま寝るわ」

「まだ夕方ですが……」

「いーや、俺は寝るね。ダルくて仕方がない」

「……畏まりました。では、もし起きられた際に食べれるように冷蔵庫に料理を置いておきます」

「おー、頼んだ……」



 ◇◇◇




『貴方は私を殺さなくてはならない、でなければ元の世界に帰還できない』


『だが、お前はっ!』


『大丈夫、私を殺してもこの世界はすぐには終わらない。……もう貴方がこの世界に来て二十八日、今魔王の席に着く私を殺せば帰れる。その結果この世界が滅びる道に向けて一歩前進するとしても、貴方は言う『ここは俺の世界じゃないからどうなろうと知ったことじゃない』って』


『違う!今は変わったんだ。お前が、お前が変えてくれたんだ……っ!きっと道はある筈だ!全て丸く収まる道が』


『百年探した。それでも見つからない答えを貴方が出せるって言うの?全ては創造主の思いのまま、勇者だろうと『アルコンシェル』の神だろうと覆せはしない。唯一の望みとも言えたあの空神さえも諦めた』


『……』


『所詮私は、一生人形のまま。あのお方の愛玩動物のまま終わる、それが運命』


『なら、俺が解放してやる。俺だけが使えるこの魔術で…!』



 ◇◇◇



「……久しぶりに見たな、あの日の夢」

 勇人の人生の中で最も濃密だった一ヶ月、その終盤。

 あの時から勇人の勇者生活は始まったと言っても良い出来事があった。


(時間……4時か)

 目覚めた時間は4時、それも深夜の方だ。

 街は寝静まっており、今は完全に人の気配がない。


(腹、減ったな……久々にカップ麺か何か作るか)

 十時間ほど寝て、ダルさも完全にではないがある程度取れた。

 寝不足でボケていた頭が今ではスッキリしている。


(そういえばフランに何か作って貰ったっけか。なんだろ)

 キッチンの戸棚からカップ麺を取り出す前に冷蔵庫を開けると勇人は思わず目を見開いた。

 そこにはラップで覆われた皿、その皿の上には大量の唐揚げとキャベツ、キュウリ、などを刻み、最上部にトマトが乗ったサラダがあった。

 勇人の頭は『カップ麺が食べたい』から一気に『好物の唐揚げが食べたい』という欲に忠実になり、いそいそと食べる支度を始めた。


(じゃあ米は冷凍庫にラップ巻いて保存してある奴を出してっと)

 それらを全て電子レンジに放り込み、スマホでSNSやニュース記事を見ながら待つ。


(揚げ物は手間がかかるだろうからしなくて良い、って言ってるのに……)

 油の処理やら揚げ時間やら、手間がかかる割にはすぐに食べ終ってしまう料理、それが唐揚げだ。

 同様に餃子などもその部類に入るだろう、あれは包む手間もある。


(俺の好物ってので作ったっ言うなら申し訳ないな……市販の奴で十分美味いから今度買ってこよう)

 と思考した後、『いや、待てよ?』とその考えを消した。


 以前買ってきた時には後日、逆にフランが気合いを入れて作って店顔負けの味の唐揚げが出されたことがあったのを思い出した。


(はぁ……仕方ない、俺も手伝えばいいか)

 どうあってもフランが唐揚げを定期的に作ることは避けられないと判断し、それなら少しでも負担を和らげようと考えるのだった。



 ◇◇◇



「んー、美味いなぁ……唐揚げ」


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