異世界転移したけど余命が一年らしいので、大魔王になることにした
大学からの帰り道、公園の前にボールを追って飛び出した少女を庇い、代わりに自分がトラックに吹っ飛ばされた。
気が付いたら白い空間にいて、神様と名乗る老人に説明を受けた。俺は予定外に事故に遭い、元の世界にいたらそのまま死ぬので、異世界に転移させるとのこと。
けれど、死ぬほどの怪我をしたので、生命エネルギーを大幅に使ってしまい、余命が一年程しかない。
そんな状態なら転移ではなく転生させてくれてもいいと思うが、そこはとある理由で無理らしい。
転移する世界はとても平和だが、平和すぎて魂のサイクルが崩れ始めている。
その世界では、空気中の魔素と呼ばれるエネルギーを、生きている時に体に蓄えて魔法が使える。そして死ぬ時に、魂とともに魔素を浄化し循環させる。
しかし、生まれる人間に対して、死ぬ人間の割合が少なすぎる。その反動で、魔素が浄化されず溜まり、もうすぐ魔物が大量発生して、世界が滅びるのだと、神様は言う。
「大魔王になって魔素を制御し、同時に勇者を育成して魔物を倒させてほしい。」
転生ではなく転移である理由に思い至ったが、俺は何も言わなかった。
異世界転移してから一年間、充実した毎日を送らせてもらったと思う。
勇者選定の剣を設置したり、魔法を駆使して様々なダンジョンを創ったり、アイテムを作成して宝箱に忍ばせたり。忙しかったけれど、思う存分異世界でやりたかったことを堪能した。
…そして、ついにこの日がやってきた。
「大魔王!今日こそお前を倒す!」
俺は玉座から、勇者を見下ろす。勇者の名はレイルといい、最初はスライムにさえ苦戦していたが、今ではなかなか立派になったものだ。
「勇者よ、お前に私が倒せるか?」
運命の瞬間が目前に迫っていた。俺が放った強力な魔法を、勇者レイルは剣で一刀両断した。
走馬灯のように、この世界に来てからの日々が脳裏に浮かぶ。神様にいわれた通り、俺は魔素を制御して魔物の発生を抑えつつ、レイルを勇者として育て上げた。
「…見事だ。」
勇者の剣が、大魔王の胸を貫いていた。俺は指先から光の粒子となって消えていく。…どうやら、間に合ったようだ。俺の命の最大限の使い道。この世界の魔素を大量に取り込み、死ぬと同時に浄化すること。命が尽きる一年というタイムリミットに、勇者はちゃんと間に合ってくれた。
うっすらと笑みを浮かべて消えゆく俺に、なぜか勇者はくしゃりと顔を歪め、「…ありがとう」と呟いた気がした。
読んでくださりありがとうございました。ブクマ、評価ありがとうございます。励みになります!