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細波

 白い細波が砂浜をうちつける。

 薄暗闇の中。

 夜明け前の砂浜の上を。

 さらりさらりと、羽衣と翼希は裸足で砂浜を歩いている。

 足元にはまだ輝きが足りない<夢>の欠片達。

 まだ還る時を待っている<夢>の欠片達が散らばっている。



「こうして二人で歩いているとなんだか不思議な気持ちだね……」



 羽衣は翼希に、にははと笑いかける。



「うん……そうだね。私はあなたの願いのせいで天使にさせられて。そして自分達の願いのせいで永遠に続く回廊に囚われた」


「それは申し訳なかったと思ってる。記憶が無かったとは、いえね」


「羽衣のせいじゃないよ。全部、<紅き黄昏>カーマイン・サンセット……静空がやらせたことじゃない……」



 翼希は羽衣を咎めることなく、ゆっくりとした口調でそう告げる。

 そう、翼希を天使にしてしまったのは羽衣の願いが原因で。

 翼希を願いの回廊に閉じ込めてしまったのも<小さな星>(リトル・スター)だった羽衣だ。

 その事は謝罪してもしたりないくらいだ。


 翼希は幾度となく繰り返す願いの回廊で何度絶望しただろう。

 けれど、それでも。

 諦めることなく自分の物語を紡いで。

 そして記憶を取り戻して、羽衣の事を助け出してくれた。



「本当に、翼希には感謝してる……」


「それは言いっこなしだよ、羽衣……」



 細波が砂浜に夢の欠片を打ち上げるたびに。

 細波が<夢>の欠片を打ち付けるたびに。

 波に洗われた<夢>の欠片は淡く光り、空高くへと飛び立っていく。

 新しい<夢>となって還っていく。

 その<夢>の主の元へと還っていく。



「綺麗だね……」



 ぼんやりとその光景を立ち止まって見つめながら、翼希は呟く。

 羽衣も。



「そうだね……」



 ぼんやりとその光景を見つめながら呟く。



「……静空の<夢>はどうするの?」



 二人、きらきらと主の元へと還っていく<夢>を見つめながら。

 翼希は羽衣に問いかけてくる。



「……静空の<夢>は、ちょっと力を使わせてもらった後に、あるべき場所に還すよ……」


「……そう……なんだ……」



 少し陰りのある顔で、羽衣の顔を翼希は見つめていた。

 それもそうだろう。

 翼希は羽衣がこれから成すことを知らないのだから。

 羽衣はこれから、静空が……。

 <紅き黄昏>カーマイン・サンセットが成そうとしたことをしようとしている。

 その事は、翼希には絶対に伝えることはできない……。



「そろそろ、夜が明けるね、翼希……」


「うん……」



 朝焼けに染まった海原を二人で見つめながら。

 昇ってくる眩しい太陽の光に照らされながら。



「それじゃあ……、もう良いかな……」



 羽衣はその言葉を口にする。

 翼希との別れの言葉を……。



「……何が……?」



 翼希は羽衣の言葉の意味が分からず、不思議そうな顔で羽衣を見つめている。



「……翼希。『羽衣が天使だったら良いのに』という願いは、もう終わりにしよう……」



 羽衣はゆっくりと翼希に向かって歩を進め、翼希を抱きしめる。



「今まで、ありがとう。翼希。ほんの少しの間だったけど、羽衣は楽しかったよ……」


「羽衣……あなた、何を言って……」



 羽衣は翼希の言葉を遮って、手をかざすと、翼希の姿はかき消えて<夢>の欠片になっていく。



「羽衣っ!!」



 その言葉を残して私の手元には虹色に輝く翼希の<夢>が残る。

 その輝きは今まで見た<夢>の中でも格別に輝いていて。

 とても美しい色をしていた……。


 翼希の<夢>を海に還すと翼希の<夢>は一層輝きを増し。

 暫くして、翼希の<夢>は空高くへと舞い上がる。



「さようなら、大切な、かけがえのない、もう一人の私……。キミは幸せになってね……」



 輝く新しい<夢>となって地上へと還っていく、翼希を見つめながら羽衣は呟く。

 さて……と。



「それじゃあ、行こうか、静空……。『始まりの"魔法使い"』の元へ……」



 羽衣は昇ってきた太陽を背に、砂浜を後にする。

 全てをあるべき姿に戻すために。

 世界を、『新しい"魔法使い"の世界』にするために。


 ―――


 夢。

 夢を見ていた気がする。


 幼い頃の夢。

 "魔法"を使い続けた日々の事。

 人々の願いを叶え続けた日々の事。

 願いを叶える"魔法使い"と呼ばれた日々の事。

 ただ、言われるままに人々の願いを叶え続けた日々の事。

 自分の願いを叶えるために、少しずつ<夢>を集めて行った日々の事。

 その結果、自分の夢が叶わなかった日の事。

 人々の一番の<夢>を奪い去った日々の事。

 そして……。

 人々から全ての<夢>を奪い去ってしまった日の事。

 それでも私の願いは叶わなくて。

 その残された光景を見て絶望した日の事。


 その光景を見て、私は願った。

 奪い去った<夢>が人々の元に戻ることを。

 奪い去った全ての<夢>が人々の中に還っていくことを。

 それが、私がこの場所に封じられることになってしまった理由。


 私は罪人だ。

 人々から全ての<夢>を奪い去ってしまった罪人だ。

 だから、この<夢>の海で揺蕩う<夢>を集めることになってしまった。

 この<夢>の海で諦められた<夢>を管理することになってしまった。


 ぼんやりと寝起きの頭で、思考を巡らせる。

 何故、このような夢をみたのか。

 もう何年も。

 何十年も。

 何百年も。

 何千年、何万年と繰り返し続けてきたことだというのに。

 その長きにわたる時間の中で、記憶すら凍てつかせてきたというのに。

 何故今更になって、そんな幼い頃の夢を見たのか。


 その理由はすぐに察しがついた。

 私の部屋の扉の前には一人の少女が立っていたからだ。

 少女の名前は<小さな星>(リトル・スター)



「あなたの願いを、叶えてあげるよ、夢海」



 少女は、そう言ってクスリと微笑んだ。

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