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神聖かまってちゃん『団地テーゼ』(2025年)

●鮮やかなホーリーポップス


今年初めての『とかげ日記』記事は、神聖かまってちゃん、5年ぶり11枚目のオリジナルフルアルバム『団地テーゼ』のレビュー。少女が寂しげにこちらを振り返る、淡い切実さを感じさせる印象的なジャケットは"の子"の希望でアーティスト "くらやえみ" の作品を起用したデザインとなっている。


「団地テーゼ」 全16曲

01.墓

02.死にたいひまわり 

03.夜のブランコ

04.僕の戦争

05.卒業式 

06.カエルのうた

07.このバトンを海に思いっきり投げて

08.ヨゾラノ流星群

09.全世界のカスどもへ乾杯

10.魔女狩り feat.GOMESS [ 団地テーゼver ]

11.スノーボードしようよっ

12.プシ子の手紙 

13.最果てフィールド 

14.雨あめぴっちゃんの歌

15.後ろの花火

16.1999年の夏


それでは、早速一曲ずつ見て(聴いて)いこう。


#1「墓」。

タイトルがインパクトありすぎ。歌詞も「遺書を書く」というフレーズが繰り返される斬新なもの。しかも一曲目。神々しいまでの神聖さがまぶしく光って鳴りやまないっ。天国へ連れていってくれと願っているのか。


#2「死にたいひまわり」。

「パパ」から「ママ」への暴力、クラスでの孤立。歌詞で歌われているのはまさに「死にたい」状況。かまってちゃんはこういう救いのない状況と手詰まりな心象風景を鬱的なサウンドで描くのが得意だ。


#3「夜のブランコ」。

3拍子で紡がれるホーリーで不可思議な世界観が僕らを曲の世界へ連れていってくれる。「ベルセウスの空」と比較する向きもリスナーに多かったけど、音の抜けの成熟具合が段違いだと思う。しかし、音が精錬されていても、神聖かまってちゃん印のカオスな魅力は減衰していない。


よく、の子が自分で作るデモMVは外部の製作者が作ったMVと比べ、比較にならないほど素晴らしいという意見がネット上では散見される。そうした世間の風向きの中、の子以外の作者が作った本曲のMVについては、賛否両論あったけれども、僕は支持する。夜に孤高にたたずむ少女の聖性と浅いプールに浸かるような生命の刹那がみずみずしく表現されている。(ちなみに、外部製作者が作ったMVで僕がもっとも名作だと思うのは、山戸結希監督『ズッ友』MVです。)


#4 「僕の戦争」。

『進撃の巨人』ファイナルシーズンOP主題歌で世界に進撃し、国籍問わず多くのリスナーを震撼させた本曲がついにアルバム収録!


1曲の中でヴォーカルに英語パートと日本語パートの両方があるのは、英語パートが世界情勢で、日本語パートが日々の日常のメタファーだと捉えることもできる。曲発表後、数年経ってウクライナ戦争や中東での紛争の泥沼に世界が翻弄され、連日Yahooニュースのトピックになったり、お茶の間のテレビでその様子が報じられるのを見ると、世界情勢から日常の日本語パートまでは地続きであると感じる。しかし、日本は日本語の殻に閉じこもって我関せず(日本列島は住民が島の外を出ることはないパラディ島か)という姿勢でいることに対しての風刺にも聴こえる。


#5「卒業式」。

「緑の長靴」のようにしんみりする良曲。歌の主人公は卒業式の夜に強盗殺人をしていたりするなど、ここでもかまってちゃん節が炸裂している。彼らでしかできない表現が尊い。


#6「カエルのうた」。

「あの子の顔をぶん殴り続けた」という歌詞には全く共感できないし、したくない。ただ、他のアーティストが書けない、刹那をとらえて暴力的なのが切実な無二の歌詞ではある。奥行きがある2ステップの良曲だ。軽快な打ち込みと出口の見えない絶望的な上ものとの重層性が光る。


#7「このバトンを海に思いっきり投げて」。

過去曲でいうと、「美ちなる方へ」のような、希望に満ちた名曲。明るく、かつディープな音の世界観はこのバンドの真骨頂。


#8「ヨゾラノ流星群」。

まず、MVがいい。過去曲でいうと、夜のロマンティシズムを感じさせる「オルゴールの魔法」を軽快な四つ打ちにした印象。高揚する明るいバイブスには、バンドが上向きの良い状態にあることを覚える。この曲の発表前にゆうのすけ君もベースで正式加入したしね!


#9「全世界のカスどもへ乾杯」。

skc流ポップの最高到達点! アル中な"の子"と全世界のカスどもである僕らの絆(乾杯)の音楽。メンバーの演奏も明るく軽やかだし、チーナの柴さんのバイオリンがいつもながら麗しくて涙。


本曲収録シングルのカップリング「夏のバンド練習っ」も良曲。過去曲でいうと、「リッケンバンカー」をさらに親しみやすく輝かせた印象です。セカオワのFukaseさんも言っていたけど、の子は夏の曲を作るのが上手いね。アルバムには収録されていないので(もったいない!)、ぜひ聴いてみてね!


