"<夢>"
<夢>。
<夢>はうつろい、変わりゆく。
それは一番の<夢>でもそうだ。
その時々で、人々の一番の<夢>は変わっていく。
変わったことで諦められた<夢>は、<夢>の海へと帰っていく。
天高く、たゆたう<夢>の海へと。
そして<夢>の海から、再び人々の元へと新しい<夢>となって還っていく。
<夢>はそうして連なってきた。
しかし。
その<夢>をかすめ取っていくいくものが現れた。
その者の名前は、<小さな星>。
<小さな星>は、その<夢>の海に帰るはずだった人々の<夢>をかすめ取っていった。
諦められた<夢>で溢れていた、<夢>の海は。
永遠に輝いていくはずだった<夢>の海は。
その輝きを失っていた……。
その少女はぼんやりと海を見つめていた。
この海から次第に失われていく、諦められた<夢>達を。
集めないと……。
その少女は海に潜り必死になって沈んでいる<夢>の欠片たちを探し出す。
探し出しては、<夢>の海に解き放っていく。
それでも。
その数は全然足りなくて。
下界の人々は次第に<夢>を失い始めていた。
下界の人々の顔は絶望に満ちていた。
けれど……。
それでも。
その中でも…一際輝く、虹色の<夢>の輝きが、この<夢>の世界から飛び去った。
その少女はその光景をただ見つめていた。
その<夢>が無事に叶いますように……と。
―――
扉が開く。
いつもの様に音もなく、<紅き黄昏>が入ってくる、
今日も私は、誰かの願いを叶えるのか……。
そう思いながら、小さなため息をつき、たずねる。
しかし<紅き黄昏>は意外な言葉を口にする。
「今日は願い主はいないよ」
「そう……」
そんな日もあるかと、私は思いながら集めた<夢>の欠片たちを見つめている。
赤い<夢>。
青い<夢>。
黄色い<夢>。
白い<夢>。
黒い<夢>。
様々な色をした<夢>の欠片たち。
私はそれをぼんやりと見つめていた。
「……今日叶えるのは、あなた自身の願い。そう……、機は熟したんだよ」
意外な言葉を<紅き黄昏>は紡ぐ。
私の……。
私自身の願い……?
私は……。
私の……私の願いは……。
私が何者なのか、知りたい……。
私は……。
私はいつからか、そう願うようになっていた。
私は……。
人々の願いに触れるたび。
人々の<夢>達に触れるたび、そう思うようになっていた。
だから、私は……。
記憶を失った、私の願いは……。
「私は、私が何者か知りたい。そう……。知りたいんだ……」
私の願いに応じて、私が集めてきた<夢>達が、光り、輝く。
赤い<夢>。
青い<夢>。
黄色い<夢>。
白い<夢>。
黒い<夢>。
様々な色をした<夢>の欠片たちが光り輝いていく。
そして……。
私の体はその光に包まれて。
私は、自分が何者なのかを、思い出した。
私が集めてきた様々な<夢>達を犠牲にして……。
私の大切な<夢>を犠牲にして……。
私の<夢>は……。
人々の願いを叶える"魔法使い"であり続ける事……。
その<夢>の欠片が、儚く、輝く。
<紅き黄昏>の目の前で、虹色に光り輝く。
私の<夢>をその手で掴み取りながら、<紅き黄昏>は大きな声で嗤う。
「やっと、やっと……。手に入れた……。これで、私の願いが叶うよ。今までありがとう、<小さな星>」
「そう。よかったね。<紅き黄昏>……。いや……静空……」
私は……失われた記憶を取り戻した。
私は……羽衣は、羽衣だ。
羽衣は自分の願いを叶えた。
叶えてしまった。
"魔法使い"は"魔法使い"の願いを叶えられない。
それは世界の理だった。
羽衣は、世界の理を無視した願いを、叶えてしまった。
人々の<夢>達を犠牲にして、自らの願いを叶えてしまった。
あの日、羽衣の村が業火で焼かれた日の様に。
羽衣は、再び自らの願いを叶えてしまったのだ。
今度は人々の<夢>達を犠牲にして。
「静空は、羽衣の<夢>を使って何をするつもりなの?」
「これからは新しい"魔法使い"の世界だって言ったはずだと思うけど?分からないなら、それでいいよ」
静空はクスクスと羽衣のことを嘲笑いながらこう告げる。
「それじゃ、<小さな星>……。今まで、ありがとう。そして……、さようなら」
静空が私に手をかざすと、羽衣の意識は深い。
深い闇の中へと飲まれていった。
次に気が付いた時……。
私は見ず知らずの場所で。
降りやまぬ雨に打たれていた。
"魔法使い"としての全ての力だった<夢>を、静空に奪われて……。
何の力も使うこともできない、一人の無力な少女として……。
ただただ……降りやまぬ雨に打たれていた。
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