11.対サージュ 前哨戦
とりあえず戦おうぜ?主人公、と思ったので本日2回目の投稿です
勇者は与えられた一つか二つの属性の魔術と身体能力、固有魔術によって異世界を救う。
しかし、現地人には既存の属性を三種や四種と持っている者も居る。
人類側なら英雄や救世主と呼ばれたり魔王サイドならば四天王やら参謀やらと役職を与えられるような人種だ。
実力で言えば実はフランもその括りに入る。
彼女は火、水、風、光、闇と五人の勇者がそれぞれ使える魔術に加えて白魔術、空間魔術をかなり高レベルで扱うことが出来る。
空間魔術に関してはノイル様から与えられたものだがそれでも六属性、ハッキリ言うと固有魔術抜きの魔術勝負なら最強を自称する勇人も負ける可能性は決して低くない。
それほどの人物が何故勇人を『ご主人様』と呼び、付き従っているかはまた別のお話……。
◇◇◇
「フラン、そっち側は任せるぞ」
「畏まりました。ご主人様もお気をつけて」
「おうよ」
勇人は腰に携えていた腕に近い長さの剣を抜き、フランは空間収納から身長とほぼ同サイズの杖を取り出した。
「さてさて、まずは……燃やしてみるか?」
右手で剣を構えて敵を牽制しながら左手はポケットの中にある鈍く輝く金属製の小さな箱を取り出して開け放つ。
「『……』食らえよ、黒炎!」
箱から飛び出したのは燃え盛る黒い炎、それは勇人の向いている方に居る魔物を等しく襲った。
熱さに呻く声が聞こえるものの炎の中の姿は健在だった。
「これで終わってくれたら良かったが……流石に砂漠に居るだけあって高温への耐性は万全か。じゃあ反対はどうだ?」
炎がちょうど目の前の魔物全てを覆ったときに箱の蓋を閉じ、懐へと戻した、
そして軽く握った左手を魔物達へ向ける。
「『……』。氷結」
勇人はその言葉と同時に指を鳴らす、すると炎は氷へと変わり、魔物達の動きを完全に止める。
まだ生きてはいるようだが時間の問題だろう。
いくら日中と夜間の温度差が激しい砂漠の魔物でも凍るほどの低温には耐えきれない。
「あ、準備運動なのに動いてねぇじゃん、俺」
本来の目的を思い出したものの時既に遅し、フランの側もすぐに終わるはずなので諦めて凍った魔物を起こさないように氷ごと中身を切り裂いて準備運動代わりにすることにした。
「さて、フラン、そっちはどんな感じだ?」
勇人がフランの方を見ると何故か杖を持ちながら魔物の間を縫うように動いていた、それも攻撃もせずに。
「今終わります。詠唱は確か……邪なる威力よ退け、『破魔の聖域』」
何処かで聞き覚え、というか見覚えのある詠唱の後、フランが使っているところを見たことがない魔術が発動した。
「どうでしょう?昨日読んだ漫画の中にこのような魔術があったのですが。そのままの名前を使わせてもらうのは何か違うと思いましたので変えさせていただきましたが」
「あー……、確かに見覚えあるんだがあれって魔物を跡形もなく消滅させるような凶悪なものだったか……?」
彼女の杖を見れば先端にある魔石と呼ばれる魔力の質を向上させて魔術の発動効率も効果も良くなる魔物の心臓とも言われる物質が破壊され、魔物がいた場所の周囲にそれらが散らばっていた。対角線で結べば五芒星になるように。
戦闘開始時にやけに安物の杖を持ったなと勇人は思っていたがまさかこんな使い方をするとは思わなかった。
(いやいや、確かに某有名RPGの漫画限定魔法であったけど……あれは設定上悪意に染まった魔物を浄化してまともな状態に戻す程度だっただろ……)
正確には外からの邪悪な魔物の侵入も阻むものだったがそんな細かいところは勇人にとってどうでもよかった。
実はこうしたことは今まで何度もあった。
勇人も漫画やアニメの技を再現しようと思ったことはあったが如何せん、使える魔術が闇魔術と黒魔術、それと固有魔術だ、再現しようにもそれに対応する魔術が使えなかった。
