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君の道にもし色があるのなら  作者: 緒花
祓い師の娘
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伍 屍の上で

村を出発してから休みなく歩き通して、気づけば既に日は傾き烏の鳴き声が聞こえる。日が暮れ、薄暗闇に包まれた一本道をくすんだ赤の着物姿に赤い襟巻を付けた十四歳の少女と白い毛並みを生やした小虎姿の神様が横に並んで歩いていた。

 時折吹く冷たい風に少女の長くてボサボサな黒髪と赤い襟巻きがふわりと揺れる。


 「ねぇ、飛虎。日が暮れかけてきたけどどうする…」


 「どうしよっか」


 少女が沈んだ声で問いかければ、神様は随分と楽観的な返答を返す。こいつなんにも考えてないな、と少女は心の中でそう思いながらため息をついた。


 「飛虎が先に食料調達しようって勝手に進路変えちゃうから予定が狂ったんだからね!一体何匹魚獲れば気が済むの!?20匹も!!だれが食べるの!?」


 「僕と都子で食べるに決まってるじゃん!一度で良いから魚釣りを体験してみたかったんだぁ〜、楽しかったなぁ」


 都子の怒りに気付きもしない。わざとかと思いたくなる見事な能天気さに怒る気も失せ、都子は呆れて遠くを見つめた。余計な荷物(魚)で重くなった風呂敷を引きずるように運び、鉛のように重たい足を一歩一歩前へ運ぶ。


 「あれ…?ねぇ、都子!あれ村じゃない?」


 「…え?…あっ、本当だ!」


 沈んだ気持ちが少し晴れ、遠くに見える村の方角を見た。

 確かに、村が見える。

 都子はようやく休めると、ホッと息を吐いて足取り軽やか…とまではいかないが(主に魚のせいで)心持ち穏やかに村に向かった。


 しばらく歩いてようやく村に到着した。

 そこはあの呪われていた村よりも随分と小さくこじんまりとした村だった。

 しかし、見渡してもこの村に人の姿は愚か、生き物の気配も一切なく、村の荒れ方から見てもすでにここは廃村しているようだった。

 薄暗くてよく見えなかったが、村には死体が至る所に転がっていた。

 人間の死体かと思えば、鳥や野良犬、妖怪と思わしきものの死体まで混ざっている。


 死体の腐敗臭とどんよりと重い瘴気に都子は「うげぇ」と、呪われていた村で発した第一声と同じ呻き声を上げ、顔を顰めた。全く、すこぶる運が悪い。


 「…うわぁ…。妖怪の死体まで…。一体この村で何があったんだろう…」


 人間だけの死体なら、妖怪や山賊に襲われたり、疫病、飢餓などいくらでも考えつくが、人間以外の死体もそこかしこに転がっているのは不自然に思えて仕方ない。

 人間と妖怪が争った後なのか。でも、ただの人間が妖怪相手に敵うはずがない。倒せても何十人がかりでようやく一体撃退するのがやっとであろうに。

 腐敗した形跡から見ても死んでからまだあまり時間は経っていないように見える。


 「うう…」


 酷い吐き気を覚え、頭がくらくらする。


 …この村で一夜を明かすとか無理、ぜっったい無理!!!


 隣にいる飛虎も同じ気持ちらしく今にも吐きそうな苦い顔で村の惨状を見渡していた。

 もう直ぐ完全に日が沈む。これから新しい村まで移動するのは体力的にも現実的ではない。まだどこかに残党が潜んでいる可能性を考えると野宿も危険。

 都子は少しでも悪臭から逃れる為に襟巻きで鼻と口を覆い、魚が入った風呂敷を引き摺りながら村に足を踏み入れた。気持ちさっきより魚の重みが増したような気がするのは気のせいだろうか。


 「え、え…?入るの!?み、都子待ってよー!」


 一人でどんどん先に行く都子を飛虎は慌てて追いかけた。

 どこに行ってもあるのは死体死体死体。民家が密集する方に行けば行く程、異臭は増す。

 都子は比較的綺麗な家を探して回った。臭うのはもうどうにもならないし、この際我慢するしかない。ただ、辺りに漂う瘴気だけは耐えられそうにない。いつもより体力を削られていて気を抜けば気絶しかねない。呪われていた村での体力もまだ充分に回復したとは言えないし、今は無駄な荷物も持ってるし。

 ただ、苦しいことに変わりはないのだが、こんな瘴気まみれの村にいるのに頭痛と吐き気で済んでいるのは何故だろう。辛うじてではあるが意識も保っていられている。普段であればこの時点で既に意識すらぶっ飛んでいてもおかしくないのに。

 まぁ、症状が軽く済んで悪いことはない。動けなくなる前に泊まれそうな家を早く見つけなければ。

 都子の歩く速度が気持ち速くなった。



 「……?都子待って」


 飛虎が突然立ち止まった。


 「何?この村で寝たくないのは私だって同じなんだから我儘言わないでよ。それともこの邪魔な魚全部持ってくれるって言うの?」


 体調の悪さと悪臭と死体の山に気が滅入っているせいで物凄く機嫌が悪い都子は大袈裟にため息を吐いて飛虎を見下ろした。


 「ち、違うよ!いや、この村で寝たくないのは事実だから間違いではないんだけど…。いや、そういうことじゃなくて」


 「さっさと本題を言え」


 「人の気配がする」


 そう言って飛虎は耳をぴくぴくと動かした。

 誰かの気配…?この村の生き残り?それとも村荒らしの山賊だろうか。何にせよこんなおっかない村で彷徨っているなんて普通の神経じゃないことは確かだ。こちらから会いに行くなんて危険な真似はできない。


 「取り敢えず鉢合わせないようにしなくちゃ」


 都子はそう言って飛虎の案内に従ってなるべく気配から遠退いて泊まれそうな家を探し回った。

 死体が比較的少ない家を選んで軽く寝床の掃除を済ませると、寝支度を整える。


 「魚!魚焼こう!!」


 「馬鹿!こんな所で火なんて焚いたら私たちの居場所がばれるでしょうが!!」


 「えぇー…。じゃあご飯は?」


 「一日くらい何も食べなくても死にはしないでしょ。寝れば空腹も忘れる」


 都子は耳を垂れてしょぼんとする飛虎を無視して雑魚寝した。


 「…お休み、都子」


 「お休み」



***



 「…ん…な、に…?」


 夜中、妙な物音で目を覚ました。

 ずる…ずる…と何かを引き摺るような音がする。何の音か分からないがその音は段々この家に近づいているようだった。


 「飛虎、飛虎起きて」


 声を潜めながら隣で眠っている飛虎を揺する。


 「ふぁあ…ん…どうしたの、みやこぉ」


 眠そうに欠伸をする飛虎だったが、すぐに何者かの気配を感じたのか、耳をぴんと立ててゆっくりと扉に近付いた。

 ずる…ずる…と引き摺るような音は次第に近くなってきたが、歩幅が狭いのか歩く速度が異常に遅いのか足音がとてもゆっくりだった。

 暫く音に警戒していると、何者かの気配が都子たちがいる家の前で立ち止まった。

 引き戸を引こうとしたらしい。扉ががたっと音を立てた。咄嗟に飛虎が軽い結界を張って扉の守りを固めたが微力過ぎる飛虎の力はすぐに解け、呆気なく扉は開かれた。

さて、足音の正体は何なのでしょうか?

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