#10「魔女狩り feat.GOMESS [ 団地テーゼver ]」

作詞はGOMESSラッパーとのこと。畳みかける言葉に勢いがあり、ひとつひとつの言葉に力がある。守備力というよりも、攻撃力にステータスを振り切った破れかぶれな力強さがリスナーの耳にソリッドに斬り込んでいく。


#11「スノーボードしようよっ」。

J-POPの名曲のようなキャッチーさがありつつ、アッパーなシューゲイザーという、神聖かまってちゃんにしか鳴らせない音楽性(まさにウィンタースポーツの世界観!)が素晴らしい。


#12「プシ子の手紙」。

まず、プシ子とは、何を指すのか。Yahoo知恵袋によると、以下のとおり。(このソースの他にも同様の記述がネット上にあったので事実だと思われる。)


『「精神病患者」という意味の「psycho」が語源。

「psycho」を英語ではサイコと発音しますが、ドイツ語やラテン語的に発音するとプシコとなります。』


うう、本作で一番苦手なサウンド…。「まいちゃん全部ゆめ」と同じくらい、僕にとってトラウマソングだ。でも、アルバムの中で異質に聴こえるこの曲は、全体を通して良いアクセントになっている。


#13「最果てフィールド」。

「コンクリートの向こう側へ」を彷彿とさせるスローで豊かな名曲。この曲に対して、「佐藤伸治が死ぬ直前のフィッシュマンズや!!!」という声がX上であったけど、本当にそう。


#14「雨あめぴっちゃんの歌」

ボコーダーで変声したボーカルの歌いぶりに一瞬一瞬のエネルギー(≒熱意)を感じる。「君はそうやって何かのせいにして生きている」という歌詞が最後のくだりで「君は生きている」となる箇所でアハ体験。僕らは(そうやって何かのせいにして)生きている。


#15「後ろの花火」。

R&Bとヒップホップから影響を受けているこの曲は、きのこ帝国でいえば「クロノスタシス」的な位置付けだろうか。チルな音楽性だし、普段は尖っていて特徴的な"の子"のボーカルも、リラックスしているように聴こえ、まったりポップの愉悦に浸ることができる。


#16「1999年の夏」。

歌い出しからラルクの名曲みたいな英詞の美しい歌メロと歌声の天使な裏返りに泣いた。その後も「さわやかな朝」(『つまんね』収録)みたいに、アルバムの収束に向かって物語が歌われていく。しかし、捨て鉢な『つまんね』(歌唱も「さわやか」というよりはヤケクソだ)の時とは違い、曲中のセリフを含めて本曲にはどこまでも真っ当な熱意がある。



さて、全16曲を見て(聴いて)きた。こうやってアルバムの全曲についての感想を書けるのは、収録曲のどれもが個性に富み、バラエティ豊かだからだ。どの曲を取っても同じに聴こえる金太郎飴のようなアーティストとは違うのだ。カメレオン俳優という言葉があるが、かまってちゃんはまさにカメレオンのように曲によって違う表情を使い分ける。しかし、どの表情も、"の子"と神聖かまってちゃんメンバーの生き様が刻印されている。


神聖かまってちゃんの楽曲をポップサイドとディープサイドに二分しようとすれば、本作に収められた曲は「ポップサイド」と「ディープサイド」を両立させた作品が多い。『英雄syndrome』や『ツン×デレ』収録曲のような日の当たる上向きなバイブスの曲の要素と、『つまんね』収録曲の音楽の深淵に迫っていくような作品性の両方を兼ね備えている曲が多いのだ。陽が射す天国のように明るくホーリーな音楽性とそれを高い感度で実現した『団地テーゼ』収録曲は、僕には邦楽史において(世界においても?)画期的に思える。


『団地テーゼ』というアルバム名は「アンチテーゼ」(ある主張に対してそれを否定する内容の主張)をもじったものだと思われる。これまでも、常識へのアンチテーゼ、常識的な音楽/文化へのアンチテーゼを音楽でもパフォーマンスでも表現してきた神聖かまってちゃん。中心人物である千葉ニュータウン出身の"の子"の出自から、「団地」という言葉は彼らに親和性(神話性)がある。音大出身のような音楽インテリでもなく、オシャレな都会シティでも、ビルの建たない田舎ガレージでもない、団地ニュータウン生まれならではの感性が鮮やかに本作には照射されている。


振り返れば、メジャーデビューからまもない2011年に神聖かまってちゃんを取り上げ、「町に僕のロックは流れますか?」と題したドキュメンタリーがNHK Eテレで放送された。それから幾星霜。大丈夫。あなたのロックは町では聴いたことがないけど、僕らリスナーひとりひとりの心には確かに届き、響いているよ。


Score 9.6/10.0

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