13.資金の調達方法
「じゃあ昼間に話した通りで」
「承知しました。お気を付けて」
「それはフランの方だ。何か異常な事が起こったらすぐに連絡いれてくれ」
勇人はただの資金調達と情報収集、フランは戦闘、明らかに危険度はフランの側の方が高い、と言いたいところだったがフランはさっさと転移してしまった。
「ったく、毎回別行動の時はこうだよな……」
最強の勇者舐めんな、と誰もいない部屋で愚痴りながら目的地を思い浮かべ、転移した。
転移した先は機械の駆動音や厳つい男達の怒鳴り声が多数耳に入るとても騒がしい国。
以前勇人はこの国を魔王の手から救い、それからも度々訪れているため、かなり長い親密な付き合いをしている場所だ。
金属をそのままくりぬいて作ったような荒っぽい建造物もあれば今の地球には無いような高度な技術を使って作られた千メートルクラスの超高層ビルのような物もある少々歪なこの国の名はジパン。
確か中世、近世ヨーロッパ辺りで日本を表した言葉が『ジパング』だったような……と言ったらノイル様に妙な圧力のある笑みで『気にしないで?』って言われた。まぁ神様にも色々事情があるのだろう。
(さ、いつもの場所に行くか……)
行き先は複数あるがまず一番時間を使いそうな場所に仕事を置いていく。
楔型文字のような記号に近い文字で書かれた看板は『鑑定屋』
「邪魔するぞ」
「お?ユートの旦那じゃないですか。また稼いできたんです?」
閑古鳥が鳴いていた店に入ると外で歩き回っていた筋骨隆々な男達とは売って変わってガリガリなメガネの店主が笑顔で寄ってきた。
大抵はその世界の通貨で還元してくる鑑定屋が多いがここだけは日本に持ち帰って円に還元できる金に変えてくれる。
だから勇人は現地人には不人気なここを利用している。
金を通さず通貨に変えてくれるところが多いしそれが普通だった。
「それでそれで?今回の収穫は~?」
「前回の世界では収穫ゼロ。だが今回の世界、ちょっと気になることがあってな。これを鑑定して欲しい、だが今すぐ金に還元はしない」
「ほう、旦那が前払いを要求するって事は……また金払いの悪い世界に行ったんですね?」
「今回は神様の助言を参考に、だ。危険度高いけど報酬も期待できないとさ」
「っかー!それ良いこと無くないっすか?旦那の力が必要なんでしょうけど代価はちゃんと支払われねぇとこっちも困りますよぉ」
そう、この店主は俺が持ってくる貴金属で何発か派手に当ててるのだ。
彼にとっても別の異世界の金属、試しにオークションに出したら勇人に渡した金の数十倍以上の価値が付いたとか言って次に来たときに割り増しで払ってくれたのだった。
以前この世界を救ったこともあって勇人の事を知る人物も多いため、誰がその貴金属を持ち込んだのかはすぐに明らかになり、急いで金を用意しようにもそこはこの店長、抜かりはなかった。
もう既に金の市場を独占していたのだった。
こうしてこの店長のみと取引する環境が出来上がったのだった。
「んー、今すぐは分かんないですね……どれくらいここに居ます?」
「一時間を目処に滞在予定だ。その後はすぐにフランと合流する」
「おー、あの子まだ生きてるんすね。一回くらい抱きまし……失礼しました」
余計な考えを抱いた店主に向けて魔力を軽く放出するとヤバいと感じたのかすぐに頭を下げた。
「でも旦那~、いつ別れが訪れるか分からない職でしょう?あれはかなりの上玉ですよ?」
「黙れ。俺とフランは目的を果たすまで離れないし絶対に守り通す」
「はぁ……すごい愛されてることで、じゃあまた後で来てください。特急で済ませます」
「あぁ、他の用事を済ませてくる」
油を差していないのか、ホラー映画の悲鳴のような音をたてる鑑定屋の扉を通り、次の目的地へ足を進める。
◇◇◇
「いらっしゃい!おや、英雄さんかい。ライターの点検かい?」
「あぁ、頼むよ。キャサリンさん」
店に入った瞬間、誰だかはバレる、それがこの国での普通だ。
恐らく軍が勇人が来たことを王に報告してるだろう。勇人をチラチラと見ながら携帯端末を操作して連絡をしているのが数人居た。
差し出したのは昨夜使った銀の箱、少し魔力を通しやすくしてあるだけの何の変哲もないライターだ。
無論、氷が出ることもない。
これは勇人用の特別仕様だがこの店は本来日用魔道具専門店、日常的に使うものを魔力で補助して高性能にしているものが売っている店だ。
たとえば包丁。これは一見ただの包丁だが魔力をこめると刃に風属性が纏わりつき、一振でキャベツを微塵切りにすることができる。
まぁ魔力をこめすぎると誤ってまな板やキッチンも微塵切りにすることになるが。
ちなみに『そんな事になる人間は初めて見たよ』、とキャサリンには言われた。
たとえばこのジョウロ、魔力をこめると水を汲まなくても水が出てくる……あ、これだ。
「ついでにこれも買っていく。代金はロバートにツケといてくれ」
「えー、また?私、王城に領収書持ってくの嫌だよ?」
「安心しろ。今日は俺が持ってく」
ならいいけど、とライターを見ながら軽く言う。
「そういえば英雄さん、あんたの管轄かは知らないけど一週間くらい前だったかな?西の大陸に魔王が生まれたらしいよ」
「被害の規模は?」
「その大陸は全国家で同盟を組んでたらしいんだけどね、一国を残して全滅さ。銀山、金山が大量にあった大陸だったんだけどぜーんぶ砂に飲み込まれちゃったらしいわよ」
「ん?砂……ははぁ、なるほど、ね」
「それで新たな鉱山資源を求めて交流を深めようとしてた王様もカンカン……何ニヤケてるんだい?」
「いや、思わぬところでロバートに借りを作れそうだな、って思っただけだ」
「え?……もしかしてあんたが担当?」
「あぁ、数日中に貿易に変化が出る、稼ぎたかったら準備した方がいい」
「ちょ、ちょっと待って、相変わらずあんた動きが早いねぇ!砂漠ってんなら空気中の水分からだと限界があるから海水を飲み水に変換できる魔道具も作っておかないと……」
「予定では明日にもう魔王討伐予定だから、そのつもりで」
「時間が足りないって!?」
悪いが他の店が準備が出来ない分ちょっとの間だけ市場を独占出来るだけありがたく思って欲しい。
ロバート……王から鑑定屋はともかく魔道具屋はもう少しパワーバランスを考えてくれ、と言われているからな。
「はい、異常ないから燃料の補充だけで終わり!それとジョウロ型の水魔道具と領収書ね。じゃあこれから閉店して経営方針話し合うから!また来なさいよ!」
「了解。必要な魔道具とかライターの故障とかがあったらな」
さっきの鑑定屋とは違い、魔力駆動の音もなく開く自動ドアに見送られ、王の居る城…ではなく超高層ビルへと向かう。