表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どんな願い事も叶えてあげる。~少女の紡ぐ人々の願い~  作者: 牛
第四章 あの日、見た。
19/54

朝に願う。 ※挿絵有※

 何故こんなことになってしまったのか。

 願いを叶える館に入ると、既に先客がいた。

 それは那直兄だった。



「刹花。お前に、願わせはしない」



 那直兄は私に向かってそう告げる。



「そんな訳の分からないこと、那直兄に任せる事なんてできやしないよ!!」



 私は那直兄の言葉に抗するように言葉を紡ぐ。

 そうこんな自分の一番の<夢>を犠牲に、願いを叶えるなんて訳の分からん事、人に任せられるわけがない。



「……まぁ私はどっちの願いを叶えても良いんだけど……」



 そう告げる<小さな星>(リトル・スター)と名乗った少女はボソリと呟く。



「いいや、俺の願いだけ、叶えてくれ、<小さな星>(リトル・スター)!」


「駄目だよ、私の願いだけを叶えて、<小さな星>(リトル・スター)!」


「面倒くさいからどっちの願いも叶えちゃうよ……」



 私と那直兄と<小さな星>(リトル・スター)が言いあっていると、突然再び扉を開ける音が響き渡る。



「密閉!!!密集!!!密接っ!!!さ・ん・み・つ!!!よくもまぁ、こんなに揃えてくれたもんだなぁ、お前らぁぁ!!!」



 何故か、いつものマスクのおっちゃんが突然闖入してきた。



「はいはいはいはいはい………」



 私はマスクのおっちゃんに向けて半目で冷たい視線を送る。

 人がマジになってる時に、空気を乱さないで欲しいんだけどなー。

 このおっちゃんマジでKYじゃないだろうか。



「ていうか、密集はマスクのおっちゃんが来たことで更に発生したわけだが?」



 那直兄は的確なツッコミをマスクのおっちゃんに入れる。



「シャラーーーーーープっ!!!」



 いちいち五月蠅いおっちゃんだなぁ……。

 ていうか、ここって秘密の場所じゃなかったの?

 あの紅い洋服の少女はよっぽどお喋りが好きらしいね……。



「ソーーーーーシャルディスターーーーーーーーンスっっ!!!」



 おっちゃんは私と那直兄の間に無理やり割って入ってくる。



「やかましいわっ!!!」



 流石にその行動に業を煮やし。

 私はその辺に転がってあった本を、おっちゃんに投げつけてやった。



「あうちっ……」


「もういいから、<小さな星>(リトル・スター)。さっさと私の願いを叶えてよ」


「いや、俺の願いを叶えろよ、<小さな星>(リトル・スター)


「……めんどくさい。どっちの願いも叶えてあげる。それで満足?」


「駄目っ。那直兄は生きなきゃいけないんだからっ」



 どうせこのシスコン那直兄の一番の<夢>なんて決まっている。

 那直兄の一番の<夢>はきっと私と一緒に生きる事。

 もし那直兄の願いが叶ってしまったら、那直兄は命を落とすかもしれない。

 それは駄目だ。

 絶対にそれだけは駄目だ。

 だから、那直兄の願いは叶えさせるわけにはいかない。



「マスクのおっちゃん、那直兄を連れてって」



 私は本の角を頭にぶつけて目を回してるおっちゃんに向かって、そう叫ぶ。



「お、おう。それで三密は防げてソーシャルディスタンスも確保できるんだな。わかった」


「放せっ!放せよっ!おい、刹花っ!!!」



 私の言葉を聞いたマスクのおっちゃんは、那直兄を連れて部屋の外へと出て行った。

 さてこれで三密も防げて、ソーシャルディスタンスも保てたわけだけど。

 まぁ、あっちのソーシャルディスタンスは保ててないけどね。

 てへぺろ。



「それじゃ、<小さな星>(リトル・スター)、私の願い、叶えてくれる?」


「……分かった」



 そう<小さな星>(リトル・スター)が呟くと私は眩い光に包まれて。

 気が付くと、いつのまにか、朝顔畑の中にいた。


 蝶々が飛んでいる。

 朝靄の中をひらりひらりと。

 私の頭上を飛んでいく。

 この青い朝顔の咲き誇るお花畑で。

 辺り一面朝顔畑のこの場所で。

 私はその光景を眺めながら。

 あの日、見た、光景を見つめながら……。



挿絵(By みてみん)



「もう、この光景を見られることはないかな……」



 私はそう呟く。

 体から急に力が抜けてくる。

 ああ、そうか。

 もう限界か。

 そう悟った。


 ひらりひらりと散っていく。

 朝顔たちが、私の目の前で散っていく。

 私の<夢>はこの朝顔のお花畑をいつまでも見ることができますように。

 その<夢>はもう二度と叶わない。


 もともと私は体が弱い子供だった。

 生きられてもせいぜい後一か月の命だと、お医者さんからも言われていた。

 だから。

 こんな私の命で、世界の流行り病が終息するなら安いものだ。

 こんなちっぽけな私の命で世界が救えるのだから、安い勘定だと思う。

 さようなら世界。

 また、会えるその日まで。


 ―――


 ガタゴトガタゴト……。

 私は何かに揺られていた。

 脇で誰かが、馬鹿みたいにわめいている。

 私の手を力強く握る誰かの手。



「自分はめでたく綺麗に散れて、めでたしめでたしって思うなよっ!!」



 その声の主は……。

 その聞きなれた声の主は。



「俺はなぁっ。刹花、お前に生きてて欲しいんだっ!!だから世界なんて関係ねぇっ!!」



 恥ずかしげもなくそう叫ぶ声の主は那直兄だ。

 私はうっすらとした意識の中で馬鹿っと小声でささやく。

 けれどその声は届かない。

 届きはしない。

 私の口には救命マスクが付けられていたからだ。

 でも、それで良かったのかもしれない。



「だから俺は願ったんだよっ!!!お前が元気で過ごせますようにってな!!!」



 本当に馬鹿なんだから……那直兄は。

 シスコンが過ぎるんだよ、まったく……。

 大好きだよ、那直兄……。

 そうして私の意識は遠ざかっていった。

ご感想・評価ブクマ本当にありがとうございます。

今後も★1でもブクマをぽちっとしていただければ嬉しいです。

そして本日は皆さまのおかげで日間55位まであがっています。

本当にありがとうございます。

今後ともよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