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不知火

 星が舞っていく。

 きらり。

 きらりと。

 星々が地上へと舞い降りていく。

 羽衣が"魔法"を使うたびに。

 その"魔法"が静空をえぐるたびに。

 諦められた<夢>の欠片が地上へと降っていく。

 この<夢>の世界から、下界へと飛び立っていく。


 私はこの結界の中で、ただひたすらに。

<星>の欠片が飛び立っていくのを見つめ続けていた。


 これが<小さな星>(リトル・スター)の。

 羽衣の狙い。

 自分の中の<夢>の欠片の力を使いながら。

 使い終わった<夢>の欠片は<夢>の海に還して、人々の心に還す。

 同時に奪われた羽衣の<夢>を、自分の<夢>に変換させながら。

 それは稀代の天才"魔法使い"と呼ばれた羽衣にしかできない芸当なのかもしれない。


 ―――


「はぁ……はぁ……だいぶしんどそうだけど、静空?」



 ボロボロになった紅いローブの隙間からは無数のかすり傷が見える。

 そういう羽衣もかなりボロボロなんだけどね。



「……羽衣の方こそ、残りの<夢>がすくないんじゃないの」



 静空の言うとおり、羽衣の残りの<夢>を使った"魔法"は使えて二、三回が限度だろうか。

 けれど、その代わり、羽衣には戦いながら静空からかすめ取ってきた羽衣の<夢>がある。

 静空はその事に気づいていない。

 だからこれは、奥の手だ。



「行くよ、静空っ!これで決めるっ!我に宿る<夢>の力よ、幾星霜を貫く(つるぎ)と成せ星霜剣(せいそうけん)っ」



 羽衣は背中の羽を力強く羽ばたかせて静空に肉薄する。

 よし、とったっ。


 しかし切り裂いたはずの静空の体は霞となって消え失せ。

 ザクリ。

 鈍い激痛が体中に走り羽衣は背後の闇から刀を突き立てられていた。



「……ゴホッ……」



 羽衣の口内から血があふれ出す。



「ふん……あっけない最後だったね。羽衣……」



 闇の中から静空が姿を現す。

 今だ……今、この瞬間、この瞬間を待ってたんだよ、羽衣は。



「……我に宿る<夢>の力よ、時の流れを操りし、在りし日過去へ戻したまえ!!」


「なっ……」



 羽衣の使った時空"魔法"で静空の周囲の時空が歪んでいく。

 ある時は紅いローブの少女の姿。

 ある時は紅い洋服の少女。

 ある時は、しおりの姿。

 そして、最後に現れたのは、<紅き黄昏>カーマイン・サンセットとなる前の。

 あの頃、村で平穏に暮らしていたはずの静空の姿。



「……あれ?……私は……何をしているの?」


「あはは……静空だ。あの頃の静空だ……良かった……」



 羽衣は、静空の時間を時空"魔法"で戻した。

 あの日より前の、平和だった頃の静空の時間まで。

 願いを叶える魔法の"契約"を行う前の、静空まで時間を戻させてもらった。

 静空の<罪>は羽衣が背負うから……。

 だから……。


 羽衣の服は元から血の色であったかのように鮮血色に染まり切っていた。

 はぁ……。

 せっかくこの服、ニクスに治してもらったのにな……。

 どうしようかと考えてるうちに羽衣の意識は闇の底へと誘われていく。

 遠くから羽衣の事を呼ぶ声が聞こえるけど、今は迫りくる闇に身をゆだねていたかった。


 深い闇に飲まれていた。

 深い深い闇に飲み込まれていた。

 羽衣はそこから逃れようともがくのだけれど。

 逃れる事も出来なくて。

 羽衣は……。

 羽衣は……。



「はぁ……はぁ……はぁ……」


「あ、目が覚めた。なんかうなされてたけど大丈夫?<小さな星>(リトル・スター)?」



 目を覚ますと、ベッドの上で包帯ぐるぐる巻きにされて私は横たわっていた。

 そんな私を見て安堵の表情で夢海は微笑む。



「……」


「どうしたの?<小さな星>(リトル・スター)?」


「私は<小さな星>(リトル・スター)じゃない……。翼希だよ……」



 そう、私は翼希だ。

 私は<小さな星>(リトル・スター)と呼ばれた少女じゃない。



「む……。じゃあ<小さな星>(リトル・スター)の意識はどうしたの?」


「……わからない」



 私にも何がどうなって、私の意識が表に出てきたのか分からない。

 心の奥に問いかけても、羽衣からは返事がない。



「まぁいいけど。とりあえず<小さな星>(リトル・スター)が目を覚ましたら言ってちょうだい。私はこの奏の<夢>を地上に還してくるから」


「うん……お願い、夢海」



 私はぽっかりと胸の奥が空いてしまったかのような喪失感を覚えながら、夢海のことを見送った。

 部屋の中をぼんやりと見渡すと隣のベッドには静空が寝かされていた。

 すやすやと何も知らなそうに安らかに眠っている。


 はぁ……。

 とりあえず、これで平和になったのかな……。

 私はベッドに身を横たえてのんびりと天井を見つめながら。

 迫りくる睡魔に身をゆだねていた。


 ―――


 それから三日程経過して。

 私の体も万全の調子に戻っていた。

 しかし羽衣の意識に何度話しかけても羽衣からは何の返事もなかった。

 代わりに何か心の奥が何かざわざわとする。

 そんな感じがした。



「とりあえず、翼希。あなたの中の<夢>は還してもらうよ」


「うん、おねがい、夢海」



<夢>の海の前で、私は自分の中にある人々の<夢>の欠片を還すことにした。

 まぁ還すと言っても静空との戦いで大半を還してしまったので、残り数個しかないのだけれど。



「む……むむむ……?これは一体、何だろう……?」



 夢海は私からいくつかの<夢>を取り出した後、首をかしげて一つの<夢>を見つめている。

 夢海が見つめていたのは、漆黒の色をした<夢>の欠片。

 まるでそれは……。



「深淵……」



 私達の様子を見つめていた静空がその言葉を口にする。



「それは羽衣の深淵……だと思う」



 深淵……それはかつて羽衣が自分だけの"魔法"として効したもの。



「ふむ……これが<小さな星>(リトル・スター)の深淵?の<夢>だとしたら、これは翼希のものだね」


「でもなんで、深淵?は<夢>の形をしてるんだろう」


「さぁね……そんなの羽衣に聞かないと分からないよ」



 静空は私の疑問にぶっきらぼうにそう答える。

 まぁ確かにその通りかもしれない。

 とりあえず、深淵の<夢>はそのまま私が管理することにして、私達はいつものように夢海の家に戻ることにした。

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