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どんな願い事も叶えてあげる。~少女の紡ぐ人々の願い~  作者: 牛
第四章 あの日、見た。
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空に舞う。

 空を舞っていた。

 背に白い羽を生やして。

 私は私ではない姿で。

 空を踊るように飛んでいた。

 薄暗闇に舞う蝶々のように。

 そんな夢を見ていた。


 ふと眼下を見ると森が広がっていた。

 緑の生い茂る森の中で、二人の少女と一人の少年が笑いあって食事をとっていた。

 微笑ましい光景だな。

 純粋にそう思った。

 私の世界もこんな世界なら良いのにな。

 今はこうして集まることすらできやしない世界。

 密集、密接したらいけない世界。

 これが私達の今の世界の姿だ。


 だから正直羨ましかった。

 その光景が。

 けれどその光景はやがて歪に歪んでいき。

 二人の少女が闇の底へと飲まれていった……。


 ……。

 そして

 パッと目が覚めた。



「……なんなん、この夢」



 目を覚ました瞬間、私はそう呟くことしかできなかった。

 正直わけわからん。

 どっからツッコミを入れれば良いのか、よく分からない夢だった。

 まぁ中盤の仲の良いお友達同士で仲良く食事の件は、今の三密が禁止されている世界に対する不満の表れなのだろうなと分析できるのだけれども。

 その他の女の子が空を飛んでたり、女の子が闇に飲まれるとかワケわからん、マジで。

 うーん……ゲームや漫画の見過ぎかなぁ……。

 結論としてはそういう所に行きつく。


 とりあえず今日も朝顔さんを見に行こうかな。

 そう思いたちハンガーにかけた着物に袖を通す。

 うん。

 今日も良い着こなしだね。

 バッチリバッチリ。

 それじゃ、今日も元気に行ってきまーす。


 空はまだまだ薄暗闇で。

 朝靄の中、星々が瞬いている。

 遠くの空にはまん丸いお月様。

 そよそよと吹く風が着物の間から入ってきて肌に気持ちがいい。

 てくてく歩く事、数十分。


 目を覚ます前の朝顔さんたちにおはようを言いながら私はお花畑をのんびりと突き進む。

 そしてお花畑の中心地。

 ここが私の居場所なんだなって感じることができる。

 今この瞬間に私がいるこの場所が私の世界の中心で。

 はー……幸せだなー……。

 そう感じることができる。

 早くあんな疫病収まれば良いのに。

 そうすれば、私は大手を振ってこの朝顔畑に来ることができるのに。



「あなたの願い事、叶えてあげようか?」



 ふと、そんな声が響き渡る。

 誰だか分からない。

 けれど、何処か懐かしい声だと思った。

 声のした方を見つめると紅い洋服を着た少女が立っていた。



「あなたの願い、叶えられるよ。町はずれの館に行けばね」



 少女はクスクスと笑いながら私にそう告げる。



「私の願いが叶う……」



 普通に考えたら何を馬鹿なことを言っているのだと思うだろう。

 けれど、この少女にはそう思わせる事のない何かがあった。

 何故かその言葉を信じてしまう、そんな力強さがあった。



「本当に、私の願いが叶うの?」


「……うん。叶うよ。ただし、あなたの一番の<夢>を犠牲にしてね」


「私の一番の<夢>……」



 私の一番の<夢>は……。

 うん、この世界が救われるなら、捨てても良いかな。

 そう思う。

 その方が世界は幸せだ。



「私、行ってみる。町はずれの館にっ」


「そう。なら、早く行った方が良いよ」


「どうして……?」



 その疑問を投げかける前に少女はスタスタと朝靄の中へと消えて行った。

 代わりにその方向からドスの効いた声が聞こえてくる。



「ステイホーーーーーームっ!!!」



 げっ……。

 いつものマスクのおっちゃんだ。

 触らぬ神に祟りなし。

 くわばらくわばら。

 私は着物の裾をまくり上げるとスタスタと反対方向へと駆けだした。

 町はずれの館に向かって、一目散に。


 ―――


 何故か嫌な予感がした。

 変な夢を見たからだ。

 血にまみれた体。

 大事な人が空の彼方へと飛んでいく光景。

 闇に包まれていく少女達。

 正直訳わからん夢だと思った。

 けれど、これは何かの予兆だと思った。

 だから、俺は今日、こっそりと妹の後を付けていた。



「あなたの願い事、叶えてあげようか?」



 突然朝靄の中から現れた紅い洋服を着た少女は、妹にそう告げる。



「あなたの願い、叶えられるよ。町はずれの館に行けばね」



 少女はクスクスと笑いながら妹にそう告げる。



「私の願いが叶う……」



 妹は馬鹿が付くほどお人好しだ。

 だから、妹の願いなんてすぐ察しがついた。



「本当に、私の願いが叶うの?」


「……うん。叶うよ。ただし、あなたの一番の<夢>を犠牲にしてね」


「私の<夢>……」



 そんな無茶苦茶な話があるだろうか。

 一番の<夢>を犠牲にして、人の願いを叶えるだなんて。

 そんな無茶苦茶な話は、冗談だけにして欲しい。

 けれど、きっとこれは冗談なんかじゃない。

 そう思える言葉の重みが少女にはあった。

 だから、俺は妹に気付かれないようにこっそりと朝顔畑から離れて。

 町はずれの館に向かって駆けだした。


 妹が願いを叶える前に、俺が願いを叶えてやる。

 そんな訳の分からん事、妹に任せるわけにはいかない。

 妹の一番の<夢>を犠牲にすることなんて、できやしない。

 兄である俺が、願いを先に叶えてもらわなきゃいけない。

 それが兄のつとめだから。

 例え世界中の人間からシスコンと呼ばれてもかまわない。

 俺が、俺の<夢>を犠牲にして願いを叶えてやる。

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