青い空の下で。
とりあえず、<小さな星>の館に行くのは、明日の早朝に行ってみることになった。
そして翼希は今、私の部屋のベッドの上で器用に羽に包まってすやすやと寝息をたてていた。
朝ご飯食べてからずっとこんな感じだ。
もう日も陰って、空も真っ赤な夕焼け空だ。
よく眠るなぁ……ほんまに。
それだけ気を張り詰めていたって事なんだろうか。
この子はこんな小さな体で、どれだけの想いを抱えているのだろうか。
分からない……。
けれど……。
出来る事なら、この小さな少女の力になってあげたいなと思った。
そして私はうとうとと、椅子に座りながら、襲い来る睡魔に身をゆだねた。
……。
空……。
青い空の夢だった。
私は一人、空の上に居た。
そして、空の上からぼんやり下界を見つめていた。
ある日、私は空で、色々な世界の物語を読み始めた。
それは<小さな星>にまつわる物語。
私は<小さな星>にまつわる物語たちを読みふける。
冬に閉ざされた街の少女達の物語。
常夏の村でのひまわり畑の少女の物語。
そして……疫病の流行った町での私達の物語。
……。
そうだ……。
これは、翼希の夢だ。
翼希は空の上でずっと<小さな星>を見つめていた。
ただひたすらに……。
何故、そんなに<小さな星>の事を見つめ続けていたのだろう。
ふと、そんな疑問が起こる。
けれど、その答えは出ることはなくて。
しかし、その問いかけに応えるように。
やがて彼女の夢は場面が切り替わる。
そこは翼希と一人の少年の物語。
幸せだった二人が一つの事故をきっかけにして、<小さな星>の手によって無限の回廊に囚われてしまう。
そんな悲しい夢だった。
……。
ふと気づくと、窓の外の空は真っ黒な暗闇に包まれていて。
ベッドの上でぼんやりと闇に包まれた空を見つめる翼希の姿があった。
その姿を見つめていると。
「刹花、泣いてるの?」
私が起きたことに気付いた翼希にそう問われる。
そう言われて私は初めて、涙を流していたことに気が付いた。
慌てて着物の裾で涙を拭う。
「ううん、大丈夫……。ちょっと……夢を。ただ夢を見てただけだから……」
「夢……?どんな?」
「どんなって……」
……言えるわけがない……。
翼希の夢を見ていたなんて。
翼希自身の事を、夢に見ていたなんて、言えるはずがなかった。
翼希が本当は『天使』なんかじゃなくて、ただの人間だっただなんて。
言えるはずもなかった。
「なんでもないから。さ、夕飯食べて、一緒にお喋りでもしよ」
「う、うん……」
私は翼希の手を取りベッドから立たせて、居間へと急ぐ。
おいしい夕飯を食べたら、また部屋に戻って、何気ない話をしよう。
部屋で楽しく女子会をしよう。
翼希はただの普通の女の子だったのだから。
それが良い。
きっと、そうすることが一番いい。
私はそう思った。
―――
本当に大失敗だったなと、私は思う。
まさか、下界に降りるのを誰かに見つかってしまうなんて。
しかも、それがよりにもよって刹花だったなんて。
思わず刹花の名前を呼んでしまった、私は相当おまぬけさんだ。
そして元マスクのおっちゃんに追い立てられて、成り行きで刹花の家にご厄介になることになり。
久しぶりのおいしいご飯にありつけた。
とっても美味しかった。
天使は特に何も食べなくても、大丈夫な体だったけど。
那直の作ってくれたご飯は美味しくて。
急に母の作ったご飯が懐かしくなって。
ちょっと、涙がでそうになってしまった。
だから、刹花が急に友達にならないっていう言葉に虚を突かれた。
その刹花の言葉は私にとって。
とても嬉しい言葉だった。
でも私は天使だから。
天使なのだから。
なので、曖昧に応えてしまった。
意志が弱いな、私……。
そして刹花の部屋に通された後、私は久しぶりにふかふかのベッドで安眠をとることができた。
こんなに安らぐ気持ちで眠ったのはいつ以来だろうか……。
空の上では、ただ、ぼんやりと眠っていただけだったから……。
こんなにも暖かなものだったんだなと思って、やっぱり涙ぐんでしまった。
ほんと、ダメダメだなぁ……私。
目を覚まして見を起こしてぼんやりと薄暗闇に染まった空を見上げていると。
椅子の上でうとうとしていた、刹花が涙を流していた。
なんで刹花が泣いているのか。
その理由はすぐに分かった。
どういう理屈か分からないけれど。
刹花は私の夢を見ているのだと。
そして私の夢を見て涙を流しているのだと。
私が刹花を泣かせているんだ……。
あー……本当に何してるんだか、私は……。
刹花にこんな思いをさせるために、この世界に来たわけじゃないのに。
本当に、何をしてるんだろうね、この馬鹿天使は。
とりあえず、明日になったら早く<小さな星>に会いに行こう。
そして、<小さな星>にどうしてこんな事をしているのか問いかけよう。
その理由を、私は知らなければならない。
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