空の上
「……ほんと、二人とも馬鹿だなぁ……」
ぼんやりと刹花という女の子の生きざまを見つめながら、私はそう呟く。
なんか所々、ツッコミどころ満載な生き様でもあったと思うけれど。
……自分の命と引き換えに、疫病から世界を救ってめでたしめでたし……か。
当人からしたら、めでたく綺麗に散れたと思ったのかもしれないけれども。
残された方の身になったら、めでたくもなんともないんだよね。
私もそうだった。
歩に庇われて。
私だけが生き残って。
歩は、私を庇ってめでたく散れたと思っていたのかもしれない。
でもそれは違うんだ。
全然めでたくもなんでもない。
綺麗に散れたとか、綺麗ごとだ。
だから私は歩を生き返らせる事を願った。
だからこうして、今も空の上にいる。
でも……。
刹花に世界を救われた方の那直にとってはそうではないんだ。
那直にとって世界なんてどうでもよくて。
自分達の事なんてどうでもよくて。
だから那直は願ったんだ。
めでたく散るなんてできると思うなよって。
そう……だから、私も何度も願って歩を生き返らせるのかもしれない。
「ほんと……馬鹿だよね……人の気も知らないでさ……」
私はボソリと独り言ちる。
こんな独り言、誰も聞いちゃいないんだけどね。
でもそうしたくなる事だってあるのだ。
この何もない広い空の上では。
あーーー。
今日も、空は青くて、どこまでも澄み渡っていて綺麗だなぁ。
一度、青空を見上げて、そう思うことにした。
私は病院のベッドで笑いあう刹花と那直を見つめながら、こう呟く。
「……二人のこれからに幸あれ……」
―――
「那直兄」
私は病院のベッドの横にいる那直兄に声をかける。
「ん……なんだ?刹花」
うつらうつらとしていた那直兄はぼんやりとした口調で答える。
「那直兄が捨てた一番の<夢>って何だったの?」
「んー……そいつは言えないな」
那直兄は苦笑いしながらそう告げる。
シスコンの那直兄のことだ、どうせずっと私と一緒に生きていたいとか<夢>見ていたはずだ。
那直兄の願いが、私を生かすことだとしたら。
那直兄の<夢>が叶わなくなる条件って何なんだろう。
私とずっと一緒に生きていけないっていう事は。
つまりは、私がいつの日かお嫁さんに行くっていうことか。
……いつまでも那直兄の傍にいられるわけないじゃん。
「ほんと、馬鹿だねぇ……。那直兄は……」
「む……。兄に向かって馬鹿とはなんだ、馬鹿とは」
そうして二人きりの時間が過ぎていく。
もう叶わない<夢>達を残して。
二度と叶う事のない<夢>達を残して。
ゆっくりと、ゆっくりと過ぎ去っていく。
あの日、見た、光景を記憶として残しながら。
さようなら。
もう叶わない私達の<夢>達。
―――
ふと、おかしいなと、空の上から幸せそうな二人を眺めながら私は思った。
いつもの<小さな星>なら那直の命を奪ってもおかしくない<夢>だったように思う。
手心を加えたというのだろうか?
あの<小さな星>が?
私と歩を永遠の回廊に閉じ込めているのにも拘らず。
アッシュという少年達から自由を奪ったにも拘らず。
ふむ……。
私はあまりにも<小さな星>のことを知らなすぎるのかもしれない。
私は一つ青空に向かって伸びをすると、新しい物語のページをめくることにする。
私は再び<小さな星>にまつわる物語を読み進める。
これは、冬に閉ざされた世界の物語……『囁くように』。
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そして次回の更新は夕方です。閑話です。時事ネタです。という予告(笑




