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この遥か遠い、青い空の下で

 朝靄の中。

 私は翼希に連れられて、この場所へとやって来ていた。

 今は枯れ果ててしまった朝顔畑へと。

 この場所は相変わらず死の静寂に包まれていて。

 何故か、さっきの<紅き黄昏>カーマイン・サンセットと名乗る紅い洋服の少女の事を彷彿とさせた。

 再び私の心がざわつく感覚。


 怖い……。

 紅い洋服の少女の事が怖かった。

 どうしようもなく怖かった。

 私の体が恐怖に打ち震える。

 そんな私の事を慰めるように、翼希は優しく微笑んで。



「……刹花。祝福……届けてあげるよ」



 翼希はそう呟くと枯葉てた朝顔の一本に手をかざす。

 そうすると、一本の朝顔はみるみるうちに活力を取り戻していき。

 綺麗な。

 本当に綺麗な一輪の花が。

 花開く。


 私はその光景にただただ、目を奪われていた。



「私の力じゃ、こんなもんだけどね……」


「……ううん。嬉しい。ありがとう、翼希……」



 私はそう言うと、ガラス細工を扱うように、朝顔の一輪の花に手を触れる。

 そこには。

 たしかに。

 生の活力を。

 翼希の優しい温もりを感じた。


 そして。

 ひらりひらりと。

 蝶々が舞ってくる。

 もう二度と。

 この光景は見られないと思っていたのに。

 あの日、見た、光景が目の前に。


 私達の目の前には確かに、広がっていた。



「それじゃ、私、行くね」



 翼希は寂しそうな声でそう告げる。



「……うん。また会えたらいいね……」



 私は翼希の体を抱きしめてそう答える。

 暖かい翼希の体。

 暖かい翼希の心。

 でも……翼希は、翼希は。

 普通の女の子なのだ。

 本来は。


 だから……もう二度と会うことはないかもしれない。

 いや、会えない方が良いんだろうな。

 それが翼希のためだから。

 そう思いながら。

 翼希を抱きしめていると。



「こらーーーーーーっ。そこーーーーーっ!!!また、コスプレなんかしてっ!!!!」



 とってもKYな元マスクのおっちゃんの怒鳴り声が聞こえてきた。

 はあああああああぁ……。

 本当にもうっっ!!!

 なんなんっ!!!

 綺麗にお別れぐらいやらせて欲しいんやけどっ!!!

 マジでっっっ!!!!!



「翼希っ!!行ってっ!!救いたい人が居るんでしょっ!!」


「う、うん……。ありがとう、刹花っ。またねっ!!」



 翼希はそう言うと、真っ白な羽を羽ばたかせながら大空へと舞い上がっていった。


 またね……か。

 もう二度と来なくていいよ、馬鹿。

 だから。

 絶対に、幸せになりなよ、翼希……。


 私の背後で翼希が大空に飛び立ったのを見て元マスクのおっちゃんは口を開けてポカーンとしていた。



「あ……あれは一体……?」


「ただの通りすがりの、フツーの女の子だよ……」



 元マスクのおっちゃんの問いかけに。

 私はにこやかに笑いながらそう答えた。


 ―――


「急がなきゃ……」



 私は青い空の中、白い羽を羽ばたかせる。

 <小さな星>(リトル・スター)がいるという『冬の世界』へ向かって。

 この『一輪の花』が咲く青い空から、私は飛び立つ。

 冬の世界の……『暖かな場所』へと。

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