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どんな願い事も叶えてあげる。~少女の紡ぐ人々の願い~  作者: 牛
第九章 願いを叶える"魔法使い"
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"願い"

 私は、願いを叶え続けて生きてきた。

 人々の一番の<夢>を代償にして生きてきた。


 人々の一番の<夢>は、私の願いを叶えるのに必要だったから。

 だから、<夢>を奪い続けて生きてきた。


 それが、私に課せられた使命だと思ったから。

 記憶を失っていた私に課せられた使命だと信じていたから。


 けれど。

 私の本当の願いってなんだろう?

 私の記憶をとりもどすこと?

 それとも別の何か?


 そのことが、靄がかかったように思い出せない。

 とても、何か大切なことを忘れているような気がした。

 大切な、大切な、何かを。


 私は、今日も願いを叶える。

 紅い洋服の少女、<紅き黄昏>カーマイン・サンセットが連れてきた女の子の願いを無理やり叶える。

 女の子の全ての<夢>を奪い去って。


 そう。

 私はその人の全ての<夢>を奪い去るようになっていた。


 昨日も願いを叶えた。

 その前の日も願いを叶えた。

 その前の日も願いを叶えた。

 その前の日も、その前の日も……。


 だから、きっと。

 明日も誰かの願いを叶える……。

 明後日も、明々後日も……。

 私は願いを、叶え続ける。

 その人の全ての<夢>を奪いながら……。


 私はある時、<紅き黄昏>カーマイン・サンセットに私の願いについて尋ねてみた。

 <紅き黄昏>カーマイン・サンセットは嘲笑うかのようにこう答えた。

 あなたの願いはもう叶っているのだと。

 あなたはあなた自身の力で願いを叶えたのだと。


 私の願いは叶っている?

 私は疑問に思った。

 私は、自分の願いを叶えた記憶はないのに。

 そもそも私が人々の一番の<夢>を代償に、願いを叶え始めたきっかけは。

 私の願いが叶わなかったからだ。

 私は、自分の願いが叶わない事に絶望したはずだ。


 私は<紅き黄昏>カーマイン・サンセットに言われるまま人々の全ての<夢>を奪ってきた。

 それは私の願いを叶えるのに必要なことだと、教わった。

 奪うのは一番の<夢>だけでは足りない。

 全ての<夢>が必要なのだと。

 それなのに、私の願いはもう叶っていると、<紅き黄昏>カーマイン・サンセットは言う。


 私に記憶が無いのは、私の願いの代償なのだろうか。

 分からない。

 分からないけれど。


 胸の奥がチクリとざわめく感覚がした。

 私は、<紅き黄昏>カーマイン・サンセットに良いように利用されている。

 <紅き黄昏>カーマイン・サンセットの願いを叶える為に。


 しかし"魔法使い"は"魔法使い"の願いは叶えられない。

 それは(ことわり)であり真理のはずだ。

 そのはずだ。


 だから、私にも叶えられるはずがないのに。

 何故、<紅き黄昏>カーマイン・サンセットは私に人々の全ての<夢>を奪わせるのか。

 その理由は、私には分からない。


 ―――


 もう少しだ。

 <紅き黄昏>カーマイン・サンセットはほくそ笑む。

 もう少しで<紅き黄昏>カーマイン・サンセットの願いが叶う。

 あと一つ。

 あともう一つ、大きな<夢>を手に入れることができたならば。

 <紅き黄昏>カーマイン・サンセットの念願は成就する。


 <小さな星>(リトル・スター)は自分の願いが叶わなくて絶望したと思っている。

 けれど、それは仮初の記憶だ。

 <紅き黄昏>カーマイン・サンセットが植え付けた仮初の記憶だ。

 願いが叶わずに絶望を味わったのは、この<紅き黄昏>カーマイン・サンセットだ。


 長い道のりだった。

 本当に長い長い道のりだった。

 深淵に飲まれて姿を消した<小さな星>(リトル・スター)は、自らの記憶を失っていた。


 だから<紅き黄昏>カーマイン・サンセットは利用した。

 記憶を失っていた<小さな星>(リトル・スター)に願い事を叶えさせる代わりに、人々の一番の<夢>を奪うことを覚えさせた。

 そして、それから<小さな星>(リトル・スター)はたくさんの。

 本当に数えきれないくらいの人々の願いを叶え続け。

 数えきれないくらいの一番の<夢>を奪い続けた。

 そして今度は人々の全ての<夢>を奪い続けている。


 <紅き黄昏>カーマイン・サンセットはその光景が楽しくてしょうがなかった。

 本来、真っ当な願いを叶える"魔法使い"は、見返りなんて求めない。

 その人物の一番の<夢>なんて、求めやしない。

 願いを叶える"魔法使い"は、純粋な願いだけを叶える存在。

 その対価は人々が諦めた<夢>だった。

 諦めた<夢>は、<夢>の海に還される。

 それが願いを叶える"魔法使い"という存在のはずだった。


 その(ことわり)<小さな星>(リトル・スター)は知らず知らずのうちに崩壊させてしまった。

 真っ当だった願いを叶える"魔法使い"達は、英雄王アッシュ=グレイプニルの手によって処刑され。

 この世に残った願いを叶える"魔法使い"は。<紅き黄昏>カーマイン・サンセット<小さな星>(リトル・スター)だけになってしまった。


 けれど、そんなこと<紅き黄昏>カーマイン・サンセットにはどうでもよかった。

 <紅き黄昏>カーマイン・サンセットの願いが叶うのならば、同族がどうなろうが関係ない。


 <紅き黄昏>カーマイン・サンセットは求めていた。

 最後の一つに相応しい<夢>を。

 そして、その<夢>を手に入れた時こそ。

 <紅き黄昏>カーマイン・サンセットの。

 新しい"魔法使い"の世の中が始まるのだ。


 けれど、その前に……やることが一つ。

 <紅き黄昏>カーマイン・サンセットはその胸の高鳴りを、抑えることができなかった。

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今後ともよろしくお願い致しますm(__)m

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