「用意すべき物を用意した結果こうなりました。まぁ概ね想定通りの魔術でしたが準備に手間が生じるので今後使う機会は訪れないでしょう」
「……おう、まぁ好きにしろ」
対してフランは複数の属性を扱うことができる。
漫画やライトノベルと言ったファンタジーの領域の魔法、魔術の再現も可能であり、実際に行うと今回のように想像以上の化け物魔術が生まれることも少なくなかった。
(そもそもの魔石の性能が違う、あの様子だとかなりの魔力を魔石に注いでた筈だ)
あの世界の魔石は恐らく本人の魔力を溜め込むなんて作用はない。
だがフランの杖の先端に取り付けられていた魔石は細かい破片でも一定量の魔力を溜め込めるしその溜め込んである間に安物だから限度はあるもののどんどん魔力の質が上がっていく、同じ魔術になるわけがない。
「とりあえず殲滅完了、か」
「そうですね。では、この竜巻はどういたしましょう?」
目の前の城を覆う竜巻は健在だ。
これをかき消すためにはそれなりに魔力を消費すると勇人は判断した。
「よし、今日は少しここで魔物が湧いてこないか見て帰ろう」
そして静観を決意した。
ここで無駄に魔力を使ってサージュの元へと行くよりももう少し待った方がいいと思い、勇人は空間収納から脚がかんじきのように広がった椅子を取り出して座った。
「どうせそんな何日も待たずに外に出てくる、すぐに竜巻を吹き飛ばして起こす必要はない」
「なるほど。彼女は本当に出てくるのでしょうか……」
「出てくるさ。外の魔物が少なくなればきっと」
城の中にはまだ大量の魔力反応があったがそれらは段々と数を減らしていっている。
そしてそれらが一つになったとき竜巻は収まり、サージュは現れると勇人は踏んでいる。
「このペースだと明後日……下手したら明日には出てくる筈だ」
無論、魔物の追加がなければ、だ。
しかし、その心配はいらない。
魔物は異種族同士で争い、喰らい合い、相手の魔力を用いて強くなる。
人間を襲うのも喰らって強くなるためだ。
ある程度強くならねばあの竜巻に挑んだ所で切り刻まれて死ぬのが関の山、そしてこれからはその成長の暇が無くなるのだ、勇人とフランによって。
人間も魔物の魔力を喰らって強くなれるか?という問題には既に答えが出ている。
答えは否だ。
そもそも魔物と人間では魔力の質が違いすぎる。
人間が流れる清流ならば魔物は荒れ狂う嵐のような濁流、魔物が人間を喰らうならば問題ないが逆は許容できずに死に至る。
何事にも例外はあるが……。
「とりあえず帰って部屋の掃除するぞ。あ、今日の日本史メモすべき点あったか?」
「特に御座いませんでした。ご主人様の高校時代からの得意科目なので問題ないと思われます」
「オーケー、それなら仮眠くらいはできるか」
現在日本時間は午後十一時、勇人はあの部屋じゅうに舞い上がった砂を残さずキレイにするには二、三時間はかかると見た。
彼はそれなりにキレイ好きなので砂が入り込んだ部屋で過ごすのはとても耐えられる事ではなかった。
部屋をキレイに保つためならただでさえ少ない睡眠時間を削ることも辞さないのだった……。
結果的にフランは朝の一時、勇人は三時まで起きていた。
フランが早く寝ているのは以前に勇人が『本当に従者になりたいんなら健康的な生活を送れ!具体的には三食抜かずに夜に五時間は寝ること!』と言ったからだ。
フランは律儀にその条件を守り、勇人の従者を自称する事を止めない。
(……ホント、なんでそこまでして従者って立ち位置が良いんだろうなぁ……)
勇人は常々思っていることを頭に思い浮かべながら短い眠りについた。
さて、勇人の固有魔術はなんでしょうね……
暇があれば評価、ブクマお願いします~