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どんな願い事も叶えてあげる。~少女の紡ぐ人々の願い~  作者: 牛
第九章 願いを叶える"魔法使い"
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"<夢>"

 <夢>。

 <夢>はうつろい、変わりゆく。

 それは一番の<夢>でもそうだ。

 その時々で、人々の一番の<夢>は変わっていく。


 変わったことで諦められた<夢>は、<夢>の海へと帰っていく。

 天高く、たゆたう<夢>の海へと。

 そして<夢>の海から、再び人々の元へと新しい<夢>となって還っていく。

 <夢>はそうして連なってきた。


 しかし。

 その<夢>をかすめ取っていくいくものが現れた。

 その者の名前は、<小さな星>(リトル・スター)

 <小さな星>(リトル・スター)は、その<夢>の海に帰るはずだった人々の<夢>をかすめ取っていった。


 諦められた<夢>で溢れていた、<夢>の海は。

 永遠に輝いていくはずだった<夢>の海は。

 その輝きを失っていた……。


 その少女はぼんやりと海を見つめていた。

 この海から次第に失われていく、諦められた<夢>達を。

 集めないと……。


 その少女は海に潜り必死になって沈んでいる<夢>の欠片たちを探し出す。

 探し出しては、<夢>の海に解き放っていく。


 それでも。

 その数は全然足りなくて。

 下界の人々は次第に<夢>を失い始めていた。

 下界の人々の顔は絶望に満ちていた。


 けれど……。

 それでも。

 その中でも…一際輝く、虹色の<夢>の輝きが、この<夢>の世界から飛び去った。


 その少女はその光景をただ見つめていた。

 その<夢>が無事に叶いますように……と。


 ―――


 扉が開く。

 いつもの様に音もなく、<紅き黄昏>カーマイン・サンセットが入ってくる、

 今日も私は、誰かの願いを叶えるのか……。

 そう思いながら、小さなため息をつき、たずねる。

 しかし<紅き黄昏>カーマイン・サンセットは意外な言葉を口にする。



「今日は願い主はいないよ」


「そう……」



 そんな日もあるかと、私は思いながら集めた<夢>の欠片たちを見つめている。

 赤い<夢>。

 青い<夢>。

 黄色い<夢>。

 白い<夢>。

 黒い<夢>。

 様々な色をした<夢>の欠片たち。

 私はそれをぼんやりと見つめていた。



「……今日叶えるのは、あなた自身の願い。そう……、機は熟したんだよ」



 意外な言葉を<紅き黄昏>カーマイン・サンセットは紡ぐ。

 私の……。

 私自身の願い……?


 私は……。

 私の……私の願いは……。

 私が何者なのか、知りたい……。

 私は……。

 私はいつからか、そう願うようになっていた。


 私は……。

 人々の願いに触れるたび。

 人々の<夢>達に触れるたび、そう思うようになっていた。

 だから、私は……。

 記憶を失った、私の願いは……。



「私は、私が何者か知りたい。そう……。知りたいんだ……」



 私の願いに応じて、私が集めてきた<夢>達が、光り、輝く。

 赤い<夢>。

 青い<夢>。

 黄色い<夢>。

 白い<夢>。

 黒い<夢>。

 様々な色をした<夢>の欠片たちが光り輝いていく。


 そして……。

 私の体はその光に包まれて。

 私は、自分が何者なのかを、思い出した。

 私が集めてきた様々な<夢>達を犠牲にして……。

 私の大切な<夢>を犠牲にして……。


 私の<夢>は……。

 人々の願いを叶える"魔法使い"であり続ける事……。

 その<夢>の欠片が、儚く、輝く。

 <紅き黄昏>カーマイン・サンセットの目の前で、虹色に光り輝く。

 私の<夢>をその手で掴み取りながら、<紅き黄昏>カーマイン・サンセットは大きな声で嗤う。



「やっと、やっと……。手に入れた……。これで、私の願いが叶うよ。今までありがとう、<小さな星>(リトル・スター)


「そう。よかったね。<紅き黄昏>カーマイン・サンセット……。いや……静空……」



 私は……失われた記憶を取り戻した。

 私は……羽衣は、羽衣だ。

 羽衣は自分の願いを叶えた。

 叶えてしまった。


 "魔法使い"は"魔法使い"の願いを叶えられない。

 それは世界の(ことわり)だった。

 羽衣は、世界の(ことわり)を無視した願いを、叶えてしまった。

 人々の<夢>達を犠牲にして、自らの願いを叶えてしまった。


 あの日、羽衣の村が業火で焼かれた日の様に。

 羽衣は、再び自らの願いを叶えてしまったのだ。

 今度は人々の<夢>達を犠牲にして。



「静空は、羽衣の<夢>を使って何をするつもりなの?」


「これからは新しい"魔法使い"の世界だって言ったはずだと思うけど?分からないなら、それでいいよ」



 静空はクスクスと羽衣のことを嘲笑いながらこう告げる。



「それじゃ、<小さな星>(リトル・スター)……。今まで、ありがとう。そして……、さようなら」



 静空が私に手をかざすと、羽衣の意識は深い。

 深い闇の中へと飲まれていった。


 次に気が付いた時……。

 私は見ず知らずの場所で。

 降りやまぬ雨に打たれていた。

 "魔法使い"としての全ての力だった<夢>を、静空に奪われて……。

 何の力も使うこともできない、一人の無力な少女として……。

 ただただ……降りやまぬ雨に打たれていた。


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今後ともよろしくお願い致しますm(__)m

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