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ステュアート家の王女


衛兵と灯糸は別塔に向かっていった。

そこで中に案内された。


「我々はここまでだ」

衛兵はそういって、灯糸は侍女に渡された。


「ここは王女アン・ステュアート様の部屋になります。

粗相のなさらぬように。」


(王女?一体どういうことだ)

すでに衛兵たちによってボディチェックはなされていた。


煌びやかに装飾されたドア。

金のメッキか、それとも純金で作られているのか

テーブルも、燭台もキラキラと輝いている。


「レナたちははずしてください」

一礼して二人の侍女たちは部屋から出て行った。

王女はこちらを振り向いた。

長いつややかな黒髪、透き通るような白い肌、蒼い大きな瞳

以前も見た顔だった。謁見の日は遠くで分からなかったが、確かに会ったことがあった。


「浜辺まで散歩して以来ね」

「えっと、アンナ・リトルハート、さん?」

街中で物珍しさに近づいてきた、織物商の娘を名乗る美少女だった。


「驚いたかしら?heat君?」

「あんた、王女だったのか!」

「大げさでしょ?王家って」

開いた口がふさがらないとはこのことだろうか。

どんな言葉を出せばいいのかさえわからなかった。

ただ落ち着かなかったのだ。

とっさに思い出したように跪いた。


「楽にしていいのよ。椅子にかけて」

王女はほほ笑んで椅子を差し出した。


「たまにね、お城だとか宮殿を抜け出してこっそり街中を歩いたりするの。

王家とかお作法とか忘れて、一人で街中を見物するの。

その時が一番自由って気がするから」


彼女の瞳に影が見えた気がした。


「あの…それで、今日は何のご用件でお招きいただいたのでしょうか?王女様」


王女は頬を少し赤らめて、うつむきつつ視線をそらしながら言った。

「えっ…と。その、なんていうか。友達になってもらいたくて。」

「は?友達…ですか。」

さらに王女は耳まで赤らめる。

「だから!そういってるじゃない!たまにでいいの!

街中とかで気軽に話せたりするだけでいいの。

だから…ね?」


「いや、あーっと。いいんですかね、僕は下級役人みたいなへぼい立場なもんでして

高貴な王女様と歩いたりするのはなんというか、その」

しどろもどろになってまごついていると、アン王女は厳しい口調になった。


「お、王女の命令です!あなたは今日から、私の、友達よ!」

「は、はぁ」

「今日はそれだけよ。呼び出して悪かったわね。」

「そんなことはないですが。」

「あと、街中で会うときはよそよそしい態度は厳禁よ!」

「ですが、王女様、立場的にそれは困るというか…」

「命令なんだからね!レナ!!」

呼び鈴を振ってドアの外にいる侍女を呼び出す。

「お客様がお帰りよ。」


侍女のレナは灯糸を外まで案内した。


一人になった部屋でアンは考えていた。

仲のいい友達がいないわけではないが、それは貴族などのつながりの中であり

不自由な生活を強いられていた。


ありとあらゆる人々が彼女が王家の人間だと知ると老いも若きも頭を垂れた。

窮屈でならない王宮生活、歳を重ねるごとに感じ始めた孤独。


そんなとき、彼女が東洋の船が難破してただ一人スコットランドに流れ着いた男の話を聞いた。

全く違う国で違う言葉を話し、違う歴史を持った若者。

(きっと独りぼっちで寂しいんだろうな)と王女は思った。

(私みたいに孤独なのかな)


そうして会いに行ったのだ。

予想通り見た目も、話し方も、この国の人々とは違っていた。

彼女は孤独をシェアできるような気がしたのだ。

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