<小さな星>
カラン、コロン。
小気味のいい音が部屋に響き渡る。
部屋は薄暗く、辺り一面に星を模したインテリアが煌めいている。
<小さな星>は新たに仕入れた二つの星の欠片を机の上のティーカップに入れ紅茶をすする。
なかなかコクのある良い味に仕上がったなと思う。
少年を助けたい少女の願い。
少女を取り戻したい少年の願い。
その二人の<夢>は、共にずっと二人傍で歩いていくという<夢>。
こんなに純粋な<夢>はなかなか無い代物だ。
この星の欠片は私の願いの為に大切に使わせてもらおう。
そして……今後もじっくりといただいていこう……永遠に。
「翼希、歩……あなた達の<夢>はとっても美味しいものだったよ……」
「……相変わらず悪趣味ね、<小さな星>」
いつのまにかドアの影には魔法使い然としたいで立ちの女性が一人立っていた。
「あなたは二人の人間を終わらない日々に閉じ込めて、罪悪感は無いのかしら?」
「……それがあの二人の望んだことなのだから、しょうがないと思うのだけど?」
少女は少年を助けたくて、<夢>を捨て願い。
少年は少女を取り戻したくて、<夢>を捨て願う。
すごく簡単な引き算だ。
「……まぁ良いわ。今更あなたのやり方に口を挟む気はないから」
「……それで、今日は何の用かな……<黒の雪>」
<黒の雪>と呼ばれた女性は音もなく歩き<小さな星>の机の前に立つ。
「それよりもあなた、私のシマで営業しないでもらえるかしら」
やれやれ面倒くさいなと思いながらも<小さな星>は言葉を紡ぐ。
「あの少年は<黒の雪>じゃなくて私を選んだ。ただそれだけの話だよ」
言いながら、一つの星の欠片を指さしそう告げる。
「それに。こんな極上の<夢>なんて、そうそう出会えるものではないの」
可愛らしい憂いを帯びた表情とは裏腹にクスクスと薄気味の悪い笑みを<小さな星>は漏らす。
<黒の雪>には理解ができなかった。
<黒の雪>達の一族はただ人間の願いを叶えるための存在だ。
それなのに自分の願いを叶えるために他人の<夢>を踏みにじる<小さな星>の考えが。
他人の<夢>を糧にしてまで<小さな星>がどんな願いを求めているのか。
それは<黒の雪>にも分からないし、他の同胞たちにも分からないだろう。
「さぁ、始めようか。<黒の雪>も見届けると良いよ。一人の少年の物語を」
クスクスと笑いつつ、<小さな星>は星の欠片をティーカップに注ぐ。
「それは……いつか王と呼ばれる存在になる少年の物語」
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