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"伝" ※挿絵有※

 ひらり。

 ひらりと。

 桜の花が降っていた。

 ひらりひらりと舞い降りていた。

 私は公園のブランコに座り、ぼんやりと考える。


 今まで私が我がままをしていたから、お兄さんは、私が宛先を書かないことを願ってしまった。

 私がいつか、宛先を書いてしまうのではないのかと恐れて。

 そして、お兄さんは全ての<夢>を失ってしまった。

 心の奥底がチクリとざわめく。

 何だろうこの気持ちは……。


 ……この世界は全ての<夢>を失ってしまった人で溢れていた。

 この世界は全ての希望を失ってしまった人で溢れていた。


 こんな世界……。

 こんな人々が<夢>を失った世界なんて、誰が望んだんだろう。

 私は、こんな世界に生きていたくない。

 私は、こんな<夢>も希望も無い世界で生きていたくなんてない。



「あなたの、願い、叶えるよ」



 その声と共に白い羽根が私の目の前に舞い降りる。

 見上げると、そこには。

 白い羽を生やした少女が浮いていた。



「あなたは、この世界に残った最後の<夢>の持ち主だから。羽衣が、そのお願いを叶えてあげる」



 白い羽の生えた少女はにっこりと笑いながらそう告げた。

 最後の<夢>の持ち主……。

 つまりは、この世界の他の人は皆、願いを叶えてしまったっていう事か……。

 それは全ての人が<夢>を失ってしまったっていう事。



「その代わりに、羽衣はあなたの大切な一番の<夢>を貰うね」



 その言葉に私は背筋が凍り着く。

 私の……私の<夢>……は。

 ふと、少女の言葉に違和感を覚えて、問い返す。



「あれ……?奪うのは、一番の<夢>、だけなの?全部の<夢>じゃなくて?」


「そう。羽衣は全部の<夢>は奪わない。羽衣は一番の<夢>だけを貰って、それを<夢>の海に還すの」



<夢>の海……?

 よく分からないけれど。

 一番の<夢>だけなら。

 全ての<夢>を失わないなら。



 私の願いは……。

 私の今の願いは、人々が<夢>を持ってて<夢>が溢れる世界。

 こんな人々が皆、希望を失っている世界になんて生きていたくない。

 私の一番の<夢>だけを代償にして。

 それで皆の<夢>がもどるなら安いものだと思った。

 そんな簡単な足し算ならプラスになる方を取るのがお得だ。


 その為なら。

 私の一番の<夢>は諦めても良いか……。

 私の一番の<夢>。

 それは……。



「うん。私の一番の<夢>、あなたにあげる。だから私の願いを叶えて」


「ありがとう。あなたのおかげで、この世界に<夢>が戻るよ」


「ううん。私は、この<夢>も希望も無い世界で生きていたくないだけだから」



 私はこんな世界、望んでない。

 こんな、<夢>も希望もない世界生きていたくないから。



「それじゃ、あなたの願い事、叶えてあげる」



 少女は私のすぐ目の前まで降りてくると、私に手をかざす。

 そして、私の体は淡い光に包み込まれて。

 私達の目の前に淡いピンク色をした星の形をしたものが現れる。



「これが、あなたの一番の<夢>の形」


「あなたの願いは叶ったよ」



 少女が空を見上げるのにつられて、私も空を見上げる。

 するとそこには。

 真昼だというのに輝くたくさんの流星が降っていて。



「<夢>は、ああして人々の心に還っていくの」


「そう……なんだ……」


「それじゃ、この<夢>は<夢>の海に還してくるね。ありがとう……」



 そう少女はいうと、私の<夢>を優しく包み込むように持つと空高く羽ばたいていく。



「ありがとう、天使さん……」



 私は高く高く飛び去って行く少女を見つめながら。

 降りしきる、<夢>の流星を。

 降りしきる、桜の花びらを。

 私はぼんやりと美しいその光景をただ見つめ続けていた。



 ひらり。

 ひらりと……。

 桜の花が舞っている。

 ひらり、ひらりと舞っている。

 私は一人、公園のブランコに腰かけて。


 封筒の中の便箋を緊張しながらとりだして。

 便箋を、ゆっくり、ゆっくりと読み進める。


挿絵(By みてみん)


 その便箋の内容を読み進めながら。

 そして、思わず吹き出してしまう。

 それは便箋の内容は初恋の人からの何気ない手紙。

 その内容は本当にくだらない世間話で。

 私は、その内容に笑みがこぼれてくる。


 そして、今まで宛先を書かなかった自分に後悔した。

 書けなかった自分が情けなかった。

 なんで、こんな何気ない手紙すら書けなかったんだろう。

 どうして、こんな世間話みたいな手紙に返事ができなかったんだろう。


 それは、その人に対して、特別な思いを抱いていたから?

 それとも、その気持ちを大切にしていたかったから?

 まぁ、そんなことは、もう今はどうでも良いかな。


 私は一番の<夢>を失ってしまったのだから。

 初恋の人と、また出会うという大切な<夢>を。


 だから、さようなら。

 私の大好きだった、初恋の人。



 文を書く。

 文字を綴る。

 想いを綴る。

 想いを伝えるために。

 この気持ちを届けるために。

 この淡い恋心を伝えるために。

 この宛名のある手紙に想いを込めて。

 届け。

 初恋だったあなたの元へ……。

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今後ともよろしくお願い致しますm(__)m

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