<紅き黄昏>
その日から時空は完全に歪んでしまった。
もともと静空が時空を弄り倒していたのもあって、理がぶれにぶれていたのもあった。
そこに羽衣という人一倍魔力を持った"魔法使い"が、深淵を使って時空干渉を行った。
これで理は、完全に。
それはもうぐちゃぐちゃになってしまった。
血の様に紅いローブに身を包んだ少女は、水晶玉に映ったうなされるように眠る<小さな星>をぼんやりと見つめる。
紅いローブの少女の名は<紅き黄昏>。
「<小さな星>。あなたは覚えているのかな」
私とあなたが同じ学び舎で"魔法使い"として切磋琢磨したことを。
私とあなたが親友だったという事を。
そして私が挫折し、深く絶望したことを。
「<小さな星>。あなたは覚えてはいないかもしれないけれど……」
ぼんやりと水晶玉を見つめながら<紅き黄昏>《カーマイン・サンセット》は呟く。
「あなたは自分の『願い』を叶えられないと思っているようだけれど。それはあなたの真の『願い』ではないから」
あなたの願いは『天使』になりたいという願い。
「あなたの『願い』はね。叶ってしまっているんだよ、本当は。この世界の理を犠牲にしてね」
だから世界はぐちゃぐちゃになった。
歪な形の具が大量に入ったスープのような、ぐちゃぐちゃな世界になってしまった。
人は同じ運命を繰り返し、"魔法使い"もまた同じ運命を繰り返す。
世界も同じ運命を繰り返し、同じ終焉を迎える。
全ての事象が、永遠のメビウスの輪に囚われてしまった。
<紅き黄昏>……彼女には、願いを叶える力はない。
だから利用することにした。
稀代の天才"魔法使い"の羽衣の力を。
自身の記憶を全て失ってしまった<小さな星>を。
彼女なら<紅き黄昏>の願いを叶える事ができる。
基本的に"魔法使い"は"魔法使い"の願いは叶えることができない。
けれど<小さな星>は<小さな星>の願いを叶えてみせた。
だから、せいぜい私の手の上で踊ってちょうだいな。
水晶玉の中の<小さな星>を見つめながら、<紅き黄昏>は薄ら笑いを浮かべていた。
あの日、あの村で、業火に包まれた中で立っていた少女の様に。
―――
空。
真っ青な空。
ここは空の上だ。
真っ白な雲と真っ青な空以外、何にもありはしない。
ほんとになーんにもありやしない。
あるとすれば綿菓子のような真っ白な雲ばかり。
真っ青な空の上でぼんやり思う。
私の願いは『歩を救う』ことだったはずだ。
それが何で私は『天使』なんかになっているのだろう?
まぁ結果的に歩は生き返ってピンピンしているのだから、結果オーライともいえるのだけれど。
しかし、もうこの空にやって来るのは『何度目』になるんだろうね。
私は何度も『歩を救って』、何度も『歩に連れ戻された』。
もう何度<小さな星>に願いを叶えてもらったか分からない。
私は歩に連れ戻されるたびに、歩にはもう連れ戻すのは止めてと伝えたけれど。
歩は全然分かっちゃくれない。
「あーーーーーーっ、もうっ。ぜんっぜんっ、わっかんないなぁーーー!!!」
誰もいないのをいいことに、私は超絶大きな声で叫ぶ。
私の願いを叶えた<小さな星>が、何を考えているのか。
『取り戻さないで』と何度も歩に願うのに、私を取り戻そうとする歩の『気持ち』も。
そして……これから私はどうすれば良いのか。
普通の人間だった私には理解のしようがなかった。
理解できるはずもなかった。
はぁ……。
まぁ今日も暇だし?
とりあえず下界の様子でも観察してようかな。
今朝も歩も母もしおりも元気だったし。
たまには別の世界の人のことをのぞき見しよう。
天使になって使えるようになった力が一つあるのだ。
『千里眼』。
それはどんな世界の、どんなことも見渡せて、どんな人の心を推し量れることができる優れものの力だ。
便利だなー、天使って。
そんな訳で、私はなんとなく目についたその辺の一人の少女の行動を観察することにした。
これは、疫病の蔓延する世界の。
一人のちょっと変わった少女の物語……『あの日、見た』。
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明日は閑話と第4章を公開予定です。お楽しみくだされば幸いです。




