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国王謁見

さらにひと月ほど経った頃、アビィが灯糸のところにやってきて

レクチャーしなければならないことがあると告げた。


「端的にいうと、国王謁見の機会があるんだ。

アバーフォイルという地域で根城を張っていた盗賊の討伐をしてきた

軍の一部隊がエディンバラに戻ってきた。」


灯糸は街中で規則正しく歩く軍隊がエディンバラ城に入っていくのを見たことを思いだした。


「それで、労いの言葉だとか功績の評価のようなものを国王が行うわけで

僕らのような官僚も参加して国王のお言葉を拝聴するというわけなんだが

儀礼的なことだから君に教えておこうと思ってきた。

初めてだろうが大したことじゃない、頭を下げたり跪いたりするだけ。

僕たちが直接国王とやりとりすることはないしね。」


彼はいつも通り明快に、微笑を絶やさず説明した。


「わかった。それでいつ謁見があるだ?」

「次の金曜日だよ。謁見用の服とかも用意している。

気楽にやってくれ」


そもそも国王がいるということが映画のような話だ。

現代でも国王がいる国はあるが、少なくとも日本ではないし

天皇陛下なんて謁見する機会を持てる人はほとんどいないだろう。


アビィが去ったあと、シェイクスピアの本を開いて読んだ。

ロミオとジュリエットであったが、彼の頭ではアンナ・リトルハートのことが浮かんでいた。

(服飾品を売っている商人の娘だったか。また会えるだろうか)



そして次の金曜日に、エディンバラ城内の大広間で謁見が行われた。

軍人と官僚がそれぞれ並び、官僚側の一員として灯糸も跪いた。


王ジェームズ2世は体調が優れないらしいと聞いた。

重病ではないが、万が一の事を恐れて仕事量を減らしているらしい。


とはいえ半年ぶりに治安維持の仕事から帰ってきた部隊を労わないわけにもいかずこの謁見が開かれた。


大げさな宣言や厳めしい鎧に身を包んだ戦士たちに伝えられる褒章の言葉

彼はその舞台のような空間をじっと見ていた。

不意に視界の端に見えた女王。

きらびやかなドレスに身を包んだ黒髪の束ねた若い王女。


(以前も見たことがあるような…)

彼は遠くにいるその殿上人に見とれていた。


彼女の小さな姿は巨体にさえぎられた。

治安維持の中心的な役割を担った部隊長が王の前で跪く。

2メートルはありそうな巨体に、逆立った燃えるような赤髪。

鎧の間からもはっきりと見て取れる鍛え抜かれた筋肉。

彼こそがこの謁見の主役であった。


ともあれ何事もなく王の謁見は終わった。


大臣クラスの閣僚や、軍人のトップやらがティータイムにはいり

下っ端役人である灯糸や副官レベルのアビィは別室へと移った。


「謁見の感想は?」

アビィがにこりと笑う。

「なんていうか、異文化って感じかな。」

「日本にもこういう儀式はあるんだろう?」

「あるにあはあるけれど。まあ全然違ったものだよ」

「そうか。僕たちもティータイムといこうか」


2人は有象無象の来客が利用する大部屋で紅茶を飲んでいた。

「そろそろ、英語も慣れてきただろうし、英語でシェイクスピアも読めるようになったんだろう?

本格的に仕事をしてもらうつもりでいるんだ。」

「そうれはありがたいな、本と散歩の暮らしは退屈だ。

どんな仕事だ?」

「東洋の歴史について知っている限り書き記してほしいんだ。

特に軍の技術や、医療、教育など。この国でも参考になるかもしれないからね。」

歴史書の編纂は良いが、どこまで未来の知識を避けるべきなんだろうかと思った。


そんな時、二人の衛兵がやってきた。

「あなたがHeat君か。」

「ええ。そうですけど」

「少し来てもらおう」

アビィが衛兵2人をちらっとみて割って入った

「一応のところ、彼の上司というか監督役なんですがね、正式な。」

(王家の側近か…。なんの用だろう)

「承知している。理由は聞いておらん。ただ連れてこいと命ぜられている。」

衛兵の一人がそういった。

「俺一人でいいのかな」

「そうだ。」


「なんだかしらねーけど、お呼びだから行ってくる。また後でな」


アビィは黙って目を見つめた。

そして灯糸は衛兵に連れられて行った。


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