赤髪の戦士長2
おろおろとトマスが止めに入る
「戦士長殿、彼は文官ですよ。外務省の歴史編纂担当なのです。
戦士長殿のような歴戦の猛者とは比べ物になりませんよ。
ケガをさせるだけです。」
「かまわねえだろうが、ハンディキャップはやるよ。
俺は鎧も武器も使わねえ。丸腰で相手してやる。
おまけに左手も使わない。
それにこの男には模造刀じゃなくて真剣を使わせてやる。
それでいいだろう?」
大きい目でトマスと灯糸を交互に睨みつける。
トマスはうろたえながら灯糸を見た。
「しかしですねえ…」
「いいよ。やるよ。」
しどろもどろのトマスを尻目に灯糸が制止する。
「それだけハンディをくれるのに逃げるのは男らしくないからな。」
「いいのですか。」
「大丈夫。戦士長殿、こっちは本当に真剣を使うよ。本当にいいの?」
ちょっと灯糸は気がひけた。
「ははっ、かまわねえ。殺す気で来い。殺してもいいんだぜ?できんのならな!」
ファーガスの体からまるで闘志のオーラが見えるかのようだった。
トマスと灯糸は倉庫に行き、武器を選んだ。
「戦士長殿の強さは素手だとしても恐ろしほどです。
訓練生とはいえ文官にしてやられたのが相当気に障ったようです。
ヒートさんが勝った訓練生は15歳の中では筋のいい少年でしたからね。」
(木製のロングソードは重すぎなくてよかったけど
金属になると振れないぐらいの重さになるな。
かといってあの筋肉を木製剣でぶん殴っても止めれそうにないしな)
灯糸は迷った。
(金属で殴れば動きを止めるぐらいできそうだけど
重くてうまく振れないなら論外だしなあ)
結局灯糸は本物のレイピアを手にした。
細さ、長さ、重さどれをとっても竹刀と扱いが一番近い。
これなら突きをメインにして戦士長と戦えると思った。
外に出でて訓練場に戻ると、すでにファーガスがやる気満々と行った雰囲気で待っていた。
トマスが二人の間に立つ。
「殺す気で行ってもいいんですよね?」
灯糸が再度確認する。
「おー、もちろんだ。俺が死んだらテメエが戦士長だ。」
絶対にないとでも言いたげだった。
(精神の集中だ。このレイピアで相手を突き殺す。
それだけをイメージするんだ。ここは日本じゃあない。
長い夢の中かもしれない。殺したらショックで戻るかもしれない。
そう、冗談みたいなもんだ。)
構えを整え、レイピアに意識を集中させる。
(眉間に突き、眉間に突き、眉間に突き
眉間に突き、眉間に突き、眉間に突き
眉間に突き、眉間に突き、眉間に突き
眉間に突き、眉間に突き、眉間に突き)
「お二方ともよろしいですね?それでは、はじめ!!」
灯糸は一瞬で踏み込んだ。ファーガスの眉間をめがけて突きを放つ。
ファーガスは2メートルの巨体を地面スレスレまで落とし、瞬時に地面にへばりついたかのようになった。
その際、灯糸が放った突きはファーガスの左眉の上をかすめた。
(いい突きだ!なんの躊躇もなく俺を殺しに来た!だが…)
左手を後ろに組みつけたままのファーガスが右手で灯糸の左足をつかんだ。
そしてそのまま、まるで木の棒でも振り回すかのように、上空へと投げつけた。
数回転して地面に叩きつけられた灯糸は気を失った。
「うおぉぉ!」
不安そうに見ていた兵士達が声を上げる。
トマスが言わんこっちゃないと言わんばかりの表情で灯糸にかけよる。
「やるじゃねえか!正確無比のいい突きだ。俺の反射がとろけりゃ死んでたな。
って聞こえてねえか…」
トマスが兵士と一緒に医務室に灯糸を運び出す。
遅れてきたアビィがファーガスに近寄る。
「はぁー、偉いことしてくれたねえファーガス。彼は僕の部下だよ?」
「わりいな、アビィ。ちっとばかり本気になっちまった。」
この二人は同じ村出身の幼馴染だ。
ファーガスは小さいころから巨漢の怪力、アビィは村の誰よりも物知りの俊才だった。
「だけど、久々だねえ。半年ぶりぐらいかなあ?」
「賊退治に西の方に行っていたからな。」
ファーガスはグラスゴー近辺に出没する山賊、盗賊の部類をしらみつぶしに退治する任務についていた。
「無事に帰ってこれて良かった」
「俺が死ぬわけないだろ。ところでお前の部下の東洋人。見慣れない剣技を使ってやがる。
おもしれえから王の剣に入れられねえか?」
「帰ってきて早々引き抜きの話とは。彼は今東洋の情報を編纂する任務についているんだ。
強い男ならたくさんいるだろう?スコットランドの国力強化のためには海外の知識が必要だよ。」
「くそー。やっぱダメか。おもしれえ剣術なんだがなぁ」
ファーガスはすっかり灯糸が気にいった。
最初は武器を叩き落とす卑怯者かと思ったが、ファーガスと対峙したときの集中力
躊躇なく殺しに来た切り替えの早さに感銘したのだ。
殺せと言われてできる人間はなかなかいない。
しかも城内の試しあいにすぎないときにだ。
戦士向きだな、と彼は思った。
「つもる話もあるだろう?今夜でも飲みに行こうよ」
「忙しい将来の大臣様に誘われたんじゃあ、断れねえよなあ」
2人は笑った。
「それじゃあ、僕は君が吹っ飛ばした男を見にいくよ。」
「よろしく言っといてくれよ。」
アビィはどこか上機嫌に医務室へと向かっていった




