"願い"
私は、願いを叶え続けて生きてきた。
人々の一番の<夢>を代償にして生きてきた。
人々の一番の<夢>は、私の願いを叶えるのに必要だったから。
だから、<夢>を奪い続けて生きてきた。
それが、私に課せられた使命だと思ったから。
記憶を失っていた私に課せられた使命だと信じていたから。
けれど。
私の本当の願いってなんだろう?
私の記憶をとりもどすこと?
それとも別の何か?
そのことが、靄がかかったように思い出せない。
とても、何か大切なことを忘れているような気がした。
大切な、大切な、何かを。
私は、今日も願いを叶える。
紅い洋服の少女、<紅き黄昏>が連れてきた女の子の願いを無理やり叶える。
女の子の全ての<夢>を奪い去って。
そう。
私はその人の全ての<夢>を奪い去るようになっていた。
昨日も願いを叶えた。
その前の日も願いを叶えた。
その前の日も願いを叶えた。
その前の日も、その前の日も……。
だから、きっと。
明日も誰かの願いを叶える……。
明後日も、明々後日も……。
私は願いを、叶え続ける。
その人の全ての<夢>を奪いながら……。
私はある時、<紅き黄昏>に私の願いについて尋ねてみた。
<紅き黄昏>は嘲笑うかのようにこう答えた。
あなたの願いはもう叶っているのだと。
あなたはあなた自身の力で願いを叶えたのだと。
私の願いは叶っている?
私は疑問に思った。
私は、自分の願いを叶えた記憶はないのに。
そもそも私が人々の一番の<夢>を代償に、願いを叶え始めたきっかけは。
私の願いが叶わなかったからだ。
私は、自分の願いが叶わない事に絶望したはずだ。
私は<紅き黄昏>に言われるまま人々の全ての<夢>を奪ってきた。
それは私の願いを叶えるのに必要なことだと、教わった。
奪うのは一番の<夢>だけでは足りない。
全ての<夢>が必要なのだと。
それなのに、私の願いはもう叶っていると、<紅き黄昏>は言う。
私に記憶が無いのは、私の願いの代償なのだろうか。
分からない。
分からないけれど。
胸の奥がチクリとざわめく感覚がした。
私は、<紅き黄昏>に良いように利用されている。
<紅き黄昏>の願いを叶える為に。
しかし"魔法使い"は"魔法使い"の願いは叶えられない。
それは理であり真理のはずだ。
そのはずだ。
だから、私にも叶えられるはずがないのに。
何故、<紅き黄昏>は私に人々の全ての<夢>を奪わせるのか。
その理由は、私には分からない。
―――
もう少しだ。
<紅き黄昏>はほくそ笑む。
もう少しで<紅き黄昏>の願いが叶う。
あと一つ。
あともう一つ、大きな<夢>を手に入れることができたならば。
<紅き黄昏>の念願は成就する。
<小さな星>は自分の願いが叶わなくて絶望したと思っている。
けれど、それは仮初の記憶だ。
<紅き黄昏>が植え付けた仮初の記憶だ。
願いが叶わずに絶望を味わったのは、この<紅き黄昏>だ。
長い道のりだった。
本当に長い長い道のりだった。
深淵に飲まれて姿を消した<小さな星>は、自らの記憶を失っていた。
だから<紅き黄昏>は利用した。
記憶を失っていた<小さな星>に願い事を叶えさせる代わりに、人々の一番の<夢>を奪うことを覚えさせた。
そして、それから<小さな星>はたくさんの。
本当に数えきれないくらいの人々の願いを叶え続け。
数えきれないくらいの一番の<夢>を奪い続けた。
そして今度は人々の全ての<夢>を奪い続けている。
<紅き黄昏>はその光景が楽しくてしょうがなかった。
本来、真っ当な願いを叶える"魔法使い"は、見返りなんて求めない。
その人物の一番の<夢>なんて、求めやしない。
願いを叶える"魔法使い"は、純粋な願いだけを叶える存在。
その対価は人々が諦めた<夢>だった。
諦めた<夢>は、<夢>の海に還される。
それが願いを叶える"魔法使い"という存在のはずだった。
その理を<小さな星>は知らず知らずのうちに崩壊させてしまった。
真っ当だった願いを叶える"魔法使い"達は、英雄王アッシュ=グレイプニルの手によって処刑され。
この世に残った願いを叶える"魔法使い"は。<紅き黄昏>と<小さな星>だけになってしまった。
けれど、そんなこと<紅き黄昏>にはどうでもよかった。
<紅き黄昏>の願いが叶うのならば、同族がどうなろうが関係ない。
<紅き黄昏>は求めていた。
最後の一つに相応しい<夢>を。
そして、その<夢>を手に入れた時こそ。
<紅き黄昏>の。
新しい"魔法使い"の世の中が始まるのだ。
けれど、その前に……やることが一つ。
<紅き黄昏>はその胸の高鳴りを、抑えることができなかった。
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