17.邪神の騎士
「最近の魔王は口ばかり強くていかんなぁ。この程度の魔力で呼ばれても『魔器』を用意できなければ顕現時間も少ない」
「なっ、はっ!?」
黒騎士は拳を握ったり開いたりして感触を確かめるような素振りをしながらそんな事を言う。
(ハッ、あいつ召喚に使う魔力ケチッたな?これは儲けた)
ある程度力のある魔王が自身の魔力を捧げることで呼び出すことが出来る『邪神の四騎士』。その名の通り四人の騎士で構成されているらしいが勇人はまだ三の騎士と目の前にいる一の騎士にしか出会ったことがない。
だが、どの騎士も並みの魔王を凌ぐ力があり、召喚された時の勇者の死亡率は八割を越える。
「……ん?おお、相手は貴様か!久しいな、まだ生きていたとは」
そう、一の騎士である目の前の奴とは何度か戦ったことがある。
逆に三の騎士とは数ヵ月前に一度戦ったっきりだ。
「そうかそうか、合点がいった。おい、そこの呆けている魔王、貴様の望みを叶えてやる」
「!、そうだ、最初からそうジデッ!?」
喜びの表情を浮かべたハティルの顔は次の瞬間、苦悶の表情へと変わる、鎧の腕が彼の首を絞めたからだ。
「貴様の命を捧げれば『魔纏』は無理でも『魔器』なら呼び出せるだろう。充実した二分のために犠牲になるが良い」
「あ゛っ!?わだしは邪神ざまの使徒になるだめに貴様を呼んだのにっ!?」
「我の満足のために命を捧げたんだ、『名誉使徒』くらいは打診してやろう。…去らばだ」
一瞬、ハティルの首から上はトマトのように簡単に握り潰され、鎧の腕に赤黒い血が滴る。
「フラン!空間魔っ!!」
勇人はすぐにフランにシェスカとサージュの二人を逃がすべく空間魔術を使わせようとしたがその言葉は途中で止まる。
突如自身に襲いかかる何かに対応するために動いた末に吹き飛ばされたからだ。
「逃げる気か?ならばこの世界、少なくともこの大陸は滅ぶだろうな。しかしそれが勇者のすることか?否、絶対に否だ!」
「……お前相手に逃げる気はねぇよ。勝てる勝負に逃げるバカが何処にいる?」
「その心意気や良し!さぁ、この至福の一時、二分間を楽しもうか!!」
黒い弓手にする騎士の目は砂の壁に吹き飛んだ勇人を見据えている気がした。
「我が名は『邪神の騎士』、第一の騎士、邪弓のアロイーズ。参るぞ?好敵手よ!」
◇◇◇
「……『黒魔=濃霧』」
「ふむ、そこか」
黒魔術を一メートルの視界も確保できないほどの濃霧へと変換、性質はともかく元から大量の魔力を周囲に放っていたので頭痛の問題はない。
声から大体の当たりを付けてアロイーズが弓を放つもそこにはもう誰もいない。
「時間稼ぎか?ならこうしよう。魔弓ヴァニティーコール!……『ブレイズアローレイン』!」
それを見て弓を上に向け、最初に勇人に向けて射った矢に近いものを放つ。
するとそれは四方に拡散し、地面に着弾すると爆発を起こした。
ちなみにフランはシェスカとサージュを連れて既に遠くへと逃げている。ちょうどサージュが籠っていた場所辺りに。なので周囲に守るべきものはない。
一般人?アロイーズ相手にそんな事を気にしていたらこちらがやられる。
「ハハハハッ!さぁ、出てこい!この辺を平らにしても良いのだぞ!?」
「チッ、『思考速度低下』、『魔力対消滅』」
「黒魔術のみで私が倒れる謂れは……フンッ!」
『思考速度低下』はアロイーズが纏う魔力で消滅、『魔力対消滅』は思わぬ反撃を恐れてか矢で相殺した。
黒魔術は基本的に不可視、だが熟練の猛者は魔力感知能力も高く、大体何処に魔力があるかが分かるため、このような芸当も不可能ではない。。
「っ!」
「ハハッ、そうだなぁ、貴様はそう来るさ。だがっ!『ヘルブレイズ』!!」
『魔力対消滅』へ矢が放たれた瞬間、アロイーズの左後ろから剣を振るうが弓に遮られ、奴自身は邪神の力が籠った地獄の炎を纏う。
これは俺が放つようなただ単に闇属性の魔力がこめられているものとは別物だ。
使用者が魔力供給を断つ、対象の消滅、強力な光魔術で浄化する。この三つの方法でしか基本的に消えない。
『こ』と『ご』の違いだけなのに黒炎と獄炎では大きな違いがあるのだ。
「ふーむ、しかし……、貴様、我の時は手を抜いているのか?」
「……あ?何を根拠に」
「レギュリアの時にはそんな拙い剣術ではなくとてつもなく冴え渡った剣術を使っていたらしいな?」
レギュリアとは『邪神の四騎士』第三の騎士の事、ここ最近で一番死ぬ可能性が高かった戦いだ。
「我の時にも使わぬのか?」
「こっちにも色々と事情があるんでね、お前には使えないんだよ、悪いか?」
「そうか……、あぁ、もうこの魔力体が崩れ始めた、楽しい時間はあっという間というがそれでもこれは時間が足りな過ぎる。……だが此度はこれで終わりにしよう。簡単に死んでくれるなよ?」
そう言うとアロイーズは身に纏う獄炎を一本の矢に全て纏わせ、収束する。
「死ぬかよ、俺にはまだまだやるべき事があるんだよ」