晴模様
「久しぶり、だね。ニクス」
紅いローブを纏った少女はクスクス笑いながらそう私に話しかけてくる。
紅いローブの少女。
幼い頃であった時とどこも変わらない。
まるで時が止まっているかのような姿を見て。
私はこの冬に閉ざされた世界で、凍り付くような寒気を覚えた。
紅いローブの少女は。
私と<小さな星>を巡り合わせた少女だ。
つまり、この冬の世界を作り出すことになった、元凶そのもの。
「嫌だなぁ。私は、あなたの願いを叶えてあげる手伝いをしただけだよ?ニクス」
さも私の心を読んだかのように、クスクスと笑いながら紅いローブの少女は話しかけてくる。
「この永遠に続く雪はニクス。それはキミの願いの代償」
やめて……。
それを言わないで……。
ソリスには聞かれたくない……。
だから。
「……やめて……っ!」
凍った体から。
この白い世界の雪に吸収されてしまいそうになりそうな声を。
その音色を喉から奏でる。
「……やめてっていってる……っ!!」
それでもその音色は白い雪の結晶達が。
この白銀の世界が、私は罪人なのだと伝えるように。
冷酷な宣告と共に紅いローブの少女は嘲笑う。
「ニクスの雪を求める願い。それを代償にして世界は、朝日を失った。永遠に」
「……そんな……」
その言葉を聞いたソリスは。
真っ青な顔をして私を見つめている。
「ねぇ、ニクス。そうでしょう?」
クスクスと紅いローブを纏った少女は私にそう問いかける。
私は何も言えなかった。
何も答えることができなかった。
それは、事実なのだから。
これが、私の<罪>なのだから。
私はただ、嘲笑う少女と真っ青な顔をしたソリスの顔を見つめる事しかできなかった。
そうすることしかできなかった。
―――
ニクスはまるで凍り付いたように黙りこくっている。
つまりはこの紅いローブの少女の言葉が正しいという事の証明……。
何故、ニクスがそんな事を願ったのか分からない。
何故、ニクスが雪を求めたのかも分からない。
けれど……だけれども……。
私にとってニクスは。
いつも『傍にいたい人』だ。
例え、世界に永遠の雪をもたらした存在なのだとしても。
ニクスは私にとって、大事な、大事な。
『特別な存在』だ。
だから。
だから、私はっ。
私は凍り付いた体を無理やり動かして。
凍ったように佇むニクスの元に駆け寄ると。
ニクスを優しく抱きしめる。
私の僅かな温もりを伝えるように。
ニクスの凍った体を温めるように。
「大丈夫だよ、ニクス」
私は精一杯の声で、その音色を。
この白い雪の世界に、負けないように奏でる。
「そんな顔しないで、ニクス……。ニクスは悪くない」
私の温もりが、ニクスにも届きますようにと。
力いっぱいニクスの事を抱きしめる。
そう、ニクスは悪くない。
だってそうじゃない。
冬の世界が訪れる前。
この戦争だらけだったこの世界が。
ニクスのもたらした雪によって。
ニクスのもたらした冬の世界によって。
戦争がない世界になったのだ。
戦争はない方が良い。
私も、ニクスだって戦争孤児だ。
だから胸を張ってそう言える。
「ニクス……。ニクスはね……。世界にとって、とっても良いことをしたんだよ」
私はニクスにそう優しく告げる。
胸の想いが通じるように。
優しく……。
優しく……。
想いを告げる。
「私は……世界を冬に閉ざした罪人……なんだよ……」
そう答えるニクスの口を私は私の口でそっと塞ぐ。
ニクスは私の行為に目を丸くして、ただ茫然と受け入れる。
そして、私は口を放し。
「私はニクスの事が好き。だから、世界がニクスを罪人だって言うなら私も罪人だよ」
私はキッパリとそう断言する。
その私の言葉を聞いて。
ニクスは冷たく凍っていた表情が歪んでいき。
私の胸に顔を埋めて泣きじゃくった。
「……私、……私……怖かった……。……ソリスに……私がこの世界を冬に閉じ込めた罪人だって知られることが……」
「うん……大丈夫……。大丈夫だから……」
私は優しくニクスの頭を撫でながら。
泣きじゃくる幼子をあやす様に。
頭を撫で続けた。
ふと周囲を見回すと、クスクスとニクスの事を嘲笑っていた紅いローブの少女はいつの間にか、姿を消していた。
―――
私は罪人だ……。
この世界を冬の世界に閉じ込めた罪人だ……。
けれど……。
ソリスがいるなら……。
ソリスがいてくれるなら……。
その<罪>を背負って生きていく……。
例え世界の全てに憎まれようとも……。
それでも私は生きていく。
私達は生きていく。
手に手をとりあいながら。
二人一緒に生きていく。
私達は二人一緒に冷え切った体を、暖炉でくっついて温め合っていたら……。
ニャアと一鳴きキララの声がした。
そうだ……。
違った……。
二人と一匹で、一緒に生きていく……だね。
この囁くように、降り積もる雪の結晶達と共に……。
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