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赤毛の戦士長1

全ブリタニカで最も強い男はだれか?

という問いかけがあるなら、彼がその答えの一人だろうと人は言う。


常に最前線で戦うためにいる、スコットランド王国騎士団における「王の剣」

彼らは最も強く、最も勇敢な戦士たち。

厳しい訓練の元に結束する恐れ知らず。


22歳にして一番隊の隊長となった男。

赤毛のファーガス。


半年前から続く、スコットランド西部の治安維持任務について盗賊、山賊と征伐してきた。

曰く「不死身」

曰く「巨人の息子」


並外れた筋力と体力、それに大抵の武器を使いこなす。

上からも下からも信頼の厚い戦士だ。


彼はアビィと同じ街で生まれて育った幼馴染である。

彼が駐屯する城の一角へと向かった。


「もう話は通してありますからね。」

いつも通りの和やかなほほ笑みで灯糸に話しかけた。


「初めまして、王の剣所属のトマスです。

といっても事務方ですが。」

少し小太りの中年がやってきてにこやかに握手を求めた。


「戦士というわけではないので、訓練メニューは別ですが

乗馬と剣術の訓練を担当いたします。よろしくお願いいたします。」


灯糸は内心安心した。「王の剣」などという大仰な名前の舞台で

とんでもないしごきに合うのではないかと恐れていたからだ。


「ひとまず訓練の説明と準備体操から始めましょうか」

トマスの説明と体操は気楽なものだった。

事務方だけあって戦士特有の血の気があまりないようなところがあった。

これなら継続しやすそうだと思った。


しばらく休息をはさみ、実際に剣術を指南してもらうことになった。

だがその前に。

「まずは東洋の剣技の見せていただきたい。木剣を選んでもらいましょう。」

そうして倉庫に案内された後、たくさんの種類の訓練用の武器を見せられた。

「おそらく東洋の剣はここにはないでしょう。

似たような使いやすいものを選んでいただきたい。」


ハルバード、バスタードソード、弓矢やマスケット銃まで置いてあった。

長さから考えてロングソードあたりだろうか。レイピアは少々細すぎる。

竹刀や日本刀に近いとは言えないが、ショートソードはリーチが短い。

(これで剣技なんてできるんだろうか)



「気楽にしていただいていいですよ。あなたのお相手は訓練生。実践経験もありません。

あなたの国の剣術について見せていただきたいだけですから。」

トマスからは感じの良さがにじみ出るかのようだった。


(むぅー。とりあえず剣道のテクニック披露するぐらいでいっか。というかそれで通じるのか?

平和な日本のいわば儀式的な剣だしなあ。訓練生とはいえ実践向けのトレーニングをしているはずだし。)


ロングソードを手に取り、木製の鎧を身に着ける。

盾は使わない。

ただでさえ竹刀より重いロングソードを扱うのだし、盾を使った経験などない。


屋外の一角のトレーニング用の場所に行き

まだ可愛らしさの残る栗色の髪の少年と対面した。


ショートソードに盾というオーソドックスなスタイルであった。

「よろしくお願いいたします。」

「ああ、お願いします。」

トマスがしきり構えさせる。


(剣道の試合と同じようにすればいい。それ以外はできない。

構えもすべて公式の試合と同じ。小手を狙って相手の武器を落とさせ

面を寸止めする)


念仏のように心の中でそのパターンを唱えた。


「ギブアップをするか、こちらが止めるまでが試合です。いいですね?」

「それでは、はじめ!」


灯糸は剣を構え、心の中で何度も唱える。


(小手、面寸止め、小手、面寸止め、小手、面寸止め、小手、面寸止め)

(小手、面寸止め、小手、面寸止め、小手、面寸止め、小手、面寸止め)

(小手、面寸止め、小手、面寸止め、小手、面寸止め、小手、面寸止め)


勝負は一瞬だった。盾を全面に出して機をうかがう少年に対して、灯糸は剣を上げ胴を空ける。

「隙だらけのかまえじゃねえか。」

「姿勢も体制も全然なってねえ。」


周囲で見ていた兵士達が


それをチャンスと見た少年兵はショートソードで灯糸の胴に打ち掛かる。

灯糸は一瞬で小手を狙い、少年の右手を打ち付けた。

思わず剣を落とす。

さらに追撃の面を寸でで止めた。


「おぉ」

トマスが感嘆の声を上げた。

「勝負ありですね。戦場ならほぼ死を免れ得ない。実に面白い剣術だ」


「ありがとうございました。」

少年はうやうやしく礼をした。

「あ、いや。てかオレ年上だし、気にしなくていいからな」

とは言ったものの、少年の顔は今にも泣きだしそうだった。


「気に入らねえなあ」

灯糸の後ろで大柄の男がつぶやいた。

「最初から剣を落とすことだけを考えてやがったな。」

戦士長のファーガスだった。


「よう、東洋人。俺と勝負しろ。」

全身から闘志があふれ出るようであった。


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