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1681年

1681年

それが彼がやってきた時代だ。

そのことを知った後、自分の脳をフル回転させて1600年代以前の日本史を

思い出せるだけ思い出した。


英語の勉強の合間をみつけては、書き留めた。

このところ少しずつだがアビィからの事情聴取が再開されている。

一体なぜここにるのか。


少なくとも東洋から目的があってブリタニカの地までやってきているはずだ、と。

今の灯糸は2か月さんざん考えた結果、

江戸の幕府内で歴史を編纂する職務についている官吏ということにした。

日本史は彼の得意分野。イギリス人たちに信じさせる知識量ならある。

彼はなぜここに来たかの設定を練りこみ続けた。

自分は17世紀日本の官僚の一人であるという設定を。


「どんな感じなの?あなたの国」

「そうだな、まず建物が全然違う。俺の国はだいたいが気で作られている。

石は城なんかには使うが、一般市民はみんな木造りの家に住んでいる」

「へえ、弱そうね。すぐ燃えるじゃない?」

「うん。火には弱い。だから僕のいた江戸の町は時に大火事でたくさん人が死ぬ。

それにこの国に比べればもっと暖かい国だよ。」

「ふーん」


海岸線まで数キロを休みなく歩いているのにもかかわらず

彼女は息一つ切らさない。この時代の人はそういうものなのだろうか。

少なくとも現代人に比べて不便な暮らしなので、体力がつくのかもしれない。


街の構造から、気候、エンターテイメントまでいろいろととめどなく話した。

「今度は君について教えてくれよ。何して暮らしているんだ?」

アンナの目線が泳ぐ

「あ、あたしは、おうじょ、いやその、エディンバラの西で、えーと。商人の娘で、その」

(まいったな。あたしのこと聞かれることを考えてなかった)

「いろいろ売っているの。パパが。絹織物とか、羊の毛側とか」

「へぇ。織物商か。道理で他の市民よりいい服を着ていると思った」

「ま、まあね。てゆーか、そろそろ浜辺に近づいてきたよ。」


空が広いな、と灯糸は思った。高層ビルの一つだってない。

道も石畳か土で作られており、のどかそのものだ。


山や急な坂もあまりない。平坦な平原に緑豊かな草原。

少し離れたところに、台地のようになっている小高い丘がある。


流れついた浜辺にたどり着いた。特に何かが起こりそうな気配はない。

静かな海だった。


「どうしてこんなところに?」

「もしかしたら一緒に船に乗っていた仲間や積み荷があるかと思って」

この時代の設定にしたがってサラッと嘘をつく。


(やはり都合よく光の柱が表れて元に戻るなんてことはないか)

がっかりしたような、想定通りだったような複雑な心境だ。


「どお?」

「ただの海だな。」

「ふふ、変な表現ね。そりゃ海っしょ」


なぜだろうか彼は胸騒ぎがした。

本当に元の世界にもどれるのか。

大したことのない人生だったとはいえ日本の生活が恋しい。


「ま、仕方ないか。」

「帰るの?」

「ああ。満足したよ。何か流れてきたら、漁師が拾ってくれるだろ」


広い地平線を見ながら、感傷に浸った。

都会暮らしの灯糸には久しく雄大な自然だった。


「君はどうするんだ」

「有名人に会えたし、今日の用事はとりあえずこなしたって感じかな」

すたすたと歩きだした。

「一人で帰るのかよ。危なくない?」

「大丈夫。近くの叔父さんに会いに行くから、お城の方まではいかないの」

そういうとアンナは軽やかに港町の方へと歩いて行った。


(一体なんだったんだ、あの少女は)

あれほどの美少女と話したのは初めてだった。


「俺も戻るか。」

もう一度海を眺め、何一つ日本の影が見えないことを感じた。


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