入江悠監督『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』
入江悠監督は観る以前から気になる監督だった。僕が好きな作家・高橋源一郎が彼の作品である『SR サイタマノラッパー』のことを高く評価していた。
(#187 青 春 は サ イ タ マ か ら 2010-10-10 号
http://www.mammo.tv/column/genichiro_takahashi/20101010.html)
文学の至極とも言える作品を生み出す(近著である『「悪」と戦う』には感激した)高橋源一郎が考えさせられたと言うぐらいなのだから、作品としてとても面白く、文学を感じるものなのだろうと思っていた。「ダサい」と言われる無名のサイタマのラッパーが主人公というあらすじに、僕は既に文学を感じていた。(観てもいないのに。)
一方、神聖かまってちゃんのやっていることも文学である。The Smithsに通じる、社会の中で明に暗に虐げられている者を歌う歌。中絶させられそうな胎児を歌う『海老の世界』から、歌うことが生きることであるニートを歌う『いかれたNeet』、超ブサイクに生まれた男子女子を歌う『制服b少年』まで、扱う人間も幅広い。文学が近くに遠くにいる人にドアをまたがずに会いに行ける魔法だとしたら、神聖かまってちゃんはアヴァンギャルドな文学である。
入江監督が神聖かまってちゃんを題材にして撮るこの映画は、だから、前から観るのを楽しみにしていた。遅ればせながら、今日、やっと観たのである。(今まで観ていなかったのは、私が怠惰であるため。)
『劇場版 神聖かまってちゃん』は、「三十路、子持ち、離婚の崖っぷち! ~闘う母と息子篇~」,「恋と将棋、どっちをとる? ~青春まっしぐら篇~」,「10年後も生き残れるか!? ~音楽業界はつらいよ篇~」の三つのシチュエーションが同時進行する群像劇である。
神聖かまってちゃんの大舞台である渋谷AXでのライブの一週間前から物語は始まる。
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~闘う母と息子篇~
保育園生がパソコンで神聖かまってちゃんを聴いている!? そのことにまず驚き。保育園生がパソコンを保育園に持って行っている!? んなバカな。
設定がアリエナーイと思うのだが、映画を観進めるにつれて、リアリティを帯びてくる仕様。
周りの保育園生と一緒に「芋虫さん」を合唱したら、そりゃあ保護者を交えて大問題になりますよ。歌詞が「死にたいな 生きたいな どっちでもいいや」だもんね。それでもロックンロールで生を選び取っている神聖かまってちゃんという文脈を知らなければ、ただの変な歌だもんな。
「闘う母」も森下くるみが好演。昼は清掃、夜はショーガールとしてあくせく働き、子供と二人での生活費を稼ぐ。父親はチョーテキトーな人物で現在別居中。森下くるみは元AV女優だけあって、ショーガールのシーンは色気たっぷり。日常のシーンも、愛想がなくて殺伐なほどまっすぐな女性をリアリティ持って演じている。
~青春まっしぐら篇~
囲碁だとちょっとインテリだもんね。将棋はもっとカジュアルだから、将棋指しという自分の人生を選び取る女子高生、友達とネイルアートも楽しんだり、という人物設定と親和性がある。この女子高生を二階堂ふみが好演。芯が強そうな人物にはっきりと見える。芯が強いけれど、恋やこの後の人生のことで激しく揺れ動く様がくっきりと見える。
この女子高生、彼氏のことが嫌いになったのに、彼氏が薦めた神聖かまってちゃんからは離れられない。音楽の強い力だ。
将棋指しの女子高生のお兄ちゃんが顔も一度も出てこないけれど、この作品の鍵となる人物なんだな。ちょっとベタな感じもしたけど、ラストシーンには本気で涙出た。そして、エンドロールのあの歌ね。おっと、これ以上はネタバレになるから言えないぜ。
~音楽業界はつらいよ篇~
真剣にやっているように見えてほぼギャグ。わざとやっているのか演技がクサい堀部圭亮がコミカルに映る。実在するマネージャーの剱さんをそのまま映画の役者として出しているところがミソ。この映画のドキュメンタリー性を引き出している。かまってちゃんのマネージャーということで、人一倍苦労も多いだろうけれど剱さんには頑張ってほしいな。
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最後のライブのシーンの盛り上がりと合わせて、この3篇のそれぞれの主人公達が自分の人生を強く選び取っている様が、クサすぎず素っ気なくもない、ほどよい演出で感動的に描かれている。
かまってちゃん好きにもそうでない人にもお勧めです。駅前のTSUTAYAさんにも置いてあると思うので、ぜひ借りて観てみてください。(僕も地元のTSUTAYAさんから借りました。)




