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朝凪

 サクッ。

 サクッ。


 波打ち際を一人で歩く。

 ぼんやりと昇ってきた太陽を見つめながら。

 爽やかな風の吹く中。

 羽衣はゆっくりと諦められた<夢>達が集まる海岸を歩く。


 さて、……もうこの<夢>達は還さないとだね。

 羽衣は、夢海の<夢>、静空の<夢>、奏の<夢>を懐から取り出すと、<夢>の海へと還していく。

 波に幾度か打たれると、その<夢>達は煌めきを増し、地上へと降っていった。

 羽衣はその光景を一人でぼんやりと見つめていた。

 これで、夢海や静空は地上で新しい生となり、生まれ変わるだろう。

 普通の一人の人間として。


 そしてこれからは羽衣が一人でこの場所で生きていく。

 それが<小さな星>(リトル・スター)として、人々から<夢>を奪った<罪>だから。

 許される事のない<罪>だから。


 だから羽衣はこの終わりのない世界で。

 諦められた<夢>たちが集まる世界で。

 たった一人で生きていく。

 最後に残った『願いを叶える"魔法使い"』として。


 そう思っていた。

 そのつもりでいた。

 けれど。



『そうやって、一人で、ぜーんぶ、背負っていこうなんて思わないでよっ!!』



 そんな声がこの<夢>の世界に響いた。

 と、同時に。

 軽い地鳴りがした。

 地鳴りは次第に激しくなっていく。

 その地鳴りとともに、様々な人々の<夢>達が海から空高くへと昇っていく。

 高く、高く昇っていく。

 空に瞬く、星々になっていく。


 そして……。

 目の前の<夢>の海はゆっくりと姿を消してゆく……。

 蜃気楼のように。

 始めからそこには何もなかったかのように。

 光の中に姿を消していく。


<夢>の海が消え去っていく。

 さらさらと。

 元からそこに存在していなかったかのように。

 さらさらと、光の中へと消え去っていく……。


 本当に……。

 本当に、大馬鹿だなぁ……。

 羽衣がせっかく、あなたの<夢>を地上に還したっていうのにね……。

 あなたは、もうそんな場所にいなくたっていいっていうのに。

 それでも……。

 あなたは、『それ』を願うんだね……。


 羽衣は、光の中へ消え去っていく<夢>の集まる海を見つめながらこう告げる。


 さようなら。

 そして……。

 今まで、ありがとう……。


 見上げた空は、星達は燦然と煌めき輝き。

 人々の諦められた<夢>は空へと昇り、輝きを取り戻した星たちは新しい<夢>となり降っていた。


 その光景を見つめながら。

 羽衣は、ゆっくりと目を閉じる。

 本当に、大馬鹿だなぁ……。

 もう一人の、かけがえのない、もう一人の私は……。

 そうして羽衣の意識も、その光の中へと飲み込まれていった。

